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55.世界が違うから理解が追いつかない
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「首輪かぁ、せめて首飾りに変更できないかな」
アイカはぼそっと呟くが、目の前には購入して与えた首輪の猫達が三匹。猫につけておいて、自分は嫌とか通らない。そう思ったら笑みが漏れた。
「別にいっか。他に人間居ないんだし」
獣人達は、首輪にさほど違和感はないと聞いた。ならこの世界の装飾品として、受け入れた方がいい。結婚式後に住む屋敷の模様替えを、先に手配しなくては。
「アイカ、レイモンドが……」
来たよと呼ぶ前に、ばふっと室内に風が入ってきた。着陸時に毎回起きる現象なので、はいはいと外へ出る。何かを足で掴み運んだようで、ブレンダと駆け寄った。包みを開けば、中には大量のカタログ。
「この世界にもカタログがあるんだね」
「ああ、前のキョウトジンの知恵だ」
実物を持ち歩かなくて済むし、多くの人に見せられるので便利だ。別世界からの知識は、本当にささやかな物ばかりだった。危険な兵器や使い方を誤ると世界が滅びそうな道具は、なぜか再現できないらしい。
お陰で平和な道具ばかり広まった。いずれ、アイカの広めたペアの首輪も慣習になる。そう言われると、たいした知識じゃないのにと恥ずかしかった。
「これ、初めて見る印刷方法。コピー? ちょっと違う」
ガリ版印刷は、ロウ紙の上にペンで傷をつけながら書き、そこへインクを滲ませる方法だ。少なくともアイカは直接知っている世代ではない。こうなると、京都人のシミズさんはかなり年上だったのだろう。
大まかな仕組みは理解したアイカは、大量に刷られたガリ版カタログを楽しんだ。これは色を重ねて、カラーも楽しめるという。もちろん、書く人の技量が必要だ。羊の獣人がこのガリ版を使って、カラー絵本を描いているらしい。
「この家具、どうかな」
「大きすぎるぞ。アイカはこのくらいだ」
指先でちょんと大きさを示され、アイカはじっくりカタログに目を通す。確かにサイズ表記の単位が大きかった。
「無理かぁ」
「小さめに作れるか、聞いておこう」
「うん、ありがとう」
カタログを覗きながら、あれこれと相談する。前の世界では猫と添い遂げるつもりだったので、なんだか擽ったい。こんな大きな旦那さんをもらうなんて思ってもみなか……ん?
「ねえ、変なこと聞いていい?」
「構わないぞ」
「子供ってどうやって作るの」
小学生が母親に尋ねて「お父さんに聞きなさい」って逃げられるやつだ。自分で口にしたくせに、アイカはそんな感想を抱いた。だが、レイモンドはここでブレンダに回さなかった。
「子供……ああ、体の大きさの違いを心配しているのか」
「そう。どうするのかなって」
大型鹿カーティスの両親って、牛と馬だし。一般的に大きさ問題はクリアしても、種族違う子が生まれる理由も不明だた。あの頃は常識の教科書を上級まで読めば書いてあると考えた。しかし載っていなかったのである。
「まず、満月の夜に子供の木の下でキスをする」
「うん……うん?」
なるほどと頷いた直後、単語に引っかかって首を傾げる。子供の木って何?
「満月はわかるか?」
「そこじゃなくて、子供の木を教えて」
「そっちか。街の中央に大きな赤い葉の木が立っているだろう。あれだ」
確かに紅葉に似た赤い色の、銀杏のような形の葉がついた木を見かけた。大木というには、やや小さく感じる。まあドラゴンと比べてはいけないけれど。
「あの下でキスをするんだ」
思い浮かべる。キスをしたら、私のお腹が大きくなるってこと? 想像できなくて頭を抱えた。突然蹲って「うーん」と唸るアイカへ、レイモンドも首を傾げた。
何がわからなくて悩んでいるのか、そこがわからないのだ。二人の間に広がる理解の溝は、巨大で深かった。
アイカはぼそっと呟くが、目の前には購入して与えた首輪の猫達が三匹。猫につけておいて、自分は嫌とか通らない。そう思ったら笑みが漏れた。
「別にいっか。他に人間居ないんだし」
獣人達は、首輪にさほど違和感はないと聞いた。ならこの世界の装飾品として、受け入れた方がいい。結婚式後に住む屋敷の模様替えを、先に手配しなくては。
「アイカ、レイモンドが……」
来たよと呼ぶ前に、ばふっと室内に風が入ってきた。着陸時に毎回起きる現象なので、はいはいと外へ出る。何かを足で掴み運んだようで、ブレンダと駆け寄った。包みを開けば、中には大量のカタログ。
「この世界にもカタログがあるんだね」
「ああ、前のキョウトジンの知恵だ」
実物を持ち歩かなくて済むし、多くの人に見せられるので便利だ。別世界からの知識は、本当にささやかな物ばかりだった。危険な兵器や使い方を誤ると世界が滅びそうな道具は、なぜか再現できないらしい。
お陰で平和な道具ばかり広まった。いずれ、アイカの広めたペアの首輪も慣習になる。そう言われると、たいした知識じゃないのにと恥ずかしかった。
「これ、初めて見る印刷方法。コピー? ちょっと違う」
ガリ版印刷は、ロウ紙の上にペンで傷をつけながら書き、そこへインクを滲ませる方法だ。少なくともアイカは直接知っている世代ではない。こうなると、京都人のシミズさんはかなり年上だったのだろう。
大まかな仕組みは理解したアイカは、大量に刷られたガリ版カタログを楽しんだ。これは色を重ねて、カラーも楽しめるという。もちろん、書く人の技量が必要だ。羊の獣人がこのガリ版を使って、カラー絵本を描いているらしい。
「この家具、どうかな」
「大きすぎるぞ。アイカはこのくらいだ」
指先でちょんと大きさを示され、アイカはじっくりカタログに目を通す。確かにサイズ表記の単位が大きかった。
「無理かぁ」
「小さめに作れるか、聞いておこう」
「うん、ありがとう」
カタログを覗きながら、あれこれと相談する。前の世界では猫と添い遂げるつもりだったので、なんだか擽ったい。こんな大きな旦那さんをもらうなんて思ってもみなか……ん?
「ねえ、変なこと聞いていい?」
「構わないぞ」
「子供ってどうやって作るの」
小学生が母親に尋ねて「お父さんに聞きなさい」って逃げられるやつだ。自分で口にしたくせに、アイカはそんな感想を抱いた。だが、レイモンドはここでブレンダに回さなかった。
「子供……ああ、体の大きさの違いを心配しているのか」
「そう。どうするのかなって」
大型鹿カーティスの両親って、牛と馬だし。一般的に大きさ問題はクリアしても、種族違う子が生まれる理由も不明だた。あの頃は常識の教科書を上級まで読めば書いてあると考えた。しかし載っていなかったのである。
「まず、満月の夜に子供の木の下でキスをする」
「うん……うん?」
なるほどと頷いた直後、単語に引っかかって首を傾げる。子供の木って何?
「満月はわかるか?」
「そこじゃなくて、子供の木を教えて」
「そっちか。街の中央に大きな赤い葉の木が立っているだろう。あれだ」
確かに紅葉に似た赤い色の、銀杏のような形の葉がついた木を見かけた。大木というには、やや小さく感じる。まあドラゴンと比べてはいけないけれど。
「あの下でキスをするんだ」
思い浮かべる。キスをしたら、私のお腹が大きくなるってこと? 想像できなくて頭を抱えた。突然蹲って「うーん」と唸るアイカへ、レイモンドも首を傾げた。
何がわからなくて悩んでいるのか、そこがわからないのだ。二人の間に広がる理解の溝は、巨大で深かった。
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