7 / 321
06.これがキス、抱っこ? ※微
しおりを挟む
食事で汚れた手を拭いてもらい、毛布を巻いた僕はうとうとと前後に揺れる。眠いけど、今寝たらいなくなっちゃう。だから必死で目を擦った。
毛布から腕を出され、それを人間の首に回される。直後にぐらりと傾いたから、怖くてしがみついた。腕に力を込めて引き寄せると、顔が近づいて焦ってしまう。
ちゅっと頬に何か触れた。温かくて気持ちよくて、もっと欲しい。瞬きしてから、頬に指先で触れてみた。特に何もくっついてないけど……見上げると、額にちゅっと同じ音がして人間の唇がぶつかる。
「嫌か?」
首を横に振る。もっと欲しい。でも欲しいと言ったら怒られるかも知れない。迷って、お返ししたら喜んでもらえるんじゃないかと思った。僕がされて嬉しいなら、僕がしてあげたら喜んでくれる。
頬の手をまた首に回して、腕の中で伸びをした。届かなくて、顎のところに触る。ちゅっと音がしないけど、方法が間違ってるのかな。驚いた顔をする人間を見つめると、頭をぐりぐりされた。気持ちいい、この人間が触れる場所はみんな気持ちいい。
もう一度試してみようと身を伸ばしたのと、人間が屈んだのが同時だった。唇と唇が触れて、柔らかさにうっとり目を閉じる。自分の唇は触っても何ともないのに、人間の唇は少し甘い。もっと……甘いのが欲しい。噛みついたら痛いだろうから、舐めてみよう。
舌を動かすと、すぐにぐにゃりとした何かが口の中に広がった。甘くて気持ちよくて、目を閉じてしまったから、何が起きたのか分からないけど。
「っ、ごめん」
困ったような顔でそう言われて、いけないことだったの? と混乱した。もっと欲しいなんて思った僕がいけないんだ。鼻の奥がつんとして顔を毛布に押し付ける。柔らかくて暖かい毛布は大好きなのに、甘い唇と違うのが悲しかった。
「もう、しない……ごめ、なさい」
降ろされちゃうのかな、僕を置いていなくなる。そう思ったから謝ろうと必死で口を開く。普段話さないから、言葉を探しながら頭はぐちゃぐちゃだった。
「泣かせちゃったか」
前が見えなくなって目が熱くなる。零れた涙を、ぺろっと舐められた。びっくりして次の言葉を忘れてしまう。人間は赤い髪をくしゃくしゃと指でかき回して、ひとつ大きな息を吐いた。
「気持ち悪かった?」
「ううん」
首を横に振って違うと示す。
「じゃあ、またキスしていい?」
「キス……何?」
知らない言葉だ。キス……聞いたことがないけど、頷いたら連れてってくれる?
ドキドキしながら青い目に手を伸ばす。目の近くを撫でて、頬に触れた。僕より温かくて、少しざりざりする。
「これがキス」
そう言って、また唇が触った。僕の唇に押し当てて、舌がぺろっと舐める。甘い……少し開くと、分厚い舌が入り込んだ。さっきは目を閉じたからよくわからなかったけど、口の中に僕のじゃない舌がある。舌で追いかけると逃げられて、引っ込めると追いかけられた。
最後にくちゅっと濡れた音がして離れると、唇が冷たくなる。
「もっと」
お爺ちゃんに甘い食べ物を貰った時に教えてもらった言葉で、たくさん欲しいと強請る。両手で抱き着いた首を引っ張って、僕は顔を近づけた。
音を立ててちゅっとキスされて、少し足りないけど満足する。たくさん欲しがるのは悪いことだって聞いた。ここで我慢しないと。
「さっさとここを出よう」
機嫌がよくなった人間は、僕を持ったまま出ていく。きっとこれが『抱っこ』だ。絵本でみた包むのより近くて、胸がじんと痺れた。ずっとこうしていたいな。すりっと人間の首に頭を寄せるけれど、叩かれることはなくて……僕は初めて神殿の外を見た。
毛布から腕を出され、それを人間の首に回される。直後にぐらりと傾いたから、怖くてしがみついた。腕に力を込めて引き寄せると、顔が近づいて焦ってしまう。
ちゅっと頬に何か触れた。温かくて気持ちよくて、もっと欲しい。瞬きしてから、頬に指先で触れてみた。特に何もくっついてないけど……見上げると、額にちゅっと同じ音がして人間の唇がぶつかる。
「嫌か?」
首を横に振る。もっと欲しい。でも欲しいと言ったら怒られるかも知れない。迷って、お返ししたら喜んでもらえるんじゃないかと思った。僕がされて嬉しいなら、僕がしてあげたら喜んでくれる。
頬の手をまた首に回して、腕の中で伸びをした。届かなくて、顎のところに触る。ちゅっと音がしないけど、方法が間違ってるのかな。驚いた顔をする人間を見つめると、頭をぐりぐりされた。気持ちいい、この人間が触れる場所はみんな気持ちいい。
もう一度試してみようと身を伸ばしたのと、人間が屈んだのが同時だった。唇と唇が触れて、柔らかさにうっとり目を閉じる。自分の唇は触っても何ともないのに、人間の唇は少し甘い。もっと……甘いのが欲しい。噛みついたら痛いだろうから、舐めてみよう。
舌を動かすと、すぐにぐにゃりとした何かが口の中に広がった。甘くて気持ちよくて、目を閉じてしまったから、何が起きたのか分からないけど。
「っ、ごめん」
困ったような顔でそう言われて、いけないことだったの? と混乱した。もっと欲しいなんて思った僕がいけないんだ。鼻の奥がつんとして顔を毛布に押し付ける。柔らかくて暖かい毛布は大好きなのに、甘い唇と違うのが悲しかった。
「もう、しない……ごめ、なさい」
降ろされちゃうのかな、僕を置いていなくなる。そう思ったから謝ろうと必死で口を開く。普段話さないから、言葉を探しながら頭はぐちゃぐちゃだった。
「泣かせちゃったか」
前が見えなくなって目が熱くなる。零れた涙を、ぺろっと舐められた。びっくりして次の言葉を忘れてしまう。人間は赤い髪をくしゃくしゃと指でかき回して、ひとつ大きな息を吐いた。
「気持ち悪かった?」
「ううん」
首を横に振って違うと示す。
「じゃあ、またキスしていい?」
「キス……何?」
知らない言葉だ。キス……聞いたことがないけど、頷いたら連れてってくれる?
ドキドキしながら青い目に手を伸ばす。目の近くを撫でて、頬に触れた。僕より温かくて、少しざりざりする。
「これがキス」
そう言って、また唇が触った。僕の唇に押し当てて、舌がぺろっと舐める。甘い……少し開くと、分厚い舌が入り込んだ。さっきは目を閉じたからよくわからなかったけど、口の中に僕のじゃない舌がある。舌で追いかけると逃げられて、引っ込めると追いかけられた。
最後にくちゅっと濡れた音がして離れると、唇が冷たくなる。
「もっと」
お爺ちゃんに甘い食べ物を貰った時に教えてもらった言葉で、たくさん欲しいと強請る。両手で抱き着いた首を引っ張って、僕は顔を近づけた。
音を立ててちゅっとキスされて、少し足りないけど満足する。たくさん欲しがるのは悪いことだって聞いた。ここで我慢しないと。
「さっさとここを出よう」
機嫌がよくなった人間は、僕を持ったまま出ていく。きっとこれが『抱っこ』だ。絵本でみた包むのより近くて、胸がじんと痺れた。ずっとこうしていたいな。すりっと人間の首に頭を寄せるけれど、叩かれることはなくて……僕は初めて神殿の外を見た。
62
お気に入りに追加
1,225
あなたにおすすめの小説
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。
狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。
表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。
権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は?
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
【注意】※印は性的表現有ります
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる