【完結】愛猫ともふもふ異世界で愛玩される

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

文字の大きさ
上 下
12 / 70

12.よそ様のお子さんを馬扱い

しおりを挟む
 カーティスは夜になると消えて、早朝また現れた。家は意外と近いのかも。そう思ったアイカだが、この家から見た地平線の辺り……と説明を受けて驚いた。毎日通う距離なのだろうか。それほど猫に魅了されたなら仕方ないけれど。

「遠いですね」

「そうさねぇ。私やあんたは遠く感じるけど、カーティス坊やなら数十分の距離さ」

 時間で示されると、通勤圏内かな? と思ってしまう。あ、坊やってことはまだ通学? それ以前に、ここは学校じゃないし。

「カーティスは学校とか行かなくていいの?」

「ん? 学校なんざ通うのは、金持ちと暇人だけだよ」

「……なるほど」

 お金と暇に溢れてる人達……つまりごく一部の人みたい。アイカが納得する間に、ブレンダは家の裏から荷馬車を引っ張り出した。手伝いに向かうと、朝食の入ったバスケットを渡される。

「猫は留守番できるんかね」

「平気ですよ。水とご飯があれば待ってます」

 トイレ砂は、本物の砂を入れた箱を用意した。三匹分用意していたら、一緒はダメなのかと驚かれる。この世界で猫を飼っている人がいないのかと尋ねたら、ブレンダは知らないようだ。本物の猫と言われるくらいだから、猫獣人は会ってみたい。

 アイカは期待を胸に、荷馬車へ朝食と毛布を積み込んだ。家の窓で見送る可愛い三匹に、挨拶をする。

「ちょっとママ、出かけてくるから。大人しくしててね」

 にゃーんと愛らしい返事をしたのはブランだけ。オレンジはむすっとした顔だし、ノアールは眠っていた。こういう薄情なところ、好き。アイカの呟きに、ブレンダが肩をすくめた。

「ほらいくよ」

「はーい」

 走って荷馬車に乗り込む。馬の代わりにカーティスが荷馬車を引くようで、しっかり繋がれていた。

「え? いいの?」

「何が問題なのさ」

「そうだよ。僕だって荷馬車を引くくらい出来るんだからね」

 うん、本人が気にしてないならいいや。アイカの疑問は「よそ様のお子さんを馬扱いしていいの?」だが、当事者がやる気だった。

 走り出した荷馬車は驚くほど跳ねる。一緒に乗り込んだブレンダは慣れた様子で毛布を敷いて座り、私を引き寄せた。あれだ。西部劇で観た丸い幌屋根の荷馬車である。御者は不要のようで、ブレンダは昼寝を始めた。

 カーティスの訪問が早かったので、確かに眠い。荷馬車に直に寝たら、身体中が痣だらけになりそうなアイカも、ブレンダの毛皮に包まれれば安心だった。うとうとする二人を乗せ、カーティスはひた走る。

 道がなかった草原を抜け、荷馬車は大きく揺れながら轍に車輪を載せた。その揺れで目を覚ましたアイカが、大きく伸びをする。砂利道の中央は草が生えているが、農道のような一本道を走っていた。

「この辺は通る人が多いんですか?」

「街へ買い物に出る人や逆に売りにいく人が通るからね。整備したわけじゃないんだが、自然とこうなったのさ」

 アイカが幌の間から覗いた景色は、人の手が入ったとは思えない草原のままだった。獣道ってやつかな。獣人だと、獣人道? 言いづらいから獣道でいいか。アイカはくすくす笑うが、大きく揺れたタイミングで無言になった。

 噛んでしまった頬の内側が、ものすごい痛い。涙目になりながらブレンダのお腹によじ登り、丸くなった。事情を察したブレンダは、何も言わずに髪を撫でてくれた。
しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

私と運命の番との物語

星屑
恋愛
サーフィリア・ルナ・アイラックは前世の記憶を思い出した。だが、彼女が転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢だった。しかもその悪役令嬢、ヒロインがどのルートを選んでも邪竜に殺されるという、破滅エンドしかない。 ーなんで死ぬ運命しかないの⁉︎どうしてタイプでも好きでもない王太子と婚約しなくてはならないの⁉︎誰か私の破滅エンドを打ち破るくらいの運命の人はいないの⁉︎ー 破滅エンドを回避し、永遠の愛を手に入れる。 前世では恋をしたことがなく、物語のような永遠の愛に憧れていた。 そんな彼女と恋をした人はまさかの……⁉︎ そんな2人がイチャイチャラブラブする物語。 *「私と運命の番との物語」の改稿版です。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

もふもふな義妹に振り回されています

mios
ファンタジー
狼の獣人の少年が新しくできた義妹を溺愛する話のその後 もふもふな義兄に溺愛されていますの続編です。 5話で完結です。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

処理中です...