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15.ずっと一緒だよ(SIDEセティ)
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*****SIDE セティ
まず服を買う。それから靴、自分で歩かせないとな。あとはとにかく屋台を含めた様々な食べ物に挑戦させた。イシスは固形物が食べられないのではなく、食べるのが遅いだけだと知る。やはり薄いスープとパンしか食べていなかったらしい。
栄養失調一歩手前。少しでも運動させたらへばりそうな、細い手足は見ていて痛ましい。
早朝なら客が少ないだろうと狙って風呂に行くと、残念ながら数人の先客がいた。貸し切りにして追い出すわけにも行かず、イシスをオレの身体で隠しながら洗い場に座らせる。丁寧に髪を洗うが泡立たないので何回も洗い直した。格闘する間に風呂の客は半減する。
綺麗になった黒髪だが、外からは赤毛に見えるはずだ。顔を洗う方法を教えるが、水につけるのが怖いと震えるので濡らしたタオルに切り替えた。頻度は不明だが、以前も濡れタオルで身体を拭いた経験はあるようだ。抱き上げても臭わなかったのはそのせいか。身体を洗うのは問題なく、念のために2度洗って湯船に向かった。
「これ、お水?」
「お湯だ」
違いが分からないイシスが首をかしげるので、指先を中に入れた。びっくりした顔をする。やばい、可愛いな……くそ。こんな隠す服がない場所で興奮したらやばい。気持ちを落ち着けながら先に入り、抱っこした。嫌がるかと思ったが、抱っこしてなら問題ないらしい。
湯船に座り、膝の上に乗せた。座らせて背中から包み込むようにすると、嫌がって反対を向く。向き合って顔の見える状態を好むのか。小さなことだが、イシスが意思表示をしてくれるのが嬉しい。
他人がいるせいか、イシスは僅かな言葉しか話さない。少しずつ言葉も増えてきたが、やはりオレ以外の人間に恐怖心を抱くのだろう。これも徐々に和らげばいいと思うが……このままでもいいか。自分勝手な感情が沸き起こる。
「あたたかいね」
にこにこ機嫌よく笑うイシスに我慢を強いられながらも、もう上がろうと促す。ずっと1人だったせいか、イシスに危機感や羞恥心はない。子供らしいと言えばそうだが、躊躇う様子なく隣を歩いては時々見上げてきた。人の顔色を窺う癖は直してやりたいな。
タオルで髪を乾かしたイシスの身体を拭いているところに、がやがやとガタイのいい連中が入ってきた。護衛や魔物狩りを専門にするギルド所属の連中は、夜遅く帰ることも多い。早朝に汗を流す者もいた。その集団と運悪くかち合ったのだ。
「いっぱいだ」
無邪気に怖い物知らずのイシスは笑った。大急ぎでイシスにタオルを巻きつけ、オレは自分の髪や体を拭うフリで子供を隠す。だが見つかったらしい。ひそひそと聞こえる話はあまり子供の教育に良くない内容だった。
オレが性奴隷の子供を連れまわす悪人だって? 随分と勝手な決めつけをしてくれたもんだ。そういう大義名分を作り出して、イシスを奪う罪悪感を消そうってのか。さっさと部屋に引き上げたが、数人が部屋の位置を確認しに廊下をうろついている。
「イシス、違う街に移動しようか」
「……セティも行く?」
言葉が足りなかったな。オレは苦笑いしてイシスの頬や唇に触れるだけのキスをした。それから視線を合わせるために座り、彼の紫の瞳を覗き込む。
「もちろんだ。オレはイシスが嫌だっていうまで一緒だよ」
「じゃあ言わない」
ようやく言葉で話をするようになったイシスの表情を曇らせたくない。ふとそんな感情が芽生えたことに、オレは不思議な感覚を味わっていた。
まず服を買う。それから靴、自分で歩かせないとな。あとはとにかく屋台を含めた様々な食べ物に挑戦させた。イシスは固形物が食べられないのではなく、食べるのが遅いだけだと知る。やはり薄いスープとパンしか食べていなかったらしい。
栄養失調一歩手前。少しでも運動させたらへばりそうな、細い手足は見ていて痛ましい。
早朝なら客が少ないだろうと狙って風呂に行くと、残念ながら数人の先客がいた。貸し切りにして追い出すわけにも行かず、イシスをオレの身体で隠しながら洗い場に座らせる。丁寧に髪を洗うが泡立たないので何回も洗い直した。格闘する間に風呂の客は半減する。
綺麗になった黒髪だが、外からは赤毛に見えるはずだ。顔を洗う方法を教えるが、水につけるのが怖いと震えるので濡らしたタオルに切り替えた。頻度は不明だが、以前も濡れタオルで身体を拭いた経験はあるようだ。抱き上げても臭わなかったのはそのせいか。身体を洗うのは問題なく、念のために2度洗って湯船に向かった。
「これ、お水?」
「お湯だ」
違いが分からないイシスが首をかしげるので、指先を中に入れた。びっくりした顔をする。やばい、可愛いな……くそ。こんな隠す服がない場所で興奮したらやばい。気持ちを落ち着けながら先に入り、抱っこした。嫌がるかと思ったが、抱っこしてなら問題ないらしい。
湯船に座り、膝の上に乗せた。座らせて背中から包み込むようにすると、嫌がって反対を向く。向き合って顔の見える状態を好むのか。小さなことだが、イシスが意思表示をしてくれるのが嬉しい。
他人がいるせいか、イシスは僅かな言葉しか話さない。少しずつ言葉も増えてきたが、やはりオレ以外の人間に恐怖心を抱くのだろう。これも徐々に和らげばいいと思うが……このままでもいいか。自分勝手な感情が沸き起こる。
「あたたかいね」
にこにこ機嫌よく笑うイシスに我慢を強いられながらも、もう上がろうと促す。ずっと1人だったせいか、イシスに危機感や羞恥心はない。子供らしいと言えばそうだが、躊躇う様子なく隣を歩いては時々見上げてきた。人の顔色を窺う癖は直してやりたいな。
タオルで髪を乾かしたイシスの身体を拭いているところに、がやがやとガタイのいい連中が入ってきた。護衛や魔物狩りを専門にするギルド所属の連中は、夜遅く帰ることも多い。早朝に汗を流す者もいた。その集団と運悪くかち合ったのだ。
「いっぱいだ」
無邪気に怖い物知らずのイシスは笑った。大急ぎでイシスにタオルを巻きつけ、オレは自分の髪や体を拭うフリで子供を隠す。だが見つかったらしい。ひそひそと聞こえる話はあまり子供の教育に良くない内容だった。
オレが性奴隷の子供を連れまわす悪人だって? 随分と勝手な決めつけをしてくれたもんだ。そういう大義名分を作り出して、イシスを奪う罪悪感を消そうってのか。さっさと部屋に引き上げたが、数人が部屋の位置を確認しに廊下をうろついている。
「イシス、違う街に移動しようか」
「……セティも行く?」
言葉が足りなかったな。オレは苦笑いしてイシスの頬や唇に触れるだけのキスをした。それから視線を合わせるために座り、彼の紫の瞳を覗き込む。
「もちろんだ。オレはイシスが嫌だっていうまで一緒だよ」
「じゃあ言わない」
ようやく言葉で話をするようになったイシスの表情を曇らせたくない。ふとそんな感情が芽生えたことに、オレは不思議な感覚を味わっていた。
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