上 下
38 / 70

38.女ったらしと忠実な男の差

しおりを挟む
 美味しくご飯を食べて別れた。アランを連れて帰るレイモンドに手を振る。尻尾を振り返された。

「アランが同じ世界出身じゃなくて残念だったね」

 慰めるようなブレンダの言葉に、アイカは首を横に振った。

「いいの。女にだらしない人間は嫌いだもん」

「はぁ、そんなもんかのぉ。子孫を残す意味では有望じゃぞ。ただ、おなごに好かれねば無駄か」

 積極性は認めるけど、女性に嫌われたら意味がない。トムソンの呟きに、ブレンダは肩をすくめた。実際のところ、誰にでもいい顔をして言い寄る男を好きな女は、少ないんじゃないかな。人間の感覚だけでなく、獣人でも同じようだ。

「そういえば、この世界の獣人って基本的に獣姿だよね。人化しないの?」

「ひとか?」

 聞き慣れない単語に首を傾げるブレンダの仕草は、普段ならアイカが行う。逆になった光景に、トムソンも加わった。同じように首を傾げる。

「あのね。こういう感じ」

 多少歪だが、人の姿を描いて耳や爪をつける。あと尻尾や手首から先が獣もありだっけ? 漫画やアニメの知識を総動員して、アイカは自分が知る獣人の姿を伝えた。じっくり眺めた後、二人は顔を見合わせる。

「これが、ひとか……」

「うん。誰か知らない?」

「この世界にはおらん」

 そっか、ウサ耳のお姉さんとかいないんだね。確かに出会う獣人は、すべて獣の二足歩行だった。獣化と呼べるか分からないが、四つ足で走る種族もいる。トムソンとか。

 アイカは考えを纏めて、近くにいたブランを抱き上げた。白い毛皮を撫でながら、「もふもふの世界も悪くないか」と笑う。

「どうしたんだい」

 いきなり笑ったアイカに、ブレンダが不思議そうな顔をした。自分が知る「獣人」は人化していることを説明する。

「へぇ、アイカの世界にも獣人がいたんだね」

「あ、いや……いないんだけど。空想の存在というか、想像の産物? 絵本の主人公みたいな感じ」

 アニメを伝える方が苦労してしまい、伝え終わるまでに時間がかかった。ブランは飛び降りて、毛繕いしてから家に駆け込む。見送ったタイミングで聞こえた羽音に、空を仰ぐと、レイモンドがいた。

「あれぇ? どうしたのぉ!?」

 大声でアイカが話すも、羽音で聞こえないようだ。着地する様子を見せたので、慌てて離れた。ヘリコプターの爆風ほどではないものの、服の裾や帽子があれば飛ぶくらいの強風が吹く。

「すまん、アランが不快な思いをさせなかったか……心配になってな」

 戻ってきてしまった。そう笑うレイモンドに、アイカはじわりと胸が温かくなる。だが、ブレンダは違う懸念を口にした。

「何やってんだい、日が暮れる前に帰りな! あんたらは夜飛べないんだからね!!」

 大声で叱られ、暮れ掛けた空に慌てて舞い上がる。ありがとうと手を振って、アイカはにやける頬を両手で包んだ。

「ふむ、ぎりぎり合格じゃな」

「及第点ってところだね」

 アイカに聞こえないよう、トムソンとブレンダは呟く。やや辛めの評価を受けたレイモンドは、すごい速さで遠ざる。影が見えなくなるまで、アイカは見送った。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

この度、青帝陛下の番になりまして

四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
 魔族の住むゲヘナ国の幼女エウリュアレは、魔力もほぼゼロの無能な皇帝だった。だが彼女が持つ価値は、唯一無二のもの。故に強者が集まり、彼女を守り支える。揺らぐことのない玉座の上で、幼女は最弱でありながら一番愛される存在だった。 「私ね、皆を守りたいの」  幼い彼女の望みは優しく柔らかく、他国を含む世界を包んでいく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/20……完結 2022/02/14……小説家になろう ハイファンタジー日間 81位 2022/02/14……アルファポリスHOT 62位 2022/02/14……連載開始

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

処理中です...