【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
26 / 321

25.純粋ゆえに恐ろしい(SIDEセティ)

しおりを挟む
*****SIDE セティ



 目の前で誘拐するなど、どれだけオレをコケにするんだ? あの子にはオレの印がついている。匂いと祈りの声を辿れば、すぐに見つけた。手足を縛られ、上半身に袋を被せられた姿に眉を寄せる。

 凄む声にイシスの身が震える。同時に助けを求める声が反響していた。

 この子は……本当に贄に相応しい魔力の持ち主だったのか。驚くほど強く響く祈りに似た声は、助けを求めるくせにオレを案じる。

 ――助けて、タイフォン様。セティが痛い思いをしませんように。

 オレと邪神タイフォンが同一人物だと知らないイシスの祈りが、すべて流れ込んできた。温かい、優しい、心地よい。久しぶりに心からの祈りを受けたな。

 口元が歪む。自分で自分の笑みは見えないが、さぞ恐ろしかったのだろう。薄汚い男がイシスの腹を蹴飛ばした。怒りが感情を沸騰させる。目の前の男を殺すことしか考えられなくなる。

 無防備に見える姿で両手に武器も持たずに近づき、怯える男の指を折り手首を砕き、助けを求める口を蹴り上げた。最後に首を捻り切り、放り出す。

 数人いた誘拐犯をすべて血の海に沈め、ようやく気持ちが落ち着いた。その間も聞こえていた清らかで純粋な祈りに、オレは相応しい神じゃないんだろう。それでも手の届く範囲にあるこの子を助けてやることは出来る。

 真っ赤に染まった手を忘れて髪をかき上げた。頬や額に赤が滴り、顔を顰める。

「セ、ティ?」

 不安そうに揺れる声がひどく愛おしい。この気持ちを愛情と呼ぶなら、不安定で心地よくどこまでも醜い感情だった。

「そうだ、もう大丈夫、袋を外すぞ」

 袋をとってすぐに後悔した。この血塗れの姿や場所を、この子は怖がるんじゃないか? 移動してから外せばよかったか。だがあの不安そうな祈りの声を聞いてしまえば、少しでも早く安心させたかった。

 顔を上げたイシスの目が見開かれる。紫の瞳が零れ落ちそうなほど大きくなった。

 ああ、失敗した。やはり見せるべきではなかった。我慢させればよかったものを、焦りすぎたな。嫌われるなら、この街で保護者を探して置いていくしかない。

 そう考えた途端、ずきんと胸が痛む。奥の深い部分に棘が刺さったような鋭痛を、深呼吸して誤魔化した。今までもそうだったじゃないか。別にこの子だけが特別じゃない。自分に言い聞かせたが、イシスは泣きそうな顔で口を開いた。

「セティ、ケガしたの? どうしよう、僕が代わりにな……」

「そんな言霊は使うな」

 慌てて止めた。この子は魔力が豊富で純粋だ。うっかり言葉にした言霊が実現する可能性がある。オレの痛みを肩代わりするつもりで、業まで引き受けたらどうする気だ。取り返しがつかない。

 死体を見ても怯えないイシスは、彼らの状態が死だと認識していなかった。動かなくなった赤いもの、その程度の感覚だ。風呂に意識を逸らし、浄化で見た目だけ綺麗に整えた。

 街中を血塗れで歩けば、すぐに衛兵が飛んでくる。邪魔されるのは好きじゃない。

「ありが、と」

 助けてやった人間はたくさんいるが、誰もそんな言葉を向けなかった。驚いて動きがぎこちなくなるが、イシスの頬にキスを落とす。イシスの手足の紐を解いて捨てながら、手放せなくなる予感がした。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】少年王が望むは…

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

処理中です...