上 下
4 / 6

4.これが物語なら王道の展開ですわね

しおりを挟む
 伯爵令嬢フランチェスカは、その後王太子殿下に寄り添うようになりました。最近では私達を見ると涙ぐみ、レオポルド王太子殿下の腕に胸を押し付けます。これは不貞行為にカウントしてよろしいですわね。影の方々がきちんと報告と記録を行ってくださることを祈っております。

 王太子殿下は周囲の貴族令息に注意された際、フランチェスカへの気持ちは真実の愛だと口になさったとか。すべてが順調ですわ。その真実の愛を大切になさいませ。これから教科書がなくなったり、思い出の品が壊されたり、階段から突き飛ばされたりなさるのでしょう? 伯爵令嬢もお忙しいですね。

 我が家はもちろん、アンのラ・ヴァッレ公爵家やクレアのラ・カーメラ公爵家からも、密偵がついております。いえ、王太子殿下の監視ではございませんのよ。私達の護衛という名目ですの。学院にも許可をとりましたわ。そうそう、余談ですがこの学院の理事長は私の父だったりします。

「早く断罪しないかしら」

「もう飽きてきましたわ」

 二人の友人とお茶を飲みながら、私は掴んだばかりの情報を披露しました。卒業が1ヵ月後に迫るこの時期、卒業生と在校生を集めた夜会が開かれます。当然卒業が確定した私達も参加いたしますし、王家の皆様も招待させていただきました。

 その参加者リストをそっと差し出します。じっくり目を通して、確認のために指で文字を追ったアンが満面の笑みを浮かべました。通りかかった侯爵令息が頬を赤らめます。わかりますわ、アンもクレアも美人ですもの。

「素敵ね、きっとひと騒動起きるんじゃないかしら」

 クレアも穏やかな口調で、ぐさりと一言。ひと騒動で済めばいいのですけれど。適齢期の未婚令嬢であり、この国の公爵令嬢である私達3人の卒業に合わせ、他国の卒業生や王族から招待を希望する連絡がございました。情けなくも国王陛下の圧力に負けたお父様は、私の圧力にも屈したのです。

「他国のが多いのね」

 言外に「卒業なさってない王族や皇族の方がおられるわ」と告げるアンに、紅茶を一口飲んでから答えました。

「花嫁を探しに来られたと伺っていますわ。ご縁があれば素敵ですわね」

 ご縁を探しに来る対象が自分達と知るからこそ、多少わざとらしい表現になってしまいました。王族と結婚しないと決めた以上、この国を後にする覚悟は出来ております。素晴らしいご縁があれば、ぜひ私達を攫っていただきたいわ。

 実家の心配などいたしません。公爵家を取り潰せば、国が成り立ちませんから。何より、国王陛下は血の繋がる身内に甘いのです。王弟であるお父様や、王妹であられたアンのお母様に弓を引けるはずがございません。クレアの実家も国王陛下の伯父上が継がれた家で、手は出せないでしょう。

 第二王子殿下の婚約者がクレアの妹君なのも大きいですね。お父上譲りの金髪が素敵なご令嬢ですのよ。心根も優しく寛大な王妃様になられるでしょう。将来が楽しみです。

「小説のような恋がしたいわ」

「先日お読みになった本を貸してくださらない?」

「騎士様と姫君の駆け落ちのお話ね。素敵だったわよ」

 小説の中なら、誰にでも主人公になれます。幼馴染みで気を許した騎士様と駆け落ちする王家の姫君にも、平民上がりで王子様と結ばれる幸運な令嬢にだって。だから小説の物語は大好きですわ。今回の作戦も、ほとんど物語の中からヒントを得たのですから。

「夜会のドレスは何色にしましょうか」

 女性の話題は移り変わりが激しいもの。あっという間に、夢から覚めて現実の話が始まります。制服で定められた色に関係なく、何色のドレスでも構わないのですが……私達が絶対に選ばない色があります。青いドレスに金のお飾り、王太子殿下のお色です。

「伯爵令嬢は、王太子殿下にドレスを贈られるのかしら」

「これが物語なら王道の展開ですわね」

「金色のアクセサリーや刺繍の青いドレス……でしょう?」

 くすくす笑いながら、私達はそれぞれに違う色を口にしました。金髪に青い瞳のアンは赤いドレス、それも深紅の落ち着いた色を選ぶそうです。お飾りは琥珀になさるとか。落ち着いた赤に金髪は、お飾りが要らないくらい豪華に映えるでしょう。

 クレアは黒髪を生かして、淡いピンクを選びました。刺繍を銀で施して、お飾りも銀と紫水晶を用意なさったそうです。髪色が目を引くので、淡色のドレスや銀との相性が楽しみですね。

「ステフィは何色にするの」

「私はクリーム色にしたわ。宝石加工で出た小さな粒を、加工して縫い付けてもらったの。時間がかかったけど、とてもいい仕上がりよ」

「楽しみだわ」

 微笑みあって、街に新しく出来たお菓子屋さんの話に移行した。次は辺境伯家に新しく生まれた跡取りの若君のこと、隣国で新しく作られた果物の評判について。新しいものに目がない女性の話はころころと変わり、政治や経済に関わる重要な噂を内包しながら転がり続けた。

 皆様が思うより、貴族令嬢のお茶会の話題は質が高いんですのよ。最後にこの国の経済状態を心配する内容で締め括り、窓の外へ目を向けた。日が傾いた空は赤みを帯びて、ピンクや紫が帯のように広がる。今後の展開に胸を高鳴らせて、私は帰路についた。







*********************
次の更新 5/21 13:30 [。+゜.*更新*.゜+。]_ρ(´ω`*)ポチッ
*********************



***恋愛小説、宣伝***
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に ~婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける~
https://www.alphapolis.co.jp/novel/470462601/198385974
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」  ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。 「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」  いえ! 慕っていません!  このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。  どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。  しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……  *設定は緩いです  

悪役令嬢に仕立てあげられて婚約破棄の上に処刑までされて破滅しましたが、時間を巻き戻してやり直し、逆転します。

しろいるか
恋愛
王子との許婚で、幸せを約束されていたセシル。だが、没落した貴族の娘で、侍女として引き取ったシェリーの魔の手により悪役令嬢にさせられ、婚約破棄された上に処刑までされてしまう。悲しみと悔しさの中、セシルは自分自身の行いによって救ってきた魂の結晶、天使によって助け出され、時間を巻き戻してもらう。 次々に襲い掛かるシェリーの策略を切り抜け、セシルは自分の幸せを掴んでいく。そして憎しみに囚われたシェリーは……。 破滅させられた不幸な少女のやり直し短編ストーリー。人を呪わば穴二つ。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

第一夫人が何もしないので、第二夫人候補の私は逃げ出したい

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のリドリー・アップルは、ソドム・ゴーリキー公爵と婚約することになった。彼との結婚が成立すれば、第二夫人という立場になる。 しかし、第一夫人であるミリアーヌは子作りもしなければ、夫人としての仕事はメイド達に押し付けていた。あまりにも何もせず、我が儘だけは通し、リドリーにも被害が及んでしまう。 ソドムもミリアーヌを叱責することはしなかった為に、リドリーは婚約破棄をしてほしいと申し出る。だが、そんなことは許されるはずもなく……リドリーの婚約破棄に向けた活動は続いていく。 そんな時、リドリーの前には救世主とも呼べる相手が現れることになり……。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

毒花の姫

麻戸槊來
恋愛
鋭く頬を叩く音がして、ようやく何が起きたのか理解した。「―――主人のドレスを汚すなど新米でもしないことをして、恥を知りなさい」そう𠮟責されたのは、私を庇ってくれた彼だった。毒花である『クレマチスの姫』と噂される威圧的な伯爵令嬢と、少女の苦く散った初恋の話。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...