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01.草原で愛猫と熊に出遭った

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「なんなの……これ」

 見たことがない景色に、猫達の入った籠を抱えたアイカが呟いた。猫の予防接種で全員連れて病院へ入ったら、衝撃と共にここにいた。見回す範囲に建物はなく、草むらにぽつんと座っている。何があったんだろう。

 にゃー! 鳴いて騒ぐ猫に気づいて、大きなキャリータイプの籠を開ける。

「お願いだから、遠くへ行かないでね」

 この子達は捨てられていた。両親を事故で亡くしたアイカにとって、大切な家族だ。まず顔を出したのは長女の三毛猫オレンジちゃん。オレンジ色の段ボール箱に入ってたので、そのまま名付けた。目立つ色の箱だったので、中を覗き込んだら雨に濡れた子猫が震えていた。すぐに拾って、自宅へ駆け込んだっけ。

 ぎぎゃーと汚い声で鳴くのが特徴で、時々遠吠えのようにあ゛おぉぉおお!と叫ぶ。親の遺してくれた自宅が一軒家でよかった。夜中と朝方に鳴くことが多く、普段もおしゃべりな子だ。

 続いたのは、庭に迷い込んだ長男の白猫だ。愛らしい声で鳴く男の子で、アイカの二人目の家族。猫風邪なのか、目やにが凄くて洗っても落ちない。衰弱していたので、大急ぎで病院へ運んだ。治療したら、青い目の美人さんで驚いた。男の子だけど、毛皮の色にちなんでブランと名付けた。

 最後の子は黒猫の女の子ノワール、無口でたまに愛らしくにゃんと鳴くだけ。上の二匹の後ろをついて回る大人しい子だが、床柱での爪とぎだけは困った。最後は貼る爪とぎを設置したら、気に入らないのか。引き剥がされた。お陰で床柱は一部が細い歪な形をしている。

 順番に出てきた猫達にケガはない。アイカの近くで伸びをしたり、毛繕いをしたりとマイペースだ。

「無事でよかったぁ。オレンジ、ブラン、ノワール」

 名前がすべて色関連なのは、アイカのネーミングセンスが酷いせいだ。あまりの酷さに動物病院のお姉さんが引き攣った顔で、白猫と黒猫の名前を提案した。そのためアイカが直接名付けたのは、オレンジだけだ。

 可愛い愛猫の無事を確認したところで気が抜けた。ところで、本当にここはどこなのか。建物が見えないし、草原は広い。歩いてどのくらいで道路が現れるのか。猫がいても乗せてくれる車をヒッチハイクしなければ、とアイカは拳を握る。

 すべては交渉次第だ。気合を入れて立ち上がったところで、可愛い三匹に声をかけた。

「移動するから入ってくれる?」

 ぎにゃー、にゃおーん、……無言。それぞれの反応から、キャリーの中は嫌だと統一見解がもたらされる。ぐるりと見回す範囲で危険な動物は見当たらないし、危なくなればキャリーに飛び込むだろう。蓋を開けたまま引っ張りながら、アイカは先を促した。

「人か車を探すよ……歩くのに疲れたら、キャリー入って」

 昔から人の言葉を理解しているのでは? と思うほど賢い猫ばかり。親バカと言われたけれど、本当に賢いんだよね。ふふっと笑ったアイカに、猫達はのんびりしている。

 アイカが歩き出すと、三毛のオレンジが足にまとわりついた。先を走るお転婆ノワールと、後ろをとぼとぼ付いてくるブラン。個性的な三匹がいれば、どんな状況でも平気よ。頑張れる! とアイカは顔を上げた。

 草が足に絡みつき、思ったより大変だ。キャリータイプは路上での移動に最適だけど、草原では最悪だった。タイヤに草が絡みつき、舌打ちしたアイカはキャリーを抱き上げる。歩き出してすぐ、人影を見つけた。

「すみません! もしもし? ちょっと!!」

 いなくならないよう言葉を変えながら叫び、足を止めた人影に近づく。が、手前でアイカは固まった。

 あれ? 熊が二本足で立ってる? きゃー! 襲われる!!

 叫ぼうとしたアイカの声は喉に張り付いて……悲鳴みたいな呼吸音が「ひっ」と漏れた。足元の猫達に警戒した様子はなく、飼い猫特有の危機感のなさが全開だ。何とかこの子達だけでも助けないと。頭はフル回転なのに、彼女の体はまったく動かなかった。
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