353 / 386
第二十一章 寿命という概念
第96話 隠し続けたズレ(2)
しおりを挟む
「そうそう。そんで住民に優しい治世をされてのぉ。この収穫祭も、宰相様の提案だと言われとる」
「ご老人、大変勉強になりました。ありがとうございます」
引きつりながらも笑顔で礼を言ったルリアージェは、口をきゅっと引き結んで歩き出す。無言で先を急ぐ彼女が向かったのは、誰もいない街外れだった。
街の中心は大きな広場になっている。円形広場から放射状に広がる街の通りは、多くの屋台と人々が埋め尽くした。しかし端の外壁に近い辺りは、ほぼ人通りがない。
ぴたりと足を止めたルリアージェが振り返ると、顔色が蒼白の5人が俯いていた。まるで死刑宣告を受けた囚人のようで、恐る恐るこちらの様子を窺って目を伏せる。
「状況を説明しろ」
切り出したルリアージェに、リシュアが口火を切った。
「ジル様がこの都ジリアンを薙ぎ払った事件から、今年で68年経過しています」
人間の平均寿命に近い年月を告げられ、予想はしていたが驚きを隠せない。ジルは下を向いたまま顔を上げず、ライラは斜め下に目を逸らしていた。パウリーネは申し訳なさそうに両手を揉んでいる。
「そんなに時間が経った感覚はないぞ」
「……実はジル様の城がある空間は、時の流れから隔離されます。城内にいる時間が長いほど、人の世界の時間からズレてしまうのです。黙っていたことをお詫びいたします」
知らなかった事実に目を瞠るが、彼らも頭から隠そうとしたわけではない。魔性にとって当然すぎる状況だったことと、人族の時間感覚を気にする習慣がなかった。そのため、本当に気づかなかったのだ。
遊び半分である国の政に手を出し、そのあと忘れて気付いたら百年単位で時間が経っている。そんな経験も珍しくない彼らは、数十年経っていた事実に気づくのが遅れた。
最初に指摘したのはリシュアだ。人族の間で1000年を生きたリシュアは、サークレラの王族に連なる公爵家の財産や地位の管理をするために地上に降り、数十年経っている事実を把握した。慌ててジル達に報告したものの、時間を戻す方法がない。
ルリアージェが地上に残した家族がいなかったことも、発覚を遅らせた一因だった。上手くすれば気づかれずに過ごせるんじゃないか。そんな思惑で、彼らは全員口を噤んだ。
「ジル」
「……ごめん」
黙っていた負い目から詫びるジルは、まだ顔を上げない。他の4人も視線を逸らしたり、俯いているので誰も気づいていなかった。
苦笑いするルリアージェがさほど怒っていないことに。
「ご老人、大変勉強になりました。ありがとうございます」
引きつりながらも笑顔で礼を言ったルリアージェは、口をきゅっと引き結んで歩き出す。無言で先を急ぐ彼女が向かったのは、誰もいない街外れだった。
街の中心は大きな広場になっている。円形広場から放射状に広がる街の通りは、多くの屋台と人々が埋め尽くした。しかし端の外壁に近い辺りは、ほぼ人通りがない。
ぴたりと足を止めたルリアージェが振り返ると、顔色が蒼白の5人が俯いていた。まるで死刑宣告を受けた囚人のようで、恐る恐るこちらの様子を窺って目を伏せる。
「状況を説明しろ」
切り出したルリアージェに、リシュアが口火を切った。
「ジル様がこの都ジリアンを薙ぎ払った事件から、今年で68年経過しています」
人間の平均寿命に近い年月を告げられ、予想はしていたが驚きを隠せない。ジルは下を向いたまま顔を上げず、ライラは斜め下に目を逸らしていた。パウリーネは申し訳なさそうに両手を揉んでいる。
「そんなに時間が経った感覚はないぞ」
「……実はジル様の城がある空間は、時の流れから隔離されます。城内にいる時間が長いほど、人の世界の時間からズレてしまうのです。黙っていたことをお詫びいたします」
知らなかった事実に目を瞠るが、彼らも頭から隠そうとしたわけではない。魔性にとって当然すぎる状況だったことと、人族の時間感覚を気にする習慣がなかった。そのため、本当に気づかなかったのだ。
遊び半分である国の政に手を出し、そのあと忘れて気付いたら百年単位で時間が経っている。そんな経験も珍しくない彼らは、数十年経っていた事実に気づくのが遅れた。
最初に指摘したのはリシュアだ。人族の間で1000年を生きたリシュアは、サークレラの王族に連なる公爵家の財産や地位の管理をするために地上に降り、数十年経っている事実を把握した。慌ててジル達に報告したものの、時間を戻す方法がない。
ルリアージェが地上に残した家族がいなかったことも、発覚を遅らせた一因だった。上手くすれば気づかれずに過ごせるんじゃないか。そんな思惑で、彼らは全員口を噤んだ。
「ジル」
「……ごめん」
黙っていた負い目から詫びるジルは、まだ顔を上げない。他の4人も視線を逸らしたり、俯いているので誰も気づいていなかった。
苦笑いするルリアージェがさほど怒っていないことに。
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる