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16.きらきらした綺麗な甘い飴

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 お風呂に入ったあと、ずっと身体がぽかぽかしていた。眠くなって幸せな気持ちでゆらゆらと身体を揺する。違う街に移動すると言われた。セティに捨てられるのかと泣きそうになったが、キスして一緒に行くと言う。嫌だと言わなければ、ずっと一緒だって。

 絶対にそんな言葉使わない。心に決めて、少ない荷物をどこかへ放るセティを見守った。僕が神殿から出た時と一緒で、何もない場所で品物が消えていく。あの時は捨ててると思ったけど、違うのかな。

「どうした?」

「セティのこれ、どこ行くの?」

「ああ。そうか、魔法を知らないもんな。見えない空間……場所があって、そこに片付けてるんだ」

 捨てたわけじゃないと知って、ほっとした。神殿から持ってきた毛布も入れられるけど、今度は心配なく見送る。他の荷物も全部入れて、最後に目の前に膝をついた。僕も座ろうとすると立ってるように言われる。頭に手を乗せて、お祈りみたいに目を閉じていた。

 お爺ちゃんが良くやっていた仕草だ。似てる。

「これでよし! 表から堂々と出るぞ」

 堂々と、出る? 首をかしげると、簡単に説明してくれた。裏に梯子というのがあるけど、使うと追いかけてくる悪い奴がいる。それに僕を背負って降りるのが危ないんだって。手を繋いで廊下に出た。

 そう、僕は自分の足で歩いて部屋を後にする。買ってもらった靴という袋みたいなのを足に嵌めて歩くんだよ。そうすると外で何か踏んでもケガしない。ぱこぱこして歩きづらいけど、廊下にいる人もセティも靴を履いていた。

 僕も仲間だ。嬉しくなって靴の音をさせながら歩く。階段だけ怖いのでセティに抱いて降ろしてもらった。前にご飯を食べた大きい部屋の端で、高い机越しにセティが何かを話して上を指さす。困ったような顔をした人間が、しゃがんで僕に視線を合わせた。

 何か言ったけど、知らない言葉みたい。困った顔でセティを見る。頭を撫でてくれたので笑えば、目の前の人間も笑った。それから手に何か持たされる。

「もらっとけ」

「うん」

 また何か話をしたセティが手を繋いで歩き出す。袋をくれた人間が手を振るので、そっと同じように振ってみた。靴が音を立てる。それが不思議で嬉しくて、ぴょんぴょん跳ねてみた。笑うがセティは怒らない。手にした袋の中身がからんと音を立てて、気になった。

「セティ、これなに?」

「どれ?」

 道の端に移動して、一緒に中身を確認した。きらきらした小さな玉がいっぱい入っている。

「赤、青、あと……いっぱい!」

 赤と青は知ってる。他に知っている色は白と黒だけど、ここには入ってなかった。赤はセティの頭、青は目の色と同じだよね。嬉しくなって赤をひとつ摘まんだ。

「綺麗」

「これは飴、だな。口を開けてみろ。ほら、あーん」

 あーんの言葉に合わせて口を開けると、からんと何かが入ってきた。驚いてごくりと飲み込んでしまう。なんだったんだろ、これ。甘い?

「ああ、飲んじゃったか。ごくんしないで、ほら」

 もう一度だと促されて口を開けた。今度は舌の上じゃなくて、横に入ってくる。口を閉じたら甘い。硬い丸いのが、口の中をあっちに行ったりこっちに行ったり。そのたびに甘い。手にした赤いのをセティの口に入れた。

「噛むと歯が痛いからな。そのまま舐めてろ」

「うーん?」

 難しい。そう伝えるとキスしてくれた。口の中の飴が2つに増える。丸い飴を舌で追いかける動きが、舐めるっていうみたい。飴があるとキスもいつもより甘くて、もっと欲しいと言ったら「あとでな」と頭を撫でられた。人前ではキスをしてはいけない決まりがあるのかも。

 また手を繋いで歩く。見えてきた大きな高い壁を見上げて、驚いていたら飴をひとつ飲み込んでしまった。飲んじゃダメ、壁を見上げるのをやめてセティと並んだ人の後ろに立った。
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