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34.わかんないのが怖くて泣いた
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罰を与える――その言葉は聞いたことがある。僕がスープをこぼした時、白い服の人が口にした。叩かれて、蹴られて、すごく痛かったんだ。セティもそんなことするの?
口を開こうとして、まだ黙ってないとダメなのかもと口を閉じる。神様だから心で話しかけたら届くって言ってたよね。ねえ、僕を叩くの? 蹴るの? スープこぼしてないのに。
「落ち着け、イシス。いい子だ……」
額と目の上と頬にキスしてくれた。きゅっと握った手を持ち上げて、やっぱり唇が触る。これもキス? 罰を与えるんでしょ、僕……我慢できる。
セティを見上げるけど、何か出てきた。目の中からいっぱい、痛かった時に出てきた水だ。塩っぱくて、傷に沁みるやつ……。
「泣くな、オレはお前を傷つけたりしない」
傷つけないのは、痛くないのと同じ。知ってる言葉を頭の中で並べると、そっと髪を撫でてくれた。
「そうだ、痛くない。落ち着け」
こくんと頭を縦に振って、一度縮めた手を伸ばす。セティは痛いことしない。抱っこして欲しい。僕も抱っこするから。
「……タイフォン、さま?」
掠れた声に僕はびっくりした。忘れてたけど、ここは神殿だ。白い服の人がいっぱいいて、大司教って呼ばれた偉い人もいる。振り返って見るのが怖くて、セティの首に顔を埋めた。
「あの神殿の責任者と神父達を連れてこい。この子に関わった者は全て、だ。例外はない。足りなければ、お前達の命で補うぞ」
「畏まりました。すぐに手配いたします」
セティが低い声を出し、大司教の人がぺたんと床に平らになった。泣いたからかな、少し眠い。ごしごしと目元を擦る手を、セティが止めた。代わりに濡らした布で拭いてくれる。
大人しく目を閉じていた。背中に変な感じがして振り返ると、知らない人がじっと見ている。慌ててセティにしがみついた。今の人も白い服だった。
セティをとられたら困る。ぽんと背中を叩く手に息を吐いた。少し苦しい。大きく息をしたら楽になった。
「お部屋にご案内を」
「この子が嫌がる」
頭の上の会話を、ぼんやりしながら聞いていた。宿から移動するのかな。でも僕、宿の方がいい。だって白い服の怖い人いないから。
神殿は怖い場所。僕に痛いことするし、寒い。ここはセティに似合わないよ。温かいお風呂みたいな場所がいい。食べ終えた飴の甘さが口の中に残るけど、セティのキスの甘さの方が好き。ここを出たらキスして欲しいな。
目の上の蓋が落ちてくる。力が抜けて、ぽかぽかして……僕は眠いみたい。
「すこし寝ろ」
頭の上に温かい手が乗せられ、滑ってきて僕の目を覆った。途端に欠伸が出る。なんだろう、急に眠くなってきたけど。
がくんと後ろに倒れそうになった首を、セティが引き戻してくれた。セティの匂いを胸いっぱいに吸い込んで、黒髪を握る。両手をしっかり首に回した。
これで離れない……僕は、セティといっしょ。
口を開こうとして、まだ黙ってないとダメなのかもと口を閉じる。神様だから心で話しかけたら届くって言ってたよね。ねえ、僕を叩くの? 蹴るの? スープこぼしてないのに。
「落ち着け、イシス。いい子だ……」
額と目の上と頬にキスしてくれた。きゅっと握った手を持ち上げて、やっぱり唇が触る。これもキス? 罰を与えるんでしょ、僕……我慢できる。
セティを見上げるけど、何か出てきた。目の中からいっぱい、痛かった時に出てきた水だ。塩っぱくて、傷に沁みるやつ……。
「泣くな、オレはお前を傷つけたりしない」
傷つけないのは、痛くないのと同じ。知ってる言葉を頭の中で並べると、そっと髪を撫でてくれた。
「そうだ、痛くない。落ち着け」
こくんと頭を縦に振って、一度縮めた手を伸ばす。セティは痛いことしない。抱っこして欲しい。僕も抱っこするから。
「……タイフォン、さま?」
掠れた声に僕はびっくりした。忘れてたけど、ここは神殿だ。白い服の人がいっぱいいて、大司教って呼ばれた偉い人もいる。振り返って見るのが怖くて、セティの首に顔を埋めた。
「あの神殿の責任者と神父達を連れてこい。この子に関わった者は全て、だ。例外はない。足りなければ、お前達の命で補うぞ」
「畏まりました。すぐに手配いたします」
セティが低い声を出し、大司教の人がぺたんと床に平らになった。泣いたからかな、少し眠い。ごしごしと目元を擦る手を、セティが止めた。代わりに濡らした布で拭いてくれる。
大人しく目を閉じていた。背中に変な感じがして振り返ると、知らない人がじっと見ている。慌ててセティにしがみついた。今の人も白い服だった。
セティをとられたら困る。ぽんと背中を叩く手に息を吐いた。少し苦しい。大きく息をしたら楽になった。
「お部屋にご案内を」
「この子が嫌がる」
頭の上の会話を、ぼんやりしながら聞いていた。宿から移動するのかな。でも僕、宿の方がいい。だって白い服の怖い人いないから。
神殿は怖い場所。僕に痛いことするし、寒い。ここはセティに似合わないよ。温かいお風呂みたいな場所がいい。食べ終えた飴の甘さが口の中に残るけど、セティのキスの甘さの方が好き。ここを出たらキスして欲しいな。
目の上の蓋が落ちてくる。力が抜けて、ぽかぽかして……僕は眠いみたい。
「すこし寝ろ」
頭の上に温かい手が乗せられ、滑ってきて僕の目を覆った。途端に欠伸が出る。なんだろう、急に眠くなってきたけど。
がくんと後ろに倒れそうになった首を、セティが引き戻してくれた。セティの匂いを胸いっぱいに吸い込んで、黒髪を握る。両手をしっかり首に回した。
これで離れない……僕は、セティといっしょ。
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