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14.もっと名前を呼んで

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 セティと並んで朝のご飯を食べた。昨日と違うのは、スープとパンと草が並んだこと。緑の草をセティが食べてから、同じように僕の口に押し込んだ。昔お腹すいて齧った時は苦かったけど、この草は苦くなくて驚く。スープは僕が知ってるのと味が違う。とろりとして、もっとたくさん食べたくなった。

「この街に何日かいる予定だから、買い物に行こう」

 よくわからないので頷く。買い物って何だろう? 抱っこされて移動が固定になりつつある僕は、腕をセティの首に回す。向かい合うこの抱っこは好きだ。いつでもセティにキスが出来るから。そう言ったら、くすくす笑って唇に指が押し当てられた。

「あちこちにキスすると、襲っちゃうぞ」

 怒られてるのかと思ったけど、首や額、顔中にキスがいっぱい降ってきた。たぶん怒られてない。外へ出るからと、布を掛けられた。毛布じゃないけど柔らかい。なんか甘い匂いがする布だった。

 外はいろんな匂いがした。食べ物、獣、花? 顔を布で半分隠せば、外を見ていても平気だった。何も言われないのを確かめてから、いろんな人や物を眺める。白い服の人はやっぱり少なくて、皆違う色の服を着ていた。

 街の中をあちこち歩いた後、セティが家に入っていく。いっぱい服が並んでいた。すごい、花畑みたい。目を輝かせた僕に、この店から出ちゃいけないと言って降ろしてくれた。ここはお店という場所で、さっき言ってた買い物をするんだ。簡単な説明でも僕に話しかけてくれる声が嬉しくて、笑顔で頷いた。

 この部屋から出ない、買い物する。僕はセティが見える場所にいればいいと理解した。降ろしてもらうと洋服を着た人形がいっぱいで怖くなり、セティの袖を掴んで見上げる。どうしよう、セティに抱っこされてないと何も見えない。すぐに抱き上げてもらい、しっかりしがみついた。

 怖い。セティがいなくなるかと思った。そんな僕の頭の上で知らない言葉が飛び交い、いくつもの布を押し当てられる。いきなり手が触れるのが嫌で、顔をセティの首筋に埋めた。両手をしっかり回して動かない。これなら怖くない。

「疲れちゃったか? 途中でお昼買って帰ろうな」

 さっきまで知らない言葉を話してたセティに頭を撫でられた。ぐりぐり揺らす行為の名前を知って、キスを知って、僕の世界は広がっていく。外へ出ると道の両側にいろんな店があった。食べ物が並んでいる。みたことがある果物もあるし、知らない塊から煙が出てる店もあって、セティは慣れた様子でいくつかの店から買い物をした。

 宿ではお昼ご飯は出ないのだと説明される。ベッドの上に座る僕は、頭に巻いた布を外してもらった。苦しくないけど、やっぱりない方がいい。

「こっちにおいで、イシス」

「セティ」

 大急ぎで走って近づいた。イシスって名前を呼んでくれるのが嬉しい。だから僕も呼ぶ。一緒にご飯を食べた。手で掴んで食べられる物だと言われ、棒に刺さった塊を齧る。昨日食べたやつに味が似ていた。その日は買い物で行った店の服を着て、ずっと窓から外を見て過ごす。

「楽しいか?」

「うん」

 これだけたくさんの人間がいて、同じ人間がいないなんてすごい。頬を緩めて足を揺らしながら、ずっと窓の外を見続けた。

「構わないと拗ねるぞ」

 難しいことを言って、セティの手が僕を振り向かせる。顎に触った手にキスすると、笑いながらベッドの上に寝転んだ。まだ寝る時間じゃないのに、たくさんキスをくれて、セティが笑うから僕も笑った。ずっと……セティといられたらいいのに。
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