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09.触っても嫌いにならないの? ※微
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見たことがない部屋、柔らかいベッド、それからいつもの毛布と……セティ。
「起きたのか、イシス。何か食べられそう?」
イシスと呼ばれたことに頷いていたら、食べ物を聞かれた。お腹空いた。
「食べる」
答えてから気づいた。あの部屋を出てしまったら、どこからスープとパンが来るんだろう。いつもの人は僕がここにいるってわかる? そうじゃないと運んでこない。
大好きな毛布を掴む手と逆の手が、セティの服を握ってた。慌てて離す。セティは殴らないと思うけど、服を掴んだり何か話すたび大きな声で怒られた。叩くのと殴るのは同じだけど、手の形が違う。叩かれるとぱちんって言ってひりひりする。殴られたら動けなくなる。ずきずきして、いつまでも痛かった。
どっちも嫌いだ。
セティの手が動いて頭の上に置くのを、ぐっとこらえて見ていた。ぐりぐりと頭を揺らす。顔がくしゃっと崩れた。こういう顔を笑うってお爺ちゃんは呼んでた。
寝ていたベッドに座り直した僕の隣から、セティは目の前に移動した。置いてある椅子に座って話し始める。
「下に行くといろんな人間がいるから、絶対にオレから離れるなよ。それと今は赤い髪と青い目に見えるようにした。わかるか? オレと同じ色だ」
セティが自分の髪と目を指さして、次に僕の髪を触る。同じはわかる。2つある果物は同じだった。長い髪を引っ張ってみると、赤い色だった。セティの色……嬉しくなって頷く。何度も頷いて赤毛を引っ張ってセティに見せた。
黒いと嫌われるけど、赤ければ平気だよ。きっともう叩かれたり殴られたりしない。
「わかる、赤! 同じ」
「そっか。イシスは賢いな。いい子だ」
いい子――お爺ちゃんが撫でてくれた時の言葉だ。抱き着きたいけど、触ったら嫌われるかな。伸ばしかけた手を止めて、セティの顔を窺う。もう少し伸ばしたけど、にこにこしてる。触ってもいいの?
セティが椅子から下りて、床に膝をついた。僕の顔と同じ高さでぎゅっとしてくれる。僕が伸ばした手も一緒に包まれた。温かくて気持ちいい。ずっとこうしていたら嬉しい。
「イシス、触りたくなったらいつでも手を伸ばしていい。迷惑じゃない、嫌いにならない。だから遠慮しちゃダメだ」
嫌いにならない? 触っていいの? 遠慮はわかんないけど。
「わかるか? イシスが触りたいなら、触っていい。オレがそう決めた」
決まったこと。じゃあ触れるね。包まれた手を動かして、僕からもぎゅっとした。こうして抱っこされると嬉しいから、セティも嬉しいといい。顔を見たいけど、そのために離れるのは嫌だった。だからずっとこうしていたい……でもセティは僕を抱っこして動く。
ふわっとして怖くなって抱き着いた。両手でしっかりセティの服を掴んだら、くすくす笑う音がして額にちゅっと音が降ってくる。キスだ。これは嬉しくなるし、温かくて好き。お返ししたら、きっと喜んでくれる。そう思ったら我慢できなかった。
目の前に見える近い距離のセティの青い目を見ながら、頬に唇を押し当てる。すると今度は目の上に来たから、あわてて目を閉じた。自分でもあまり触れない場所にちゅっと音がして、頬にちゅっとされる。驚いて目を開けると、顔がぼやけるくらい近かった。
唇が重なると、ぬるっと舐められる。くすぐったくて笑うと開いた隙間から舌が入った。甘い、僕の舌は味しないのに……セティは甘い。見つめ合ったままくちゅっと濡れた音がして、セティが笑った。
よかった、セティも僕と一緒でキスが好きなんだ。嬉しいんだね。そのまま抱っこして歩くセティの首に顔を埋めると、顎がじょりっとした。髭、お爺ちゃんより短いけど……これは髭だ。知っている物を見つけたのが嬉しくて、僕にはない感触が気になった。
指を伸ばして撫でてみる。ざらざらする! 押すとちくちくする。いろんな感じが混ざって、僕はずっと髭を触っていた。
「起きたのか、イシス。何か食べられそう?」
イシスと呼ばれたことに頷いていたら、食べ物を聞かれた。お腹空いた。
「食べる」
答えてから気づいた。あの部屋を出てしまったら、どこからスープとパンが来るんだろう。いつもの人は僕がここにいるってわかる? そうじゃないと運んでこない。
大好きな毛布を掴む手と逆の手が、セティの服を握ってた。慌てて離す。セティは殴らないと思うけど、服を掴んだり何か話すたび大きな声で怒られた。叩くのと殴るのは同じだけど、手の形が違う。叩かれるとぱちんって言ってひりひりする。殴られたら動けなくなる。ずきずきして、いつまでも痛かった。
どっちも嫌いだ。
セティの手が動いて頭の上に置くのを、ぐっとこらえて見ていた。ぐりぐりと頭を揺らす。顔がくしゃっと崩れた。こういう顔を笑うってお爺ちゃんは呼んでた。
寝ていたベッドに座り直した僕の隣から、セティは目の前に移動した。置いてある椅子に座って話し始める。
「下に行くといろんな人間がいるから、絶対にオレから離れるなよ。それと今は赤い髪と青い目に見えるようにした。わかるか? オレと同じ色だ」
セティが自分の髪と目を指さして、次に僕の髪を触る。同じはわかる。2つある果物は同じだった。長い髪を引っ張ってみると、赤い色だった。セティの色……嬉しくなって頷く。何度も頷いて赤毛を引っ張ってセティに見せた。
黒いと嫌われるけど、赤ければ平気だよ。きっともう叩かれたり殴られたりしない。
「わかる、赤! 同じ」
「そっか。イシスは賢いな。いい子だ」
いい子――お爺ちゃんが撫でてくれた時の言葉だ。抱き着きたいけど、触ったら嫌われるかな。伸ばしかけた手を止めて、セティの顔を窺う。もう少し伸ばしたけど、にこにこしてる。触ってもいいの?
セティが椅子から下りて、床に膝をついた。僕の顔と同じ高さでぎゅっとしてくれる。僕が伸ばした手も一緒に包まれた。温かくて気持ちいい。ずっとこうしていたら嬉しい。
「イシス、触りたくなったらいつでも手を伸ばしていい。迷惑じゃない、嫌いにならない。だから遠慮しちゃダメだ」
嫌いにならない? 触っていいの? 遠慮はわかんないけど。
「わかるか? イシスが触りたいなら、触っていい。オレがそう決めた」
決まったこと。じゃあ触れるね。包まれた手を動かして、僕からもぎゅっとした。こうして抱っこされると嬉しいから、セティも嬉しいといい。顔を見たいけど、そのために離れるのは嫌だった。だからずっとこうしていたい……でもセティは僕を抱っこして動く。
ふわっとして怖くなって抱き着いた。両手でしっかりセティの服を掴んだら、くすくす笑う音がして額にちゅっと音が降ってくる。キスだ。これは嬉しくなるし、温かくて好き。お返ししたら、きっと喜んでくれる。そう思ったら我慢できなかった。
目の前に見える近い距離のセティの青い目を見ながら、頬に唇を押し当てる。すると今度は目の上に来たから、あわてて目を閉じた。自分でもあまり触れない場所にちゅっと音がして、頬にちゅっとされる。驚いて目を開けると、顔がぼやけるくらい近かった。
唇が重なると、ぬるっと舐められる。くすぐったくて笑うと開いた隙間から舌が入った。甘い、僕の舌は味しないのに……セティは甘い。見つめ合ったままくちゅっと濡れた音がして、セティが笑った。
よかった、セティも僕と一緒でキスが好きなんだ。嬉しいんだね。そのまま抱っこして歩くセティの首に顔を埋めると、顎がじょりっとした。髭、お爺ちゃんより短いけど……これは髭だ。知っている物を見つけたのが嬉しくて、僕にはない感触が気になった。
指を伸ばして撫でてみる。ざらざらする! 押すとちくちくする。いろんな感じが混ざって、僕はずっと髭を触っていた。
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