【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
21 / 321

20.次の国という壁

しおりを挟む
 野宿を何回か繰り返して、僕はいろんなことを覚えた。燃える木と燃えない木の見分け方、食べられる草、火の付け方、それから食器の使い方も。

「そろそろ次の国に入るぞ」

 セティと一緒に長く歩けるようになった。もちろん疲れるのは早いけど、前よりたくさん歩ける。すぐ動けなくなってた僕も、今日はお昼までちゃんと歩けた。

「イシス、お昼を食べよう」

 いつもお昼はパンに何か挟んだもの。セティが朝焼いてくれたチーズが入ったパンを齧る。顎が疲れるけど、硬いものを食べた方がいいんだって。薄く切った肉を挟んでくれてある。

「セティ、おいしい」

「そうか。よかった」

 森の中にある細い道を歩いてきたけど、もうすぐ広い道に出る。向こうに石を敷いた道があった。ずっと向こうの遠いところに、何かある。あれが「次の国」なのかな。

「イシス、大事な約束だ」

 約束は絶対に守らないとダメなやつだ。食べ終えて汚れた手を拭きながら、僕の目を覗き込んだセティが真剣な顔をした。

「絶対にオレの手を離さないこと。無理な時は服のここを握ること。わかるか?」

「わかる」

 大きく頷いた。セティと手を繋ぐ。僕は嬉しいから、ちゃんと握っていられるよ。でもなんでそんな約束がいるのかな。

 首を傾げると、溜め息をついたセティが困ったような顔になる。切ってもらった前髪を弄るセティの指が気持ちよくて、にこりと笑った。

「イシスは可愛いから、攫われちゃうぞ。はぁ……魔法が万能なら、顔を変えるんだが。この顔も気に入ってるんだよな。それに長く魔法をかけると色々影響でるし」

 何か言ってるけど、半分もわからなかった。セティは時々、僕の知らない言葉をたくさん使う。わからなくて一個ずつ聞いてたら、独り言だからいいんだって言われた。聞いてくれれば、意味が伝わらなくていい。

 僕はセティの声が好きだからいいけど。セティはそれでも平気なの?

「仕方ない、守りきりゃいいんだ」

 答えが出たみたい。頷いている姿に、僕も頷いた。石が敷かれた道へ向かって進み、その上を歩き出す。でこぼこして木の根が出てる道より、ずっと歩きやすかった。だけど、足が痛い。

「わりぃ、歩き慣れてなかったっけ」

 靴がずるずると音を立てたので、セティが抱っこしてくれた。靴は歩きにくいし、あちこち痛いから好きじゃない。でもセティと同じなのは嬉しいから、足につける。

「ちょっと見せろ」

 石の道の横にあった平らな低い木に座って、セティが僕を膝の上に座らせた。ずるりと靴が取れる時は痛くて顔をしかめる。

「ああ、血が出てるじゃねえか。痛いなら早く言えよ、我慢することはない」

 赤く濡れた足を、セティの手が優しく撫でる。それだけで痛みがなくなった気がした。やっぱりセティはすごい。赤いのも、セティが拭いてくれた。それから抱っこして立ち上がり、歩き出す。

 すぐ隣を、大きな箱が変な動物と一緒に通った。がたがた揺れる音がして、箱はすぐに遠くなる。動物は2本足で、小さな手がついてた。歯が唇の外に出てて、あれは怖い。

「今の、なぁに?」

「荷車だな、たくさんの物を運んでる」

 変なの。セティみたいに魔法で運べばいいのに。えいって入れたら運べるんじゃないのかな。でも気になるのは荷物じゃなくて、箱を引っ張ってた怖い生き物だった。

「茶色いのは?」

「ああ、そっちか。あれは魔獣の一種で、駝馬だばと呼ぶんだ。足が早くてたくさん走れる。足が長くて細いだろ? あの足で跳ぶみたいに走るんだ。こうやって」

 言うなり、セティがぴょんぴょんしながら走った。上下に揺れる体が楽しくて、きゃあと声を上げて首にしがみ付く。少しすると、セティが普通に歩き出した。

「もう着くぞ」

 言われて顔を上げると、大きな壁の前に荷車という箱がいくつも並んでいた。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる

レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。 ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。 死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

婚約破棄された悪役令息は隣国の王子に持ち帰りされる

kouta
BL
婚約破棄された直後に前世の記憶を思い出したノア。 かつて遊んだことがある乙女ゲームの世界に転生したと察した彼は「あ、そういえば俺この後逆上して主人公に斬りかかった挙句にボコされて処刑されるんだったわ」と自分の運命を思い出す。 そしてメンタルがアラフォーとなった彼には最早婚約者は顔が良いだけの二股クズにしか見えず、あっさりと婚約破棄を快諾する。 「まぁ言うてこの年で婚約破棄されたとなると独身確定か……いっそのこと出家して、転生者らしくギルドなんか登録しちゃって俺TUEEE!でもやってみっか!」とポジティブに自分の身の振り方を考えていたノアだったが、それまでまるで接点のなかったキラキライケメンがグイグイ攻めてきて……「あれ? もしかして俺口説かれてます?」 おまけに婚約破棄したはずの二股男もなんかやたらと絡んでくるんですが……俺の冒険者ライフはいつ始まるんですか??(※始まりません)

処理中です...