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42.黒と紫が好き
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たくさんの絵本があった。僕が知っている数はほんの少しで、この店の棚にびっしり入っている。どれがいいのか分からない。
「気に入った色や絵のがあれば教えてくれ」
腰にしがみついた僕の前に、有名な童話を中心に並べてくれた。見たことがある絵本もある。でもこれは知らない。黒と紫が入った絵本を見つけた。黒い髪の毛と紫の目、顔を上げると色の違うセティがいる。それでもこれは僕やセティの色だ。
「これがいいか?」
「うん」
「他にも買うからもっと選べ」
一度にたくさんの絵本が増えるの? 台の上に並べた本を眺め、棚の中の本を引っ張る。横から覗くとすごく綺麗な色だった。きらきらする色が入ってる。
「それが気に入ったか」
セティが当たり前みたいにその本を手にする。
「ずいぶん選ぶんだね。よければこちらにもあるよ、新作だ」
お婆ちゃんがにこにこしながら別の棚を教えてくれた。セティと覗きに行って、2冊選ぶ。戻ってきて、また棚の本を眺め始めた。セティは少し離れた別の棚を見ている。何冊か引っ張り出したから、セティが読むのかな。
「今日はこんなもんだ。読み終えたら別のを買ってやる」
今日はおしまい。セティがお金を払うところを眺めて、受け取った本を収納のお部屋に放り込んでいる。バッグに入れるんだけど、その奥がお部屋に続いてるんだって。人に見られないようにするのも、大変だね。
広い収納へ本をいれた後、お店を出ると1冊だけ引っ張り出した。黒と紫の絵本を渡され、本ごとセティに抱っこされる。
「明日は神殿に行って、そのまま街を出る。欲しいものがあれば、今のうちに買おうか」
「甘いの!」
「よしきた! 甘いジュースか、飴はあるしお菓子も買ったから、別の甘い物を探すか?」
「うんとね、紫のジュース」
屋台で別の子が飲んでいたのを見た。身振り手振りに言葉を添えて説明する。笑いながら聞いてくれたセティが、お店の前で足を止めた。ジュースがいっぱいある屋台だった。
「紫か?」
「うん。これ」
指差した瓶から、お店の人がコップに入れてくれる。自分で入れ物を出すとお金は1枚で、入れ物をもらうと1枚と1枚いる。セティは長い筒も渡して、別の色のも買った。全部で……1枚がたくさん。
「数え方は覚えた方がいいが、オレがいれば金の計算は出来なくていいか」
よく分かんない。でも教えてくれるなら、ちゃんと覚えるよ。頬擦りすると、店主がおまけだと言って小さな果物をくれた。
「あ、りがと」
小さな声になったけど、お礼が言えた。店主は笑ってくれたし、セティも褒めてくれる。近くの長い椅子に座った。セティは隣に座って僕にジュースを渡す。長い筒が刺さっていたので抜いて眺めていると、こうするのだと見せてくれた。
薄い色の筒をセティが吸うと、中が紫色になる。吸わないとまた薄い色になった。びっくりして目を見開く。
「やってみろ」
キスする時みたいに、少し口を尖らせて息を吸い込む。どこまで吸っていいのかな。ずずっと音がして喉の奥に甘いのが流れ込んだ。
「げほっ、けふ……っ」
苦しくなって咳をした。セティが布で顔を拭いてくれる。今日はストローという筒の使い方を聞いたけど、上手にできなかった。明日は出来るといい。失敗してもセティは怒らないし、殴らない。だからまた明日もやってみようと思えた。
「気に入った色や絵のがあれば教えてくれ」
腰にしがみついた僕の前に、有名な童話を中心に並べてくれた。見たことがある絵本もある。でもこれは知らない。黒と紫が入った絵本を見つけた。黒い髪の毛と紫の目、顔を上げると色の違うセティがいる。それでもこれは僕やセティの色だ。
「これがいいか?」
「うん」
「他にも買うからもっと選べ」
一度にたくさんの絵本が増えるの? 台の上に並べた本を眺め、棚の中の本を引っ張る。横から覗くとすごく綺麗な色だった。きらきらする色が入ってる。
「それが気に入ったか」
セティが当たり前みたいにその本を手にする。
「ずいぶん選ぶんだね。よければこちらにもあるよ、新作だ」
お婆ちゃんがにこにこしながら別の棚を教えてくれた。セティと覗きに行って、2冊選ぶ。戻ってきて、また棚の本を眺め始めた。セティは少し離れた別の棚を見ている。何冊か引っ張り出したから、セティが読むのかな。
「今日はこんなもんだ。読み終えたら別のを買ってやる」
今日はおしまい。セティがお金を払うところを眺めて、受け取った本を収納のお部屋に放り込んでいる。バッグに入れるんだけど、その奥がお部屋に続いてるんだって。人に見られないようにするのも、大変だね。
広い収納へ本をいれた後、お店を出ると1冊だけ引っ張り出した。黒と紫の絵本を渡され、本ごとセティに抱っこされる。
「明日は神殿に行って、そのまま街を出る。欲しいものがあれば、今のうちに買おうか」
「甘いの!」
「よしきた! 甘いジュースか、飴はあるしお菓子も買ったから、別の甘い物を探すか?」
「うんとね、紫のジュース」
屋台で別の子が飲んでいたのを見た。身振り手振りに言葉を添えて説明する。笑いながら聞いてくれたセティが、お店の前で足を止めた。ジュースがいっぱいある屋台だった。
「紫か?」
「うん。これ」
指差した瓶から、お店の人がコップに入れてくれる。自分で入れ物を出すとお金は1枚で、入れ物をもらうと1枚と1枚いる。セティは長い筒も渡して、別の色のも買った。全部で……1枚がたくさん。
「数え方は覚えた方がいいが、オレがいれば金の計算は出来なくていいか」
よく分かんない。でも教えてくれるなら、ちゃんと覚えるよ。頬擦りすると、店主がおまけだと言って小さな果物をくれた。
「あ、りがと」
小さな声になったけど、お礼が言えた。店主は笑ってくれたし、セティも褒めてくれる。近くの長い椅子に座った。セティは隣に座って僕にジュースを渡す。長い筒が刺さっていたので抜いて眺めていると、こうするのだと見せてくれた。
薄い色の筒をセティが吸うと、中が紫色になる。吸わないとまた薄い色になった。びっくりして目を見開く。
「やってみろ」
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「げほっ、けふ……っ」
苦しくなって咳をした。セティが布で顔を拭いてくれる。今日はストローという筒の使い方を聞いたけど、上手にできなかった。明日は出来るといい。失敗してもセティは怒らないし、殴らない。だからまた明日もやってみようと思えた。
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