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20.次の国という壁

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 野宿を何回か繰り返して、僕はいろんなことを覚えた。燃える木と燃えない木の見分け方、食べられる草、火の付け方、それから食器の使い方も。

「そろそろ次の国に入るぞ」

 セティと一緒に長く歩けるようになった。もちろん疲れるのは早いけど、前よりたくさん歩ける。すぐ動けなくなってた僕も、今日はお昼までちゃんと歩けた。

「イシス、お昼を食べよう」

 いつもお昼はパンに何か挟んだもの。セティが朝焼いてくれたチーズが入ったパンを齧る。顎が疲れるけど、硬いものを食べた方がいいんだって。薄く切った肉を挟んでくれてある。

「セティ、おいしい」

「そうか。よかった」

 森の中にある細い道を歩いてきたけど、もうすぐ広い道に出る。向こうに石を敷いた道があった。ずっと向こうの遠いところに、何かある。あれが「次の国」なのかな。

「イシス、大事な約束だ」

 約束は絶対に守らないとダメなやつだ。食べ終えて汚れた手を拭きながら、僕の目を覗き込んだセティが真剣な顔をした。

「絶対にオレの手を離さないこと。無理な時は服のここを握ること。わかるか?」

「わかる」

 大きく頷いた。セティと手を繋ぐ。僕は嬉しいから、ちゃんと握っていられるよ。でもなんでそんな約束がいるのかな。

 首を傾げると、溜め息をついたセティが困ったような顔になる。切ってもらった前髪を弄るセティの指が気持ちよくて、にこりと笑った。

「イシスは可愛いから、攫われちゃうぞ。はぁ……魔法が万能なら、顔を変えるんだが。この顔も気に入ってるんだよな。それに長く魔法をかけると色々影響でるし」

 何か言ってるけど、半分もわからなかった。セティは時々、僕の知らない言葉をたくさん使う。わからなくて一個ずつ聞いてたら、独り言だからいいんだって言われた。聞いてくれれば、意味が伝わらなくていい。

 僕はセティの声が好きだからいいけど。セティはそれでも平気なの?

「仕方ない、守りきりゃいいんだ」

 答えが出たみたい。頷いている姿に、僕も頷いた。石が敷かれた道へ向かって進み、その上を歩き出す。でこぼこして木の根が出てる道より、ずっと歩きやすかった。だけど、足が痛い。

「わりぃ、歩き慣れてなかったっけ」

 靴がずるずると音を立てたので、セティが抱っこしてくれた。靴は歩きにくいし、あちこち痛いから好きじゃない。でもセティと同じなのは嬉しいから、足につける。

「ちょっと見せろ」

 石の道の横にあった平らな低い木に座って、セティが僕を膝の上に座らせた。ずるりと靴が取れる時は痛くて顔をしかめる。

「ああ、血が出てるじゃねえか。痛いなら早く言えよ、我慢することはない」

 赤く濡れた足を、セティの手が優しく撫でる。それだけで痛みがなくなった気がした。やっぱりセティはすごい。赤いのも、セティが拭いてくれた。それから抱っこして立ち上がり、歩き出す。

 すぐ隣を、大きな箱が変な動物と一緒に通った。がたがた揺れる音がして、箱はすぐに遠くなる。動物は2本足で、小さな手がついてた。歯が唇の外に出てて、あれは怖い。

「今の、なぁに?」

「荷車だな、たくさんの物を運んでる」

 変なの。セティみたいに魔法で運べばいいのに。えいって入れたら運べるんじゃないのかな。でも気になるのは荷物じゃなくて、箱を引っ張ってた怖い生き物だった。

「茶色いのは?」

「ああ、そっちか。あれは魔獣の一種で、駝馬だばと呼ぶんだ。足が早くてたくさん走れる。足が長くて細いだろ? あの足で跳ぶみたいに走るんだ。こうやって」

 言うなり、セティがぴょんぴょんしながら走った。上下に揺れる体が楽しくて、きゃあと声を上げて首にしがみ付く。少しすると、セティが普通に歩き出した。

「もう着くぞ」

 言われて顔を上げると、大きな壁の前に荷車という箱がいくつも並んでいた。
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