【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
342 / 386
第二十一章 寿命という概念

第93話 平和なのだが襲撃ラッシュ(4)

しおりを挟む
 ぶわっと虎の身体が膨張し、海の水をまきこんで凍らせる。舞い上がる水しぶきが収まった空中で、巨大な氷の竜が羽を広げていた。

「これは……見事ね」

 さすがにライラも誉め言葉が口をついた。実際のドラゴンを見た経験がある彼女から見ても、遜色ない素晴らしく精密な姿形と大きさだ。

「私はドラゴンを書物でしか知らないが、本当にこんな大きいのか」

「ええ。素晴らしい再現だわ」

「ドラゴンとは綺麗な生き物なのだな」

 人族が住まうこの大陸は、ドラゴンや魔物が住まう大陸とは繋がっていない。そのため直接ドラゴンや魔物を目にする機会はなかった。まれに海の向こうから飛来したり流れてきたときは、国を挙げての討伐となるらしいが。

 少なくともルリアージェが宮廷魔術師になってから、一度も討伐に参加したことはなかった。

「興味があるなら、ジルに強請ってみたら? きっと連れて行ってくれるわ」

 現在の人族に隣の大陸へ渡る方法はない。魔族や神族のような魔力があれば問題ないが、人族がドラゴンや魔物がいる大陸に下りても餌となるだけだろう。事実、流れ着いた小さな魔物相手に国の騎士団が総掛かりなのだ。

 強大な魔物がたくさんいる大陸は、憧れを上回る恐怖の代名詞だった。

「だが……危険だろう?」

「平気よ。上位魔性クラスなら、ドラゴンなんて大きなトカゲと同じだもの。私やジルはもちろんだけど、あの3人も全然問題じゃないわ」

 驚きの事実に目を見開く。

「そもそも魔物って、魔性の成りそこないですもの。私たちよりずっと格下よ」

 言われて気づく。以前に襲ってきた魔性を、ジルは「魔物」と呼んで区別していた。挑発するために口にした言葉だが、魔物という単語が彼らを怒らせる原因は格下扱いされたせいだ。人が使役できる範囲も魔物までとされていることから、魔性や上位魔性は別次元の強さを誇るらしい。

 ごろんと寝転がった格好で、氷のドラゴンを見上げる。とても美しい生き物を目の前で見ることが出来るなら、それは素晴らしい体験だ。

「強請ってもいい、のか」

 迷いながら呟いたルリアージェに、ライラは「強請られたら大喜びすること請け合いね」と微笑んだ。ドンと派手な音がして、氷製のドラゴンが尻尾を振る。魔性を爪で切り裂き、尻尾で叩きつけた魔性が塵となって消えていく。

 残された核を回収したリシュアが最初に戻り、リオネルとジルが夕飯の相談をしながら手を振った。反射的に「おかえり」と声をかけると、一瞬目を見開いてからジル達は嬉しそうに頬を笑み崩す。

「ああ、ただいま」

「ただいま戻りました」

 当たり前のように返された挨拶を、ルリアージェは嬉しそうに受け止めた。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。 王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...