69 / 70
69.二人の愛の証が増える日
しおりを挟む
結婚式から三年が経った。前の世界なら写真を残せたと思うけれど、残念ながらここにはない。代わりに、オウムの獣人が描いてくれた絵が壁にかかっていた。
「ほら、これがパパとママよ」
私は授かった可愛い娘に、絵を見せた。周囲にすごく期待されて生まれた我が子は、なんと子猫だった。愛猫達が毛繕いし、こまめに面倒を見てくれる。絶対に同族だと思ってるよね。
オレンジを筆頭にした姉や兄猫は、末っ子扱いの娘マリを大切にしていた。すごく嬉しい。
「マリーはどこだ? パパが帰ったぞ!」
レイモンドがどしどしと足音を立てて近づく。ぴくりと動いたマリの耳が扉の方を向き、腕の中でぐるりと体勢を変える。飛びかかる前の所作だ。バネを利用するため、ぐっと縮まった。
開いた扉と同時、マリがふわりと飛ぶ。レイモンドが滑り込んで受け止め、爪を立てられ「いてて」と笑った。
「おかえり、レイ」
「ただいま、アイカ、マリー」
愛称をレイにしたのは、結婚後すぐだった。引っ越したご近所に、同じ名前の小さなキリンがいて。リトル・レイモンドと呼ばれるのを嫌がっていたの。大きくなって見下ろしてやるからな! と威嚇する姿が可愛くて、私が呼び方を変えた。すると周囲も同調する。
何でも子ども優先で、この世界は子育てが楽だ。愛猫達も幼子扱いなのか、お散歩に出ても周囲が気にかけてくれる。ご近所さんの目撃情報で、すぐに発見されることが多かった。迷子の心配もほぼ要らない。
「お仕事は終わった?」
「ああ。今日はマリーの妹か弟をお願いしにいく日だからな」
子供の木に二人目をお願いする予定だ。結婚記念日という習慣がなかった世界だけど、私が言い出して広めた。他にも知識をいくつか利用して、道具が作られたりしている。
特許という考えはないので、国が知識や功績を買い上げて広めるのが一般的だった。私が広めたのは、お風呂に浮かせるヒヨコ、いくつかの言葉や習慣、リュックサックだ。キャリーは、似たような形状のバッグがあった。
荷物を背負うときは、風呂敷のような布で包んでいた。それをリュックサックにすればいいのに……と呟いたら、あれよあれよと実現したのだ。貰ったお金で、マリの子育て用品を買おうとしたら、国から支給だった。
この辺も助かっている。子育てしやすいから、次の子を望んでしまう。一緒に遊ぶ弟妹は欲しいよね。あまり年齢差がつくと、遊びにくくなるから。レイと話し合って決めた。
「マリも一緒でいいのかしら」
「アランが預かってもいいと言ったが、俺は猫の方が頼りになると思う」
足元でぶにぃとオレンジが胸を張る。ブランやノアールも近づいて、そわそわしていた。尻尾を立てて擦り寄るから、マリを預けてみる。まだ四つ足で歩く娘は、愛猫達に囲まれた。うん、問題なさそう。アイカは笑って頷く。
「オレンジ、ブラン、ノアール。マリをお願いね」
それぞれに了承を返す猫達に手を振り、レイの抱っこで移動だ。小さなアイカの歩幅に合わせていたら、時間がかかってしまう。夕暮れになれば視力が低下するので、早めに行って帰る予定だった。
「今度は男の子かな、女の子でもいいな」
「俺はどちらでも歓迎だ。種族も問わんぞ。何しろ、アイカの愛情の証だ」
恥ずかしげもなく、さらりと言えるところがレイモンドらしい。ふふっと笑い、腕の中で立ち上がった。ふらりと揺れたところを支える夫に、背伸びしてキスをひとつ。ぽっと赤くなったレイモンドの足が速くなった。
子供の木はもうすぐ――早く二人目を授かりますように。
*********************
明日完結予定です_( _*´ ꒳ `*)_
「ほら、これがパパとママよ」
私は授かった可愛い娘に、絵を見せた。周囲にすごく期待されて生まれた我が子は、なんと子猫だった。愛猫達が毛繕いし、こまめに面倒を見てくれる。絶対に同族だと思ってるよね。
オレンジを筆頭にした姉や兄猫は、末っ子扱いの娘マリを大切にしていた。すごく嬉しい。
「マリーはどこだ? パパが帰ったぞ!」
レイモンドがどしどしと足音を立てて近づく。ぴくりと動いたマリの耳が扉の方を向き、腕の中でぐるりと体勢を変える。飛びかかる前の所作だ。バネを利用するため、ぐっと縮まった。
開いた扉と同時、マリがふわりと飛ぶ。レイモンドが滑り込んで受け止め、爪を立てられ「いてて」と笑った。
「おかえり、レイ」
「ただいま、アイカ、マリー」
愛称をレイにしたのは、結婚後すぐだった。引っ越したご近所に、同じ名前の小さなキリンがいて。リトル・レイモンドと呼ばれるのを嫌がっていたの。大きくなって見下ろしてやるからな! と威嚇する姿が可愛くて、私が呼び方を変えた。すると周囲も同調する。
何でも子ども優先で、この世界は子育てが楽だ。愛猫達も幼子扱いなのか、お散歩に出ても周囲が気にかけてくれる。ご近所さんの目撃情報で、すぐに発見されることが多かった。迷子の心配もほぼ要らない。
「お仕事は終わった?」
「ああ。今日はマリーの妹か弟をお願いしにいく日だからな」
子供の木に二人目をお願いする予定だ。結婚記念日という習慣がなかった世界だけど、私が言い出して広めた。他にも知識をいくつか利用して、道具が作られたりしている。
特許という考えはないので、国が知識や功績を買い上げて広めるのが一般的だった。私が広めたのは、お風呂に浮かせるヒヨコ、いくつかの言葉や習慣、リュックサックだ。キャリーは、似たような形状のバッグがあった。
荷物を背負うときは、風呂敷のような布で包んでいた。それをリュックサックにすればいいのに……と呟いたら、あれよあれよと実現したのだ。貰ったお金で、マリの子育て用品を買おうとしたら、国から支給だった。
この辺も助かっている。子育てしやすいから、次の子を望んでしまう。一緒に遊ぶ弟妹は欲しいよね。あまり年齢差がつくと、遊びにくくなるから。レイと話し合って決めた。
「マリも一緒でいいのかしら」
「アランが預かってもいいと言ったが、俺は猫の方が頼りになると思う」
足元でぶにぃとオレンジが胸を張る。ブランやノアールも近づいて、そわそわしていた。尻尾を立てて擦り寄るから、マリを預けてみる。まだ四つ足で歩く娘は、愛猫達に囲まれた。うん、問題なさそう。アイカは笑って頷く。
「オレンジ、ブラン、ノアール。マリをお願いね」
それぞれに了承を返す猫達に手を振り、レイの抱っこで移動だ。小さなアイカの歩幅に合わせていたら、時間がかかってしまう。夕暮れになれば視力が低下するので、早めに行って帰る予定だった。
「今度は男の子かな、女の子でもいいな」
「俺はどちらでも歓迎だ。種族も問わんぞ。何しろ、アイカの愛情の証だ」
恥ずかしげもなく、さらりと言えるところがレイモンドらしい。ふふっと笑い、腕の中で立ち上がった。ふらりと揺れたところを支える夫に、背伸びしてキスをひとつ。ぽっと赤くなったレイモンドの足が速くなった。
子供の木はもうすぐ――早く二人目を授かりますように。
*********************
明日完結予定です_( _*´ ꒳ `*)_
22
お気に入りに追加
488
あなたにおすすめの小説
この度、青帝陛下の番になりまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
たった今、婚約破棄された悪役令嬢ですが、破滅の運命にある王子様が可哀想なのでスローライフにお誘いすることにしました
桜枕
ファンタジー
「私たち、異世界転生してる!?」
乙女ゲームの登場キャラクターであり、攻略対象であるフェルド王子は魔力ゼロで魔法を発動できないが、優れた剣技の持ち主である。そんな彼に転生していた辻くんは臆病な性格だが、家事全般をこなせるハイスペック男子だった。
ヒロインに嫌がらせをして断罪される公爵令嬢リリアンヌは膨大な魔力を持っていて、ルート分岐次第で敵幹部になるくせ者である。そんな彼女に転生していた美鈴さんはずる賢くも天然な一面を持つ女の子だった。
彼らは婚約破棄をきっかけに前世の記憶を取り戻した。
このままではゲーム通りの運命が待ち受けていると確信した二人は王宮を逃げ出し、モブキャラクターとして異世界でのスローライフを送る誓いを立てた。
互いの欠点を補いつつ生活を始めた二人は最高のパートナーとなっていく。
美鈴さんの自由奔放さに惹かれて彼女を溺愛する元王子様と、膨大な魔力を頼りにされていると勘違いした元悪役令嬢。
ひょんなことから魔力を持たないはずの辻くんに美鈴さんの魔力が流れ込み、彼は初めて魔法を発動させる。
それは超希少とされる精霊魔法だった。
王宮に戻るように騎士団に追われたり、魔王軍から勧誘を受けたり。
美鈴さんの理想とするスローライフは前途多難なものとなってしまう。
これは運命を逃れたい一心の二人が色々なものから逃げ切れなかった物語。
※小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
私ですか?
庭にハニワ
ファンタジー
うわ。
本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。
長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。
良く知らんけど。
この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。
それによって迷惑被るのは私なんだが。
あ、申し遅れました。
私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。
【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
魔族の住むゲヘナ国の幼女エウリュアレは、魔力もほぼゼロの無能な皇帝だった。だが彼女が持つ価値は、唯一無二のもの。故に強者が集まり、彼女を守り支える。揺らぐことのない玉座の上で、幼女は最弱でありながら一番愛される存在だった。
「私ね、皆を守りたいの」
幼い彼女の望みは優しく柔らかく、他国を含む世界を包んでいく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/20……完結
2022/02/14……小説家になろう ハイファンタジー日間 81位
2022/02/14……アルファポリスHOT 62位
2022/02/14……連載開始
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる