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40.誰かさんにそっくりじゃ

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 迎えに来たレイモンドは、ブレンダ経由で事情を説明され……しょんぼりと肩を落とした。

「そうか、そうだよな。うん、わかってる。大丈夫だ。まったく問題ない」

 自分を必死で慰めるような、言い聞かせるような呟きは早口だった。何とも申し訳ない気持ちになるアイカは、遊びに行くのを延期しようと思った。だがレイモンドは「それはそれ、これはこれ」と約束を守る姿勢を見せる。

 正直、好感度アップだった。気の毒そうな顔をしながらも、用意した荷物をブレンダが背負わせる。猫達はもちろんお留守番だった。ブレンダが面倒を見てくれる。トイレは庭の砂場でしてくれるし、猫用の小さな扉も付けた自宅は快適だった。

 考えてみたら、この家を手配したのもレイモンドである。彼は自分なりに必死でアプローチしてきた。小型の生き物が好きだとアピールしたり、アイカに好かれようと様々な便宜を図った。実益を兼ねて、猫達との距離も詰めた。これで振られるのは気の毒だ。

 アイカは恩義がどうの以前に、レイモンドはいい人認識だった。いろいろと面倒を見てくれる従兄くらいの距離感だ。その内側に、ほのかに滲む好意の種類を認識していなかった。ブレンダやトムソンから見たら、一目瞭然なのだが。

「じれったいねぇ」

 飛び立つレイモンドの背で手を振るアイカが見えなくなるまで手を振り、ブレンダはやれやれと首を横に振る。ちょうど訪ねてきたトムソンと、自覚させる方法を話し合った。いくら案を出しても、アイカに通じるかどうか。

「あの子は鈍いからのぉ」

「わかるわ」

「誰かさんとそっくりじゃ」

 最近思いが通じるまで、苦節十年近く待ったトムソンは、実感を込めた呟きを吐き出した。自覚がないブレンダは、誰の話かと首を傾げるばかり。そういうところが、そっくりなんじゃ。言いたい言葉をぐっと呑み込むトムソンは、曖昧に笑って誤魔化した。



 ほぼ同時刻、アイカは予想外の空の旅に悲鳴をあげていた。速いだけなら我慢できるが、正面から吹き付ける強風が怖い。吹き飛ばされたら、東京タワー並みの高さから地上へ落下だ。

「速度を落とすぞ」

 アランを乗せた時の速度を参考にしたレイモンドだが、がっちりしがみ付くアイカの温もりに頬を緩めていた。柔らかな小動物が背中に張り付いている。その感触は初めてで、愛する人ともなれば尻尾の先がジンジン痺れるようだ。

 早く言えば、性的に興奮していた。だがそんな事情は知らないアイカは、ようやく風が軽減されて安堵の息を吐く。それでも怖いので、ひれ伏したまま起き上がらなかった。

「山って、結構高いね」

 山を二つ越えた先とは聞いているが、想像していた山は「太郎山」なんて呼ばれるような千メートルちょっとのイメージだった。しかし、明らかに「アルプス」レベルの山脈だ。それを二つとなれば、想像を超える遠距離である。

「そろそろ下降する。しっかり掴まってくれ」

 万が一にも落とさないよう、アイカの腰には綱が巻かれていた。その先は手綱のようなベルトに繋がり、レイモンドが咥えている。

「安全運転でお願い」

 運転の意味が分からないながらも、レイモンドは慎重に角度を変えて地上へ向かう。かなり気を使っての下降だが、慣れないアイカは悲鳴を上げながらドラゴンにしがみ付いた。
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