1 / 321
01.僕はずっと待ってる ※微
しおりを挟む
「ん……っ、あ、やっ」
零れた声が甘くて、涙がこぼれた。身体を穿つ杭に似た彼の欲望が、深く……誰も知らない場所まで暴くのが嬉しい。このまま死ねたら最高なのに。そんな願いを口に出すことはなく、ただ必死で彼の背中に回した手で、逃げられないようにしがみつくだけ。
「やぁ……っ! ああ、ぁ」
奥の奥まで突き立てられる欲を受け止めて、意識が遠のいていく。温かく腹の底を満たす彼の想いと……汗で滑る肌の感触がすべてだった。
――ずっとこうしていたい僕の想いは、彼に届いたかな。
じゃらりと鎖の音が響いた。薄暗い洞窟は豪華な部屋になっている。神殿と呼ぶそうで、人間が何度も口にした言葉だ。住むところやご飯は不自由しないから贅沢な願いだけど、本当に欲しい物は手に入らなかった。誰か優しく撫でてくれないかな。少しでいいんだけど。
目が覚めても誰もいない。ずっと一人のまま……物を持ってくる人間はすぐに逃げてしまうし、僕はこの神殿から出られなかった。地下の薄暗い神殿しか知らずに育った僕は、今日もまた絵本を開く。文字は読めないけれど、たくさんの絵は色鮮やかだった。
出来るだけたくさん絵本が欲しい。そう告げた声に、柱の陰から承知したと返される。でも人間は姿を見せてくれなかった。いつもそう……慣れてしまったけど、一人はやはり嫌いだ。
絵本には青い空と白い雲、赤い太陽が必ず描かれていた。それからいろんな花や動物……自分の姿を見たことがないけど、僕はどれに似ているんだろう。想像しながら絵本を眺めるのは楽しかった。
長い髪を引っ張ってみる。黒くて細いのがいっぱいあるけど、絵本の中に描かれた人はみんな違う色だった。黒いから僕はここにいるのかな。ぼんやりと神殿の天井を見上げ、やはり黒いから嫌われるのかと納得した。
前に「黒い」と驚いた人間がいたから、きっと色が悪いんだ。
天井の隅が黒く見えるけど、あれは怖い。きっと僕の姿も怖いんだ。人間に無理やり近づこうとしないよう、この鎖もそれでつけられたのかも。そう考えてあまり迷惑を掛けないようにしようと決めた。だって嫌われるのはしょうがなくても、もっと嫌われるのは防げるかもしれない。
絵本をいつも広げているせいか、最近は本が増えた。綺麗な服の人が描かれていたり、柔らかそうな白い動物が描かれた本を開いて、いろいろと想像する。触って毛布みたいだったら嬉しい。ぎゅっとしたら温かい? それとも冷たいのかな。
誰も教えてくれる人がいないから、文字はわからない。でもたくさんある文字の種類は覚えた。読み方も意味もわからない。少し肌寒い気がして、ベッドへ向かった。いつも僕が本を読んでいる間に、こっそり人間が直してくれる。
一度隠れてて飛びつこうとしたせいで、今は部屋を移動すると鎖を短くされてしまう。隣の部屋に移動できないようになった。僕が悪いことをしたんだと諦めた。手を伸ばしちゃいけない。
用意されたベッドに寝ころび、お気に入りの絵本を引っ張り出した。これはいつも手の届く場所に置いていて、もうバラバラになっている。一枚ずつ確認するように開いて、また閉じた。
お話の内容はわからないけど、寂しそうな絵の人を別の人の腕が閉じ込める絵は僕の希望だ。いつか、誰でもいい。絵本の人みたいに僕に手を伸ばす人がいたらいいのに。
いつか……そう、僕はそれまで長くても待つから。
零れた声が甘くて、涙がこぼれた。身体を穿つ杭に似た彼の欲望が、深く……誰も知らない場所まで暴くのが嬉しい。このまま死ねたら最高なのに。そんな願いを口に出すことはなく、ただ必死で彼の背中に回した手で、逃げられないようにしがみつくだけ。
「やぁ……っ! ああ、ぁ」
奥の奥まで突き立てられる欲を受け止めて、意識が遠のいていく。温かく腹の底を満たす彼の想いと……汗で滑る肌の感触がすべてだった。
――ずっとこうしていたい僕の想いは、彼に届いたかな。
じゃらりと鎖の音が響いた。薄暗い洞窟は豪華な部屋になっている。神殿と呼ぶそうで、人間が何度も口にした言葉だ。住むところやご飯は不自由しないから贅沢な願いだけど、本当に欲しい物は手に入らなかった。誰か優しく撫でてくれないかな。少しでいいんだけど。
目が覚めても誰もいない。ずっと一人のまま……物を持ってくる人間はすぐに逃げてしまうし、僕はこの神殿から出られなかった。地下の薄暗い神殿しか知らずに育った僕は、今日もまた絵本を開く。文字は読めないけれど、たくさんの絵は色鮮やかだった。
出来るだけたくさん絵本が欲しい。そう告げた声に、柱の陰から承知したと返される。でも人間は姿を見せてくれなかった。いつもそう……慣れてしまったけど、一人はやはり嫌いだ。
絵本には青い空と白い雲、赤い太陽が必ず描かれていた。それからいろんな花や動物……自分の姿を見たことがないけど、僕はどれに似ているんだろう。想像しながら絵本を眺めるのは楽しかった。
長い髪を引っ張ってみる。黒くて細いのがいっぱいあるけど、絵本の中に描かれた人はみんな違う色だった。黒いから僕はここにいるのかな。ぼんやりと神殿の天井を見上げ、やはり黒いから嫌われるのかと納得した。
前に「黒い」と驚いた人間がいたから、きっと色が悪いんだ。
天井の隅が黒く見えるけど、あれは怖い。きっと僕の姿も怖いんだ。人間に無理やり近づこうとしないよう、この鎖もそれでつけられたのかも。そう考えてあまり迷惑を掛けないようにしようと決めた。だって嫌われるのはしょうがなくても、もっと嫌われるのは防げるかもしれない。
絵本をいつも広げているせいか、最近は本が増えた。綺麗な服の人が描かれていたり、柔らかそうな白い動物が描かれた本を開いて、いろいろと想像する。触って毛布みたいだったら嬉しい。ぎゅっとしたら温かい? それとも冷たいのかな。
誰も教えてくれる人がいないから、文字はわからない。でもたくさんある文字の種類は覚えた。読み方も意味もわからない。少し肌寒い気がして、ベッドへ向かった。いつも僕が本を読んでいる間に、こっそり人間が直してくれる。
一度隠れてて飛びつこうとしたせいで、今は部屋を移動すると鎖を短くされてしまう。隣の部屋に移動できないようになった。僕が悪いことをしたんだと諦めた。手を伸ばしちゃいけない。
用意されたベッドに寝ころび、お気に入りの絵本を引っ張り出した。これはいつも手の届く場所に置いていて、もうバラバラになっている。一枚ずつ確認するように開いて、また閉じた。
お話の内容はわからないけど、寂しそうな絵の人を別の人の腕が閉じ込める絵は僕の希望だ。いつか、誰でもいい。絵本の人みたいに僕に手を伸ばす人がいたらいいのに。
いつか……そう、僕はそれまで長くても待つから。
83
お気に入りに追加
1,304
あなたにおすすめの小説
【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。
狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。
表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。
権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は?
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
【注意】※印は性的表現有ります
【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者
みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】
リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。
ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。
そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。
「君とは対等な友人だと思っていた」
素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。
【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】
* * *
2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!
時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」
すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。
王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。
発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。
国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。
後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。
――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか?
容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。
怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手?
今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。
急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…?
過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。
ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!?
負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。
-------------------------------------------------------------------
主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる