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67.首輪交換と愛の誓い
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着替えもヘアメイクも整い、首輪の入った箱は先に運び出された。この後は部屋を出て、花婿の手をとるだけ。
今日は街中が、お祭りと合わせて大騒ぎだった。その喧騒が聞こえてくる部屋から出たら、庭で待つ花婿とパレードに出る。パレードの話はアランが持ち込んだらしく、どの世界でも派手好きはいるんだなと遠い目をしたアイカだった。
「最後の仕上げだよ」
ブレンダはそう告げると、合図をひとつ。カーティスが裏から入ってくる。高さがギリギリだが、扉をくぐった彼は花籠を持っていた。
「これって……」
「花束を持つんだろう? 京都人の話にあったってさ。レイモンドが探したんだよ」
花籠の持ち手を咥えたカーティスが「どうぞ」と差し出す。鮮やかな赤と黄色の花束がひとつ、もう一つは青と黄色の花だった。迷って赤い方を手に取る。残った方をブレンダが掴んだ。
「男性は入っちゃダメだけど、カーティスは子どもだからね」
ふふっと笑う隣家の奥さんに、そっと背を押された。
「早く行っておやり。花婿達がソワソワしているよ」
この世界に神様を信仰する習慣はない。だからお神輿にも、ご神体はなかった。当然、結婚式も人前で「結婚します、幸せになります」と宣言するだけ。アイカにしたら、逆にセリフが決まってないのは難しいのだけれど。
扉を開いて待つ奥さん達に促され、先にアイカが出た。すぐにブレンダが続く。わっと歓声が上がった。
「おめでとう」
「幸せになりなよ」
お祝いの声が大量に振ってきた。背の低い種族は塀の内側へ、外には大柄な種族がいる。入りきれないけど、塀より低い種族は何か台を使ったみたい。背の高い者に抱き上げてもらう者もいる。
名前も知らない動物から、動物園や図鑑で見た馴染みの動物まで。獣人の種族も大きさもまちまちだけど、全部動物姿だ。なんだか夢の中にいるみたいだとアイカは頬を緩めた。
見上げる大きさの新郎は、鱗を磨いてきたらしい。眩しいほどだった。心配したタキシードではなく、胴体に太いリボンを巻いている。背中で結ばれたリボンは、ピンクと白だった。白いリボンにピンクのレース……私のドレスに合わせたのかな。
「ありがとう、レイモンド。これからよろしくね」
「結婚宣言はまだ早いぞ。司会に怒られてしまう」
ほらっと示されたのは、オレンジがよく登る大木の前に立つ八百屋の女将さん。手招きされ、しずしずと従う。
「結婚式を始めます。花婿、竜帝レイモンド。花嫁、外の人アイカ」
打ち合わせ通り、向かい合う。レイモンドの尻尾が誰かの足に触れたようで、ちらっと騒ぎが聞こえた。
「我、竜帝レイモンドは外の世界から来た花嫁アイカを……一生かけて幸せにすることを誓う」
思ったより、本格的だった。アイカは慌てて頭の中で言葉を組み立てる。微笑んで頬を寄せるように近づいたレイモンドに、その言葉は吹き飛んだ。
「私はレイモンドが好き。愛している。元の世界に戻りたいと思えないくらい、この世界であなたと幸せになるわ」
病める時も健やかなる時も……そんな厳かな言葉じゃ間に合わない。溢れ出した感情のままに抱きついた。首を下げた彼が、器用にアイカを持ち上げる。キリンの補助で、竜の首に首輪が乗せられた。後はアイカが止めるだけ。
首輪を着けて、降りてから後ろを向いて自分の首に飾りを当てる。大きな爪が触れて、かちゃんと音がした。二人の首輪装着が終わり、笑顔で抱きしめ合う。
「感動しているところ悪いけど、場所を開けておくれ」
ブレンダ達の結婚式もあるんだった! 慌ててレイモンドと庭の片隅に移動した。
今日は街中が、お祭りと合わせて大騒ぎだった。その喧騒が聞こえてくる部屋から出たら、庭で待つ花婿とパレードに出る。パレードの話はアランが持ち込んだらしく、どの世界でも派手好きはいるんだなと遠い目をしたアイカだった。
「最後の仕上げだよ」
ブレンダはそう告げると、合図をひとつ。カーティスが裏から入ってくる。高さがギリギリだが、扉をくぐった彼は花籠を持っていた。
「これって……」
「花束を持つんだろう? 京都人の話にあったってさ。レイモンドが探したんだよ」
花籠の持ち手を咥えたカーティスが「どうぞ」と差し出す。鮮やかな赤と黄色の花束がひとつ、もう一つは青と黄色の花だった。迷って赤い方を手に取る。残った方をブレンダが掴んだ。
「男性は入っちゃダメだけど、カーティスは子どもだからね」
ふふっと笑う隣家の奥さんに、そっと背を押された。
「早く行っておやり。花婿達がソワソワしているよ」
この世界に神様を信仰する習慣はない。だからお神輿にも、ご神体はなかった。当然、結婚式も人前で「結婚します、幸せになります」と宣言するだけ。アイカにしたら、逆にセリフが決まってないのは難しいのだけれど。
扉を開いて待つ奥さん達に促され、先にアイカが出た。すぐにブレンダが続く。わっと歓声が上がった。
「おめでとう」
「幸せになりなよ」
お祝いの声が大量に振ってきた。背の低い種族は塀の内側へ、外には大柄な種族がいる。入りきれないけど、塀より低い種族は何か台を使ったみたい。背の高い者に抱き上げてもらう者もいる。
名前も知らない動物から、動物園や図鑑で見た馴染みの動物まで。獣人の種族も大きさもまちまちだけど、全部動物姿だ。なんだか夢の中にいるみたいだとアイカは頬を緩めた。
見上げる大きさの新郎は、鱗を磨いてきたらしい。眩しいほどだった。心配したタキシードではなく、胴体に太いリボンを巻いている。背中で結ばれたリボンは、ピンクと白だった。白いリボンにピンクのレース……私のドレスに合わせたのかな。
「ありがとう、レイモンド。これからよろしくね」
「結婚宣言はまだ早いぞ。司会に怒られてしまう」
ほらっと示されたのは、オレンジがよく登る大木の前に立つ八百屋の女将さん。手招きされ、しずしずと従う。
「結婚式を始めます。花婿、竜帝レイモンド。花嫁、外の人アイカ」
打ち合わせ通り、向かい合う。レイモンドの尻尾が誰かの足に触れたようで、ちらっと騒ぎが聞こえた。
「我、竜帝レイモンドは外の世界から来た花嫁アイカを……一生かけて幸せにすることを誓う」
思ったより、本格的だった。アイカは慌てて頭の中で言葉を組み立てる。微笑んで頬を寄せるように近づいたレイモンドに、その言葉は吹き飛んだ。
「私はレイモンドが好き。愛している。元の世界に戻りたいと思えないくらい、この世界であなたと幸せになるわ」
病める時も健やかなる時も……そんな厳かな言葉じゃ間に合わない。溢れ出した感情のままに抱きついた。首を下げた彼が、器用にアイカを持ち上げる。キリンの補助で、竜の首に首輪が乗せられた。後はアイカが止めるだけ。
首輪を着けて、降りてから後ろを向いて自分の首に飾りを当てる。大きな爪が触れて、かちゃんと音がした。二人の首輪装着が終わり、笑顔で抱きしめ合う。
「感動しているところ悪いけど、場所を開けておくれ」
ブレンダ達の結婚式もあるんだった! 慌ててレイモンドと庭の片隅に移動した。
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