16 / 321
15.ずっと一緒だよ(SIDEセティ)
しおりを挟む
*****SIDE セティ
まず服を買う。それから靴、自分で歩かせないとな。あとはとにかく屋台を含めた様々な食べ物に挑戦させた。イシスは固形物が食べられないのではなく、食べるのが遅いだけだと知る。やはり薄いスープとパンしか食べていなかったらしい。
栄養失調一歩手前。少しでも運動させたらへばりそうな、細い手足は見ていて痛ましい。
早朝なら客が少ないだろうと狙って風呂に行くと、残念ながら数人の先客がいた。貸し切りにして追い出すわけにも行かず、イシスをオレの身体で隠しながら洗い場に座らせる。丁寧に髪を洗うが泡立たないので何回も洗い直した。格闘する間に風呂の客は半減する。
綺麗になった黒髪だが、外からは赤毛に見えるはずだ。顔を洗う方法を教えるが、水につけるのが怖いと震えるので濡らしたタオルに切り替えた。頻度は不明だが、以前も濡れタオルで身体を拭いた経験はあるようだ。抱き上げても臭わなかったのはそのせいか。身体を洗うのは問題なく、念のために2度洗って湯船に向かった。
「これ、お水?」
「お湯だ」
違いが分からないイシスが首をかしげるので、指先を中に入れた。びっくりした顔をする。やばい、可愛いな……くそ。こんな隠す服がない場所で興奮したらやばい。気持ちを落ち着けながら先に入り、抱っこした。嫌がるかと思ったが、抱っこしてなら問題ないらしい。
湯船に座り、膝の上に乗せた。座らせて背中から包み込むようにすると、嫌がって反対を向く。向き合って顔の見える状態を好むのか。小さなことだが、イシスが意思表示をしてくれるのが嬉しい。
他人がいるせいか、イシスは僅かな言葉しか話さない。少しずつ言葉も増えてきたが、やはりオレ以外の人間に恐怖心を抱くのだろう。これも徐々に和らげばいいと思うが……このままでもいいか。自分勝手な感情が沸き起こる。
「あたたかいね」
にこにこ機嫌よく笑うイシスに我慢を強いられながらも、もう上がろうと促す。ずっと1人だったせいか、イシスに危機感や羞恥心はない。子供らしいと言えばそうだが、躊躇う様子なく隣を歩いては時々見上げてきた。人の顔色を窺う癖は直してやりたいな。
タオルで髪を乾かしたイシスの身体を拭いているところに、がやがやとガタイのいい連中が入ってきた。護衛や魔物狩りを専門にするギルド所属の連中は、夜遅く帰ることも多い。早朝に汗を流す者もいた。その集団と運悪くかち合ったのだ。
「いっぱいだ」
無邪気に怖い物知らずのイシスは笑った。大急ぎでイシスにタオルを巻きつけ、オレは自分の髪や体を拭うフリで子供を隠す。だが見つかったらしい。ひそひそと聞こえる話はあまり子供の教育に良くない内容だった。
オレが性奴隷の子供を連れまわす悪人だって? 随分と勝手な決めつけをしてくれたもんだ。そういう大義名分を作り出して、イシスを奪う罪悪感を消そうってのか。さっさと部屋に引き上げたが、数人が部屋の位置を確認しに廊下をうろついている。
「イシス、違う街に移動しようか」
「……セティも行く?」
言葉が足りなかったな。オレは苦笑いしてイシスの頬や唇に触れるだけのキスをした。それから視線を合わせるために座り、彼の紫の瞳を覗き込む。
「もちろんだ。オレはイシスが嫌だっていうまで一緒だよ」
「じゃあ言わない」
ようやく言葉で話をするようになったイシスの表情を曇らせたくない。ふとそんな感情が芽生えたことに、オレは不思議な感覚を味わっていた。
まず服を買う。それから靴、自分で歩かせないとな。あとはとにかく屋台を含めた様々な食べ物に挑戦させた。イシスは固形物が食べられないのではなく、食べるのが遅いだけだと知る。やはり薄いスープとパンしか食べていなかったらしい。
栄養失調一歩手前。少しでも運動させたらへばりそうな、細い手足は見ていて痛ましい。
早朝なら客が少ないだろうと狙って風呂に行くと、残念ながら数人の先客がいた。貸し切りにして追い出すわけにも行かず、イシスをオレの身体で隠しながら洗い場に座らせる。丁寧に髪を洗うが泡立たないので何回も洗い直した。格闘する間に風呂の客は半減する。
綺麗になった黒髪だが、外からは赤毛に見えるはずだ。顔を洗う方法を教えるが、水につけるのが怖いと震えるので濡らしたタオルに切り替えた。頻度は不明だが、以前も濡れタオルで身体を拭いた経験はあるようだ。抱き上げても臭わなかったのはそのせいか。身体を洗うのは問題なく、念のために2度洗って湯船に向かった。
「これ、お水?」
「お湯だ」
違いが分からないイシスが首をかしげるので、指先を中に入れた。びっくりした顔をする。やばい、可愛いな……くそ。こんな隠す服がない場所で興奮したらやばい。気持ちを落ち着けながら先に入り、抱っこした。嫌がるかと思ったが、抱っこしてなら問題ないらしい。
湯船に座り、膝の上に乗せた。座らせて背中から包み込むようにすると、嫌がって反対を向く。向き合って顔の見える状態を好むのか。小さなことだが、イシスが意思表示をしてくれるのが嬉しい。
他人がいるせいか、イシスは僅かな言葉しか話さない。少しずつ言葉も増えてきたが、やはりオレ以外の人間に恐怖心を抱くのだろう。これも徐々に和らげばいいと思うが……このままでもいいか。自分勝手な感情が沸き起こる。
「あたたかいね」
にこにこ機嫌よく笑うイシスに我慢を強いられながらも、もう上がろうと促す。ずっと1人だったせいか、イシスに危機感や羞恥心はない。子供らしいと言えばそうだが、躊躇う様子なく隣を歩いては時々見上げてきた。人の顔色を窺う癖は直してやりたいな。
タオルで髪を乾かしたイシスの身体を拭いているところに、がやがやとガタイのいい連中が入ってきた。護衛や魔物狩りを専門にするギルド所属の連中は、夜遅く帰ることも多い。早朝に汗を流す者もいた。その集団と運悪くかち合ったのだ。
「いっぱいだ」
無邪気に怖い物知らずのイシスは笑った。大急ぎでイシスにタオルを巻きつけ、オレは自分の髪や体を拭うフリで子供を隠す。だが見つかったらしい。ひそひそと聞こえる話はあまり子供の教育に良くない内容だった。
オレが性奴隷の子供を連れまわす悪人だって? 随分と勝手な決めつけをしてくれたもんだ。そういう大義名分を作り出して、イシスを奪う罪悪感を消そうってのか。さっさと部屋に引き上げたが、数人が部屋の位置を確認しに廊下をうろついている。
「イシス、違う街に移動しようか」
「……セティも行く?」
言葉が足りなかったな。オレは苦笑いしてイシスの頬や唇に触れるだけのキスをした。それから視線を合わせるために座り、彼の紫の瞳を覗き込む。
「もちろんだ。オレはイシスが嫌だっていうまで一緒だよ」
「じゃあ言わない」
ようやく言葉で話をするようになったイシスの表情を曇らせたくない。ふとそんな感情が芽生えたことに、オレは不思議な感覚を味わっていた。
94
お気に入りに追加
1,337
あなたにおすすめの小説
【完結】少年王が望むは…
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる