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18.神殿を出てよかった

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 テントという布の家に入った。ぐるっと布で囲まれていて、ドアの代わりも布だ。どこにぶつかっても痛くない。神殿の石と違う手触りが不思議で、あちこちを触って回った。

「飯だぞ」

 飯はご飯で、食べ物! 全部同じ意味だなんてすごい。撫で回していたテントから顔を覗かせると、おいでと手招きされた。どきどきしながら駆け寄る。セティは火を焚いていた。その上に大きい黒い器があって、お湯が入ってるみたい。

 くん……何かいい匂いがする。覗き込もうと近づいたところで、後ろから腹に回した腕で引っ張られた。こてんと尻をついた先は、セティの太腿だった。驚いて見上げる。

「あっぶね、いいか。これ……鍋と火は熱い。痛いぞ」

 黒い器を鍋、燃えている火と一緒に教えられる。火は燃えているのを見たから知っていた。熱いのに触ると痛いのは……うん、知ってるけど。前に燃えてる火を触ったから。火がなくなっても痛かったんだ。

「わかった」

 頷いた僕を腕で抱き寄せて、そっと鍋の様子を見せてくれた。脇に手を入れて転ばないように支える腕が、とても温かい。

「ぶつぶつお湯が動いてるだろ、あれは熱い」

「さわらない」

「いい子だ、イシス。賢いぞ」

 褒めてもらった。あれは触らない。手を入れてみたい気がするけど、セティのダメは絶対だ。中に黒っぽい塊を入れて、しばらく待った。火のそばは暖かくて、眠くなる。

「出来たぞ、ほら、あーんだ」

 ふーっと息を吹いてから差し出された匙に、ぱくりと噛み付く。口の中に魚と同じ味が広がった。

「美味しいか?」

「おいしい」

 もっとと口を開けて待った。だが銀の匙を手に持たされ、真似をして食べろという。ぎゅっと握った棒部分を動かして、匙の先にスープを乗せる。ふーっとしてから、口に入れた。

「上手だ。自分で食べれば火傷もしないだろ」

 何だかよくわからないけど、さっきと味が違う。セティがあーんした方が美味しかった。

「あーん」

 匙を持ったまま口を開ける。困った奴、そう呟いたけど、セティは僕にあーんをした。やっぱり美味しい。そう伝えたら、嬉しそうに「そうか」って頭を撫でられた。

 パンを齧って顔を拭いて、魔法をかけてもらう。身体がベタベタしなくなって、臭いが消えた。テントに寝転がる僕の隣で、セティがいろいろな話をしてくれる。

 見渡す限り、辛い水しかない場所があるんだって。そこに今日食べた魚もいるみたい。辛い水に入っても、魚は平気なのかな。白くて冷たいのが降ってくる地域もあって、そこは寒い。一度見に行こうと約束した。

 約束は絶対に守るもの。寒い白い場所に行くまで、一緒にいてくれるんだ。あったかい気持ちで目を閉じ、伸ばした指先に触れたセティの手を握る。

 僕、神殿を出てよかった。
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