361 / 386
第二十二章 世界の色が変わる瞬間
第100話 見たことのない果物(1)
しおりを挟む
ジルの城にいると温度や湿度に気を使う機会はない。常に快適で、何も不満がないのだ。その環境に慣れたルリアージェは、突然渡された毛皮に驚いた。ふかふかの柔らかな毛皮は、以前にジルから貰った熊より手触りがいい。まだら模様のコートを撫でながらリオネルに首をかしげた。
「毛皮は早くないか?」
「リア様、そろそろ氷祭や雪祭りの時期ですよ」
「もう冬なのか」
数日前まで初秋だった気がする。紅葉を楽しむジュリの赤葉祭りを楽しんだばかりだが、外は冬が来たらしい。人の世と時間の流れが違うのは聞いているが、思ったより時間が短かった。
「ゆっくりするなら、来年の氷祭でいいじゃないか?」
ジルは長椅子に斜めに寄り掛かり、のんびりと声をかけた。黒髪を高い位置で結いながら立ち上がり、すたすたと歩いてくる。手触りのいい毛皮を抱っこして満足げなルリアージェの頬へ、ちゅっと音を立ててキスをした。
真っ赤になったルリアージェがしゃがみこむ。
「お祭りはいく。あと、キスは勝手にするな」
ジルに文句をつけながら、ルリアージェは赤くなった首筋を手でぱたぱた仰いだ。照れると口が悪くなるルリアージェに「ごめんね」と口先で謝るジルが笑う。あまりに幸せそうで、それ以上の文句を言えなくなった。
ジルは我が侭になった気がする。そう心の中でぼやくルリアージェに自覚はなかった。好意を向ける相手に甘えるのは魔性の素直な部分であり、悪いところでもある。あまり知られていないが、猫と一緒で増長していく傾向が強い性質があった。
そして自覚がない彼女は、ジルやライラ達を否定せずに肯定し続ける。無条件に受け入れてくれる存在がいたら、子供の精神をもつ彼らが依存するのは当然だった。どこまでも幼子と同じなのだ。優しくされれば懐き、冷たくされれば攻撃する。
なにより魔性達を喜ばせたのは、彼女が我が侭を口にするようになったこと。今までは我慢して口にしなかった言葉も遠慮なく口にし、言いかけて飲み込むこともなくなった。心を開いたと判断した魔性達が、さらに彼女を甘やかそうと考えるのも自然な流れだった。
「リア、美味しい果物を手に入れたわ」
「これは落月花の実ですわね」
姿を消していたライラが突然広間に現れ、手にした白い房状の果物を自慢する。驚いたパウリーネの声から判断すると、珍しいものらしい。興味を惹かれて近づくと、ライラが房ごと手渡してくれた。外が寒かったのか、柔らかい実の表面が結露している。
「冷たい。食べられるのか?」
「毛皮は早くないか?」
「リア様、そろそろ氷祭や雪祭りの時期ですよ」
「もう冬なのか」
数日前まで初秋だった気がする。紅葉を楽しむジュリの赤葉祭りを楽しんだばかりだが、外は冬が来たらしい。人の世と時間の流れが違うのは聞いているが、思ったより時間が短かった。
「ゆっくりするなら、来年の氷祭でいいじゃないか?」
ジルは長椅子に斜めに寄り掛かり、のんびりと声をかけた。黒髪を高い位置で結いながら立ち上がり、すたすたと歩いてくる。手触りのいい毛皮を抱っこして満足げなルリアージェの頬へ、ちゅっと音を立ててキスをした。
真っ赤になったルリアージェがしゃがみこむ。
「お祭りはいく。あと、キスは勝手にするな」
ジルに文句をつけながら、ルリアージェは赤くなった首筋を手でぱたぱた仰いだ。照れると口が悪くなるルリアージェに「ごめんね」と口先で謝るジルが笑う。あまりに幸せそうで、それ以上の文句を言えなくなった。
ジルは我が侭になった気がする。そう心の中でぼやくルリアージェに自覚はなかった。好意を向ける相手に甘えるのは魔性の素直な部分であり、悪いところでもある。あまり知られていないが、猫と一緒で増長していく傾向が強い性質があった。
そして自覚がない彼女は、ジルやライラ達を否定せずに肯定し続ける。無条件に受け入れてくれる存在がいたら、子供の精神をもつ彼らが依存するのは当然だった。どこまでも幼子と同じなのだ。優しくされれば懐き、冷たくされれば攻撃する。
なにより魔性達を喜ばせたのは、彼女が我が侭を口にするようになったこと。今までは我慢して口にしなかった言葉も遠慮なく口にし、言いかけて飲み込むこともなくなった。心を開いたと判断した魔性達が、さらに彼女を甘やかそうと考えるのも自然な流れだった。
「リア、美味しい果物を手に入れたわ」
「これは落月花の実ですわね」
姿を消していたライラが突然広間に現れ、手にした白い房状の果物を自慢する。驚いたパウリーネの声から判断すると、珍しいものらしい。興味を惹かれて近づくと、ライラが房ごと手渡してくれた。外が寒かったのか、柔らかい実の表面が結露している。
「冷たい。食べられるのか?」
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。
なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。
王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる