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21.いくつもの約束

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「イシス、飴は?」

「ここ」

 胸ポケットから小さな袋を出す。数が少なくなったので我慢していたら、次の街で買ってくれると言われた。約束だと指を絡めて揺らして離す。その約束が嬉しくて笑えば、セティが飴を口に入れた。

 甘くて幸せな思い出だ。約束は必ず守るものだから、飴もまた増える。躊躇うことなく袋からひとつ摘んで差し出した。

「イシスが食べろ。何か聞かれても答えるなよ」

 よくわからないけど頷いた。話をしないように口に飴を入れるのかな。門番と呼ばれる人がいる列に並んだ。前の門番は手を振ってくれた。順番が近づいて、飴の大きさは半分に小さくなる。

「はい、身分証。この子はオレの甥っ子だ」

 前の門番と違い、今度は話が聞き取れる。知ってる言葉に2人の顔を見比べた。言葉が何種類もあることは、セティに教えてもらった。野宿の夜は長くて、朝は早い。旅の間にいろんな話を聞いた。

 色の名前も緑や黄色を覚えたし、いろんな動物の種類も覚えた。門番やお金の話も聞いているから、セティが取り出した通行料というのも理解できる。光を弾く金属をちゃらんと渡して、そのまま通り過ぎた。口の中の飴を転がしていたから、門番も話しかけてこない。

「いい子だ、イシス。先に宿を決めようか」

「うん」

 宿は泊まる部屋がある場所だ。前のところみたいにお風呂がある場所を探したので、意外と時間がかかった。見つけたのは大きな鳥の看板の宿だ。

「2人、食事付きで3日間」

 簡単に注文して部屋の鍵をもらった。2階じゃなくて、1階の奥だって。部屋に入ると前の宿より少し狭かった。でも僕がいた神殿の部屋と同じくらい。

 口を開けたまま天井を見ながらぐるりと回る。天井に絵が描いてあるよ。鳥なのかな、両手を広げたような形の生き物だった。

「この国は邪神信仰だからな」

「じゃしん……神様?」

「そうだ。荒ぶる神タイフォンが奉られた国で、ちょっと野暮用があって寄った」

 タイフォンは聞いたことがある。お爺ちゃんが口にした神様のお名前だ。僕はタイフォンの物なんだって――セティの物ならいいのに。

「僕、タイフォン知ってる」

「イシスがいた神殿もタイフォンだな」

 頷いてベッドに座った。邪神はよくわからないけど、神様はすごいと聞いた。セティとどっちが優しいのかな。僕は殴ったりしない優しい人がいい。毛布も着替えも、ぽいっとする部屋にしまってるセティだけど、肩にいつも鞄を掛けていた。それをベッドの横に置く。

「これ、どうして持ってるの?」

「ん? どういう意味だ」

 僕の聞きたいことが伝わらなくて、収納というお部屋に入れない理由を身振り手振りで尋ねた。さっきの荷車の人もそう、部屋にしまえばいいのに。

「ああ、そうか。イシスは知らないからそう思うよな」

 納得した様子でセティが隣に座った。それからまた指を絡めて約束の準備をする。

「あれは魔法っていうんだ。使える人が少ないから、欲しがる人がいっぱいいる。誰かに話すとオレとイシスは離されてしまうから……絶対に誰かに話しちゃダメだぞ」

 胸がぎゅっと痛くなった。誰かに知られたらセティが取られちゃうの?! 僕はお部屋を使えないから、捨てられる……そんなのやだ。

「言わない」

 ぽろりと涙が溢れて、唇が尖った。どうしたらいいか分からないけど、ただただ嫌だった。セティが涙を舐めて、それからキスしてくれる。少しだけ胸の痛いのが楽になった。

「約束したら大丈夫」

 離れない約束ももらえて、僕はやっと胸が温かくなる。ぎゅっと抱き締めるセティにしがみついて、結局そのまま眠ってしまった。
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