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第二十一章 寿命という概念
第93話 平和なのだが襲撃ラッシュ(4)
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ぶわっと虎の身体が膨張し、海の水をまきこんで凍らせる。舞い上がる水しぶきが収まった空中で、巨大な氷の竜が羽を広げていた。
「これは……見事ね」
さすがにライラも誉め言葉が口をついた。実際のドラゴンを見た経験がある彼女から見ても、遜色ない素晴らしく精密な姿形と大きさだ。
「私はドラゴンを書物でしか知らないが、本当にこんな大きいのか」
「ええ。素晴らしい再現だわ」
「ドラゴンとは綺麗な生き物なのだな」
人族が住まうこの大陸は、ドラゴンや魔物が住まう大陸とは繋がっていない。そのため直接ドラゴンや魔物を目にする機会はなかった。まれに海の向こうから飛来したり流れてきたときは、国を挙げての討伐となるらしいが。
少なくともルリアージェが宮廷魔術師になってから、一度も討伐に参加したことはなかった。
「興味があるなら、ジルに強請ってみたら? きっと連れて行ってくれるわ」
現在の人族に隣の大陸へ渡る方法はない。魔族や神族のような魔力があれば問題ないが、人族がドラゴンや魔物がいる大陸に下りても餌となるだけだろう。事実、流れ着いた小さな魔物相手に国の騎士団が総掛かりなのだ。
強大な魔物がたくさんいる大陸は、憧れを上回る恐怖の代名詞だった。
「だが……危険だろう?」
「平気よ。上位魔性クラスなら、ドラゴンなんて大きなトカゲと同じだもの。私やジルはもちろんだけど、あの3人も全然問題じゃないわ」
驚きの事実に目を見開く。
「そもそも魔物って、魔性の成りそこないですもの。私たちよりずっと格下よ」
言われて気づく。以前に襲ってきた魔性を、ジルは「魔物」と呼んで区別していた。挑発するために口にした言葉だが、魔物という単語が彼らを怒らせる原因は格下扱いされたせいだ。人が使役できる範囲も魔物までとされていることから、魔性や上位魔性は別次元の強さを誇るらしい。
ごろんと寝転がった格好で、氷のドラゴンを見上げる。とても美しい生き物を目の前で見ることが出来るなら、それは素晴らしい体験だ。
「強請ってもいい、のか」
迷いながら呟いたルリアージェに、ライラは「強請られたら大喜びすること請け合いね」と微笑んだ。ドンと派手な音がして、氷製のドラゴンが尻尾を振る。魔性を爪で切り裂き、尻尾で叩きつけた魔性が塵となって消えていく。
残された核を回収したリシュアが最初に戻り、リオネルとジルが夕飯の相談をしながら手を振った。反射的に「おかえり」と声をかけると、一瞬目を見開いてからジル達は嬉しそうに頬を笑み崩す。
「ああ、ただいま」
「ただいま戻りました」
当たり前のように返された挨拶を、ルリアージェは嬉しそうに受け止めた。
「これは……見事ね」
さすがにライラも誉め言葉が口をついた。実際のドラゴンを見た経験がある彼女から見ても、遜色ない素晴らしく精密な姿形と大きさだ。
「私はドラゴンを書物でしか知らないが、本当にこんな大きいのか」
「ええ。素晴らしい再現だわ」
「ドラゴンとは綺麗な生き物なのだな」
人族が住まうこの大陸は、ドラゴンや魔物が住まう大陸とは繋がっていない。そのため直接ドラゴンや魔物を目にする機会はなかった。まれに海の向こうから飛来したり流れてきたときは、国を挙げての討伐となるらしいが。
少なくともルリアージェが宮廷魔術師になってから、一度も討伐に参加したことはなかった。
「興味があるなら、ジルに強請ってみたら? きっと連れて行ってくれるわ」
現在の人族に隣の大陸へ渡る方法はない。魔族や神族のような魔力があれば問題ないが、人族がドラゴンや魔物がいる大陸に下りても餌となるだけだろう。事実、流れ着いた小さな魔物相手に国の騎士団が総掛かりなのだ。
強大な魔物がたくさんいる大陸は、憧れを上回る恐怖の代名詞だった。
「だが……危険だろう?」
「平気よ。上位魔性クラスなら、ドラゴンなんて大きなトカゲと同じだもの。私やジルはもちろんだけど、あの3人も全然問題じゃないわ」
驚きの事実に目を見開く。
「そもそも魔物って、魔性の成りそこないですもの。私たちよりずっと格下よ」
言われて気づく。以前に襲ってきた魔性を、ジルは「魔物」と呼んで区別していた。挑発するために口にした言葉だが、魔物という単語が彼らを怒らせる原因は格下扱いされたせいだ。人が使役できる範囲も魔物までとされていることから、魔性や上位魔性は別次元の強さを誇るらしい。
ごろんと寝転がった格好で、氷のドラゴンを見上げる。とても美しい生き物を目の前で見ることが出来るなら、それは素晴らしい体験だ。
「強請ってもいい、のか」
迷いながら呟いたルリアージェに、ライラは「強請られたら大喜びすること請け合いね」と微笑んだ。ドンと派手な音がして、氷製のドラゴンが尻尾を振る。魔性を爪で切り裂き、尻尾で叩きつけた魔性が塵となって消えていく。
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「ああ、ただいま」
「ただいま戻りました」
当たり前のように返された挨拶を、ルリアージェは嬉しそうに受け止めた。
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