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68.幸せが一度に満ちて溢れ出す
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ブレンダの焦茶の毛皮に、白いドレスは映える。といっても、巻きスカートのような形だった。可愛い白いレースが、ひらひらと風に揺れる。色を合わせたのか、トムソンも白いリボンを誇らしげに巻いていた。
「なんでトム爺……じゃなくて、トムソンは頭に巻いたの?」
首は首輪用に空けるとしても、レイモンドみたいに胴体でいいじゃない。アイカの疑問に、こそっとレイモンドが答えた。
「それがな、リスの家具屋がこちらの方が女性ウケすると」
女性ウケ……するかな? アイカは首を傾げたが、周囲の奥さんたちの評判は悪くない。どころか、ブレンダは嬉しそうだった。二本足で歩く狼と熊の結婚式は、メルヘンチックだ。
「死ぬまで一緒にいてくれ。愛している、ブレンダ。君がいないとわしは……」
そこで涙ぐんだトムソンだが、涙声で最後まで言い切った。
「生きていけない。そのくらい好きだ」
立派だわ。アイカは手を叩こうとして、慌てて握った。まだブレンダの誓いが残っている。
「しょうがないね、私もあんたと暮らしたい。生きてる人の中で、あんたが一番だよ。大好きさ、トムソン」
不思議な言い回し。まるで死んだ人にも好きな人がいたような……あれ? そんな話を聞いた気がする。わっと拍手が起こり、慌ててアイカも拍手に混じった。
まあいいか。一番好きって言ったんだもん。過去なんて別にいいよね。ぶにぃ……変な鳴き声で乱入したオレンジが、会場内を走り回る。その口に何か虫を咥えているようだ。まさか、こっちへ運んでこないよね?
アイカの心配は的中し、オレンジは御祝儀とばかり昆虫を届けにきた。逃げるアイカだが、裾の長いドレスは走りづらい。ひょいっとレイモンドが爪をかけ、頭の上に避難させてくれた。
「助かった、ありがとう」
「どういたしまして……にしても、本物の猫の狩猟本能は凄いな」
肉屋の女将さんが、不満そうなオレンジを説得し始める。捌いて焼くつもりかな。オレンジはちらちらとアイカを見た後、そっと獲物を差し出した。
ブラン達はどうしているんだろう。見回すアイカの目に、屋根で昼寝をするノアールが映った。お腹を晒して幸せそうだ。ブランは白くて目立つはず……と思ったら、いつの間にかブレンダの脇にいた。完全に保護色だ。フリフリとお尻を振って攻撃態勢に入るブランの視線の先は……。
「あっ!」
さっと飛びかかったブランだが、セミに逃げられた。ブランと同じくらいあるセミは、高く空に舞う。追うように皆が見上げた空は、抜けるように青かった。
「いい天気だね」
「そうだな、いい結婚式だ」
笑うレイモンドのツノにしがみつき、アイカは彼の手で地上に戻された。お揃いの首輪交換を行うブレンダは、手際良く革製の黒い首輪を灰色狼に装着する。しゃがんだ彼女の首に、白い革製首輪が回された。狼の手は不器用で、苦戦してようやく留め終わる。
「これで二組の夫婦が生まれた。今後もこの世界は発展するぞ!」
「子どもは何が生まれるんだろうね」
「ニンゲンが増えるといいのに」
「ああ、手先が器用だから歓迎されるよ」
盛り上がる人々の挨拶を受けながら、レイモンドの鱗にキスをする。ぐいと降りてきた頭を抱えて、口の端と鼻にも口付けた。お返しに、化粧が取れそうな口付けをもらう。
肉や魚の焼ける匂い、野菜を煮たスープ鍋の湯気、大量に積み上げられたパン。どの店も大盤振る舞いで、無料配布した。お祭り騒ぎを楽しみながら、アイカはレイモンドとのんびり過ごす。
「さて、猫の捕獲をしなくちゃ」
日が暮れる前に捕獲して、キャリーごとお引越ししなくちゃね。ブレンダ達の新婚生活のお邪魔になっちゃう!
「なんでトム爺……じゃなくて、トムソンは頭に巻いたの?」
首は首輪用に空けるとしても、レイモンドみたいに胴体でいいじゃない。アイカの疑問に、こそっとレイモンドが答えた。
「それがな、リスの家具屋がこちらの方が女性ウケすると」
女性ウケ……するかな? アイカは首を傾げたが、周囲の奥さんたちの評判は悪くない。どころか、ブレンダは嬉しそうだった。二本足で歩く狼と熊の結婚式は、メルヘンチックだ。
「死ぬまで一緒にいてくれ。愛している、ブレンダ。君がいないとわしは……」
そこで涙ぐんだトムソンだが、涙声で最後まで言い切った。
「生きていけない。そのくらい好きだ」
立派だわ。アイカは手を叩こうとして、慌てて握った。まだブレンダの誓いが残っている。
「しょうがないね、私もあんたと暮らしたい。生きてる人の中で、あんたが一番だよ。大好きさ、トムソン」
不思議な言い回し。まるで死んだ人にも好きな人がいたような……あれ? そんな話を聞いた気がする。わっと拍手が起こり、慌ててアイカも拍手に混じった。
まあいいか。一番好きって言ったんだもん。過去なんて別にいいよね。ぶにぃ……変な鳴き声で乱入したオレンジが、会場内を走り回る。その口に何か虫を咥えているようだ。まさか、こっちへ運んでこないよね?
アイカの心配は的中し、オレンジは御祝儀とばかり昆虫を届けにきた。逃げるアイカだが、裾の長いドレスは走りづらい。ひょいっとレイモンドが爪をかけ、頭の上に避難させてくれた。
「助かった、ありがとう」
「どういたしまして……にしても、本物の猫の狩猟本能は凄いな」
肉屋の女将さんが、不満そうなオレンジを説得し始める。捌いて焼くつもりかな。オレンジはちらちらとアイカを見た後、そっと獲物を差し出した。
ブラン達はどうしているんだろう。見回すアイカの目に、屋根で昼寝をするノアールが映った。お腹を晒して幸せそうだ。ブランは白くて目立つはず……と思ったら、いつの間にかブレンダの脇にいた。完全に保護色だ。フリフリとお尻を振って攻撃態勢に入るブランの視線の先は……。
「あっ!」
さっと飛びかかったブランだが、セミに逃げられた。ブランと同じくらいあるセミは、高く空に舞う。追うように皆が見上げた空は、抜けるように青かった。
「いい天気だね」
「そうだな、いい結婚式だ」
笑うレイモンドのツノにしがみつき、アイカは彼の手で地上に戻された。お揃いの首輪交換を行うブレンダは、手際良く革製の黒い首輪を灰色狼に装着する。しゃがんだ彼女の首に、白い革製首輪が回された。狼の手は不器用で、苦戦してようやく留め終わる。
「これで二組の夫婦が生まれた。今後もこの世界は発展するぞ!」
「子どもは何が生まれるんだろうね」
「ニンゲンが増えるといいのに」
「ああ、手先が器用だから歓迎されるよ」
盛り上がる人々の挨拶を受けながら、レイモンドの鱗にキスをする。ぐいと降りてきた頭を抱えて、口の端と鼻にも口付けた。お返しに、化粧が取れそうな口付けをもらう。
肉や魚の焼ける匂い、野菜を煮たスープ鍋の湯気、大量に積み上げられたパン。どの店も大盤振る舞いで、無料配布した。お祭り騒ぎを楽しみながら、アイカはレイモンドとのんびり過ごす。
「さて、猫の捕獲をしなくちゃ」
日が暮れる前に捕獲して、キャリーごとお引越ししなくちゃね。ブレンダ達の新婚生活のお邪魔になっちゃう!
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