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17.知識の偏りにびっくりしながら卵を炒る
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朝から卵が出てきた。こういうところ、買い出し後って感じがするとアイカは笑う。普通に目玉焼きにしようとしていたから、スクランブルエッグを提案した。不思議そうな顔をするので、作ってみせる。
まだアイカの道具が届かないので、大きすぎるフライパンは大変だ。手伝ってもらいながら、作り上げた。ブレンダのサイズだと、ほぼバーベキュー用の鉄板に近い。暑さで滲んだ汗を袖で拭い、お皿に盛りつけたら感動された。
そこで話を聞くとオムレツはあるらしい。目玉焼きも存在する。だがゆで卵とスクランブルエッグは首を傾げられた。だし巻き卵に至っては、専門店があるとか。この違いがアイカには分からない。
「そういう知識を国は欲しがるのさ。この国の料理のほとんどは、別世界の知識だからね」
ブレンダはスクランブルエッグに、たっぷりのケチャップを掛けた。これはあるんだな。そういえば、街の屋台ではマヨネーズに似たソースも見たっけ。混ぜてオーロラソースにしたら、感動されたり? この辺は教師の人が来るまでお預けだった。アイカは塩コショウでシンプルに頂く。
「卵、大きいよね」
「ああ、ダチョウのだからね」
「ダチョウ……」
昔、テレビ番組で観たな。有名な某国の大統領夫人だった人が大金持ちと再婚して、ダチョウの卵を早朝から空輸させたとか。そんな嘘みたいな話を思い浮かべた。アイカの知識はテレビに偏っている。ネットで情報を検索することもあるが、テレビをぼんやりとつけっぱなしにすることが多かったのだ。
一人暮らしで猫しかいないと、どうしても話しかける人がいない。自然とテレビに独り言で返事をする癖がついた。今とは大違い。アイカはくすくす笑いながら、パンを齧った。たっぷりのマーマレードジャムで、バターはなし。
そんな日常のささやかな好みを、誰かと共有するなんて。アイカは日本で想像もしなかった生活が、楽しくて仕方ない。あのまま日本で生きていくより、今の方が格段に生活を楽しんでいた。
「大変だよぉ!!」
カーティスが窓を鼻先で小突く。ガタガタと揺れる音に、ブレンダが大きく溜め息を吐いた。いつもの事なのか、呆れながらも窓を開ける。
「なんだい、カーティス」
彼には「カーティス坊や」って言わないのね。アイカは変な部分が気になった。たぶんだけど、カーティスは背伸びしたいお年頃なのだ。子ども扱いすると拗ねてしまう。でもブレンダやトムソンから見れば、まだまだ子どもだった。それで呼び方を分けているのかも。
他人のことを推察する経験も、会社ではなかった。アイカは淡々と仕事をこなし、給料分の働きをしたら帰宅する。家で猫達と過ごす時間だけが、アイカにとって楽しみだったから。
「アイカの教師に凄い人が来るんだって」
「すごい人?」
カーティスの話は要領を得ない。大変だの、凄いだの。中身がないので、聞き返す羽目に陥る。これはブレンダが溜め息を吐くわけだ。肩を竦めたアイカが話の先を促した。
「竜帝様だよ」
「「はぁ??」」
ブレンダとアイカは同時に間抜けな声を出し、互いの顔を見つめた。凝視し合った後、ブレンダが「なんか凄い知識があると思われたのかも」と心配そうに眉を寄せる。その姿を見て、アイカも不安になった。
偉い人が来て、何も持ち帰る知識がなかったら処罰とか……。別世界だしあり得るかも。不安になりながら、カーティスが咥えてきた書類を受け取った。
涎でべちょべちょに濡れた封筒を指で摘まんで開封しながら、トムソンが筒を使って書類を運んだ理由に思い至る。今後もカーティスにお遣いを頼むなら、専用の箱か筒が必要だと悟った。
まだアイカの道具が届かないので、大きすぎるフライパンは大変だ。手伝ってもらいながら、作り上げた。ブレンダのサイズだと、ほぼバーベキュー用の鉄板に近い。暑さで滲んだ汗を袖で拭い、お皿に盛りつけたら感動された。
そこで話を聞くとオムレツはあるらしい。目玉焼きも存在する。だがゆで卵とスクランブルエッグは首を傾げられた。だし巻き卵に至っては、専門店があるとか。この違いがアイカには分からない。
「そういう知識を国は欲しがるのさ。この国の料理のほとんどは、別世界の知識だからね」
ブレンダはスクランブルエッグに、たっぷりのケチャップを掛けた。これはあるんだな。そういえば、街の屋台ではマヨネーズに似たソースも見たっけ。混ぜてオーロラソースにしたら、感動されたり? この辺は教師の人が来るまでお預けだった。アイカは塩コショウでシンプルに頂く。
「卵、大きいよね」
「ああ、ダチョウのだからね」
「ダチョウ……」
昔、テレビ番組で観たな。有名な某国の大統領夫人だった人が大金持ちと再婚して、ダチョウの卵を早朝から空輸させたとか。そんな嘘みたいな話を思い浮かべた。アイカの知識はテレビに偏っている。ネットで情報を検索することもあるが、テレビをぼんやりとつけっぱなしにすることが多かったのだ。
一人暮らしで猫しかいないと、どうしても話しかける人がいない。自然とテレビに独り言で返事をする癖がついた。今とは大違い。アイカはくすくす笑いながら、パンを齧った。たっぷりのマーマレードジャムで、バターはなし。
そんな日常のささやかな好みを、誰かと共有するなんて。アイカは日本で想像もしなかった生活が、楽しくて仕方ない。あのまま日本で生きていくより、今の方が格段に生活を楽しんでいた。
「大変だよぉ!!」
カーティスが窓を鼻先で小突く。ガタガタと揺れる音に、ブレンダが大きく溜め息を吐いた。いつもの事なのか、呆れながらも窓を開ける。
「なんだい、カーティス」
彼には「カーティス坊や」って言わないのね。アイカは変な部分が気になった。たぶんだけど、カーティスは背伸びしたいお年頃なのだ。子ども扱いすると拗ねてしまう。でもブレンダやトムソンから見れば、まだまだ子どもだった。それで呼び方を分けているのかも。
他人のことを推察する経験も、会社ではなかった。アイカは淡々と仕事をこなし、給料分の働きをしたら帰宅する。家で猫達と過ごす時間だけが、アイカにとって楽しみだったから。
「アイカの教師に凄い人が来るんだって」
「すごい人?」
カーティスの話は要領を得ない。大変だの、凄いだの。中身がないので、聞き返す羽目に陥る。これはブレンダが溜め息を吐くわけだ。肩を竦めたアイカが話の先を促した。
「竜帝様だよ」
「「はぁ??」」
ブレンダとアイカは同時に間抜けな声を出し、互いの顔を見つめた。凝視し合った後、ブレンダが「なんか凄い知識があると思われたのかも」と心配そうに眉を寄せる。その姿を見て、アイカも不安になった。
偉い人が来て、何も持ち帰る知識がなかったら処罰とか……。別世界だしあり得るかも。不安になりながら、カーティスが咥えてきた書類を受け取った。
涎でべちょべちょに濡れた封筒を指で摘まんで開封しながら、トムソンが筒を使って書類を運んだ理由に思い至る。今後もカーティスにお遣いを頼むなら、専用の箱か筒が必要だと悟った。
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