【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
24 / 321

23.神様よりセティがいい

しおりを挟む
 美味しい! 初めて口に入れられたのは、知らないお菓子だった。サクサクして、口の中でほろりと崩れる。

「んっ!」

 食べてる最中に口を開けるのは行儀が悪い。それは教わったばかりなので、美味しいと言いかけた口を手で押さえた。でも早く伝えたくて、身振り手振りで伝える。両手で頬を包んで、それからお菓子をひとつ摘んだ。僕が摘んだお菓子を唇に当てると、笑ったセティが口を開く。

 セティはお菓子と一緒に僕の指も食べて、舐めてから取り出した。濡れて光る指先に、ちゅっと音を立ててキスする。

「うん、うまいな。気に入ったならもう少し買おうか」

 屋台という道にある店で買ったお菓子を、追加でまた購入したセティが肩に掛けた鞄にしまう。大きなお菓子をようやく飲み込んで、僕は声を出した。

「セティ、これ美味しかった。ありがとう」

 お礼の言葉は言われると嬉しい。だから、セティにもたくさん言いたい。いつも抱っこしてくれて、僕を撫でてくれて、叩かないでくれてありがとう。いっぱいのありがとうは、毎日少しずつ伝えていた。

「ああ、明日からまた旅にでるし。飴の補充もしておかないと」

 きらきらした輝く甘い飴が並んだお店で、少し大きめの瓶に入った飴を買ってもらう。入れ物が重いけど、セティの魔法の部屋は重くないんだって。だから瓶を抱えたセティが、人に見えない場所でこっそり瓶を部屋に入れた。

 見ている間に後ろから伸びた手に口を塞がれ、叫ぶ余裕もなく袋を被させられた。転がるような乱暴な扱いのあと、僕の手足が動かなくなる。何が起きたんだろう。セティはどうしたの?

 怖くなるけど、きっとセティが助けてくれると思う。森で野宿した時、何度も言われた。危ない時は心の中で叫べばいい。セティの名じゃなくて、神様の名前だ。

 タイフォン様、タイフォン様、僕をセティのところへ返して。タイフォン様、セティと一緒にいたいです。

 必死に神様の名とセティの名を繰り返す。願いが届く位置に、神様はいる。セティがそう教えてくれたから。

 ぐらぐら揺れる体に、僕は運ばれているんだと気づいた。抱っこに似た揺れの後、どこかへ落とされる。ぶわっと腹の辺りが変な感じになって、ごつんと何かにぶつかった。

 頭が痛い。じわっと涙が滲んだ。前は我慢できたけど、セティの優しい手に慣れたから……今は我慢したくない。痛いよ、セティ。撫でてほしいのに……。

 タイフォン様、まだ声は届かない? セティ、怖いよ。セティ……タイフォン様じゃなくて、セティがいい。

 滲んだ涙が乾き掛けた頃、低い声が聞こえた。

「なんだ、てめぇ」

「死にてえのか」

 びくっと肩を揺らした僕は、次に聞こえた声に目を見開いた。被せられた袋の中では何も見えないけど、聞こえたのはセティの声だ。普段と違う、すごく低くて怖い声だけど……セティが来てくれた。

「死にてえのはそっちだろ。オレのお気に入りを掠め取ろうたぁ、いい度胸じゃねえか」
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】少年王が望むは…

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

処理中です...