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第二十一章 寿命という概念
第97話 白日に晒す痛み(1)
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悔しそうな顔をしながらも、リオネルは一礼して下がった。大袈裟だと笑うことすら許されない状況で、気を使ったライラが場所の変更を申し出る。
「ねえ、場所を変えましょう」
ルリアージェが頷いたのを確かめ、リオネルが描いた魔法陣が足元に光る。一瞬で転移した先は、予想通りジルの黒い城だった。
見慣れてしまった広間の天井を見上げ、ステンドグラスから降り注ぐ色鮮やかな光に目を細める。王宮のダンスフロア並みに広い部屋に用意した円卓で、それぞれに席についた。普段はルリアージェの隣に陣取る男は、珍しく正面に座る。
それぞれに纏っていた色を脱ぎ捨て、普段と同じ姿で着座した。ルリアージェに被せていた色変えの魔法陣を消したジルが、円卓に肘をつく。普段は見せない仕草に、よほど言いづらいのだろうと気づいた。
「ジル、言わないでもいい」
「……いま逃げたら永遠に口にできなくなるから」
思わず助けの手を伸べたルリアージェに驚いた顔をして、ジルは首を横に振った。
ずっと助けの手はなかった。何度泣いても苦しんでも、自分には縁がない手だと気づくのに、どれだけ無駄な行為をしただろう。求めた手はいま、目の前でゆっくりと 祈りの形に組まれる。届く位置にあるのに、話してしまえば触れる権利は失われるーーいや、違う。
最初からこの白くて柔らかい手をとる権利なんて、自分にはなかったのだ。覚悟を決めて深呼吸した。
彼女が気づくまで……そんな言い訳をして先延ばしにした弱さが、ようやく暴かれる。この罪を告げて、彼女の断罪と切り刻む刃を受けるのが己の最後の役目だ、そう言い聞かせないと声が出なかった。
「リオネルが言った通り、リアは歳を取らない。不老長寿、神族と同じだ」
言われた内容が理解できず、ルリアージェは目を見開いた。神族は滅びたはずだ。そして自分が神族のわけはなく、ただの人族。どこにでもいる平凡な魔術師が、不老長寿を手にしたと彼はいう。
「勘違い、ではないか?」
掠れたルリアージェの否定に、ジルは紫水晶の目を逸らさず首を横に振った。
「背中の白い羽も同じ理由だ。リアは本物の神族と同じ、おそらく血も身体も変質している。戻す方法は知らない。ごめん」
リオネル、リシュア、パウリーネ、ライラと視線を向ける。助けを求めるルリアージェの青い瞳に映るのは、何も言えずに俯く魔性だった。この世界を自由に思うまま生きる彼らでさえ、手が出せない領分だと知るには十分だった。
「ねえ、場所を変えましょう」
ルリアージェが頷いたのを確かめ、リオネルが描いた魔法陣が足元に光る。一瞬で転移した先は、予想通りジルの黒い城だった。
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「……いま逃げたら永遠に口にできなくなるから」
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「勘違い、ではないか?」
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