54 / 70
54.言わなくて叱られ、言っても怒られる
しおりを挟む
結婚式を行うと告知したところ、街中がお祭り騒ぎとなった。まだ結婚前なのにセールが始まったり、街の人からお祝いが届いたり。セールに関しては便乗商法だと思うけど。
アイカが苦笑いする一方、ブレンダはほくほく顔で帰宅した。通りを歩くだけで、皆から野菜をもらえたらしい。それは助かるし、素直に嬉しい。
何に加工するか盛り上がりながら、サラダを作った。一部の果物はジャムで保存すると決まり、明日は砂糖の買い出しだ。葉物野菜を手でちぎりながら、アイカはちらりとブレンダを見た。気づいたブレンダが首を傾げると、おずおずと尋ねる。
「ここを出ちゃうの?」
「ああ、放置すると家が荒れるし。ここはアイカのお金で借りた家だからね」
「でも……」
最初に住んだログハウスより、この家で暮らした時間の方が長くなった。実家のような感覚で、維持したいと思う。贅沢だけど。夫になるレイモンドがいる屋敷に住むんだけど。それでも寂しい感じがした。
「どこに住んだって、私だよ」
「うん、わかってるけどね。寂しいなって感じるの」
でも気にしなくていいよ。そう付け足して、アイカは水音を立てて野菜を洗った。勢いよく水を切り、お皿に盛り付ける。慣れた手つきで彩りを整え、食堂へ運んだ。今日はトムソンだけで、レイモンドは自宅に帰っている。
「はい、サラダ」
「うむ……葉っぱは好かん」
「贅沢言わないで」
笑いながら、ひとつ摘んで口に入れる。思ったより酸っぱくて顔をしかめながら、アイカは猫達の餌の支度を始めた。
焼いた魚をほぐし、鶏肉っぽい正体不明の肉を茹でる。キャットフードがないので、魚と肉中心になった。時々パンも食べている。樹液だというミルクを用意し、猫達を呼んだ。
「オレンジ、ブラン、ノアール。ご飯よ」
ぶぎゃああ、派手な声でオレンジが突進する。後ろからのそりと顔を見せたのはノアールで、勢いつきすぎて足を滑らせたのはブランだ。しかも失敗を取り繕うように、白猫は毛繕いをした。
「アイカ、考えてみたんだけど」
食事の席についてすぐ、ブレンダはさっきの住居問題を持ち出した。
「森の家はやっぱり別荘にしようかね。この家を借りる手筈を……」
「この家なら、買う手配をしてしまったぞ」
「……え?」
「……は?」
トムソンは肉を噛みちぎるついでに、思い出したように口を挟んだ。その内容が思いがけないものだったので、顔を見合わせた二人が間抜けな声をあげる。
「ん? レイモンド君とも相談したんじゃが……聞いておらんかったか」
知らない間に決まった内容にをよく噛み砕いて飲み込み、二人で肩を落とした。そういう重要な話はもっと早くして。ブレンダの苦情を受け、トムソンはさらに情報を漏洩した。
「そういや、結婚式で揃いの首輪を交換するので準備していると聞いたぞ」
「首輪……」
想像したアイカが微妙な顔をしたことに気づかず、ブレンダはトムソンの口を押さえた。
「ダメだよ、それは秘密だと念を押されたじゃないか」
もごもごと謝罪するトムソンだが、さっき話せと言ったのに……とは賢明にも口に出さなかった。
アイカが苦笑いする一方、ブレンダはほくほく顔で帰宅した。通りを歩くだけで、皆から野菜をもらえたらしい。それは助かるし、素直に嬉しい。
何に加工するか盛り上がりながら、サラダを作った。一部の果物はジャムで保存すると決まり、明日は砂糖の買い出しだ。葉物野菜を手でちぎりながら、アイカはちらりとブレンダを見た。気づいたブレンダが首を傾げると、おずおずと尋ねる。
「ここを出ちゃうの?」
「ああ、放置すると家が荒れるし。ここはアイカのお金で借りた家だからね」
「でも……」
最初に住んだログハウスより、この家で暮らした時間の方が長くなった。実家のような感覚で、維持したいと思う。贅沢だけど。夫になるレイモンドがいる屋敷に住むんだけど。それでも寂しい感じがした。
「どこに住んだって、私だよ」
「うん、わかってるけどね。寂しいなって感じるの」
でも気にしなくていいよ。そう付け足して、アイカは水音を立てて野菜を洗った。勢いよく水を切り、お皿に盛り付ける。慣れた手つきで彩りを整え、食堂へ運んだ。今日はトムソンだけで、レイモンドは自宅に帰っている。
「はい、サラダ」
「うむ……葉っぱは好かん」
「贅沢言わないで」
笑いながら、ひとつ摘んで口に入れる。思ったより酸っぱくて顔をしかめながら、アイカは猫達の餌の支度を始めた。
焼いた魚をほぐし、鶏肉っぽい正体不明の肉を茹でる。キャットフードがないので、魚と肉中心になった。時々パンも食べている。樹液だというミルクを用意し、猫達を呼んだ。
「オレンジ、ブラン、ノアール。ご飯よ」
ぶぎゃああ、派手な声でオレンジが突進する。後ろからのそりと顔を見せたのはノアールで、勢いつきすぎて足を滑らせたのはブランだ。しかも失敗を取り繕うように、白猫は毛繕いをした。
「アイカ、考えてみたんだけど」
食事の席についてすぐ、ブレンダはさっきの住居問題を持ち出した。
「森の家はやっぱり別荘にしようかね。この家を借りる手筈を……」
「この家なら、買う手配をしてしまったぞ」
「……え?」
「……は?」
トムソンは肉を噛みちぎるついでに、思い出したように口を挟んだ。その内容が思いがけないものだったので、顔を見合わせた二人が間抜けな声をあげる。
「ん? レイモンド君とも相談したんじゃが……聞いておらんかったか」
知らない間に決まった内容にをよく噛み砕いて飲み込み、二人で肩を落とした。そういう重要な話はもっと早くして。ブレンダの苦情を受け、トムソンはさらに情報を漏洩した。
「そういや、結婚式で揃いの首輪を交換するので準備していると聞いたぞ」
「首輪……」
想像したアイカが微妙な顔をしたことに気づかず、ブレンダはトムソンの口を押さえた。
「ダメだよ、それは秘密だと念を押されたじゃないか」
もごもごと謝罪するトムソンだが、さっき話せと言ったのに……とは賢明にも口に出さなかった。
26
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説

ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
拝啓、死んだ方がましだと思っていた私へ。信じられないでしょうけど、今幸せよ。
遥彼方
恋愛
伯爵令嬢のゼゾッラは父の死後、継母たちに冷遇され、使用人以下の扱いを受けていた。
ある日、今までになく身なりを整えさせられ、使いにだされたのだが。森の中で盗賊に襲われてしまう。
死を覚悟したゼゾッラを助けたのは、ひげ面の魔法使いと、陽気で不思議な白鳩とナツメの木だった。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる