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第二十一章 寿命という概念

第90話 泡沫の休息(3)

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 どう説明したら正確に伝わるか考えながら、ライラはゆっくり説明を始める。

「そうね、本来は今の外見まで成長しているはずなの。ちょうどこの年齢の時に、父親が封印されたから……精霊王が代替わりになって、あたくしの身体は成長しなくなったわ」

 差し支えのない、優しい部分だけを伝える。ライラは穏やかに微笑んだまま、今の姿を自分で眺めた。今の自分ならば霊力をすべて制御している。いつでも成長させることができた。それでも今のまま少女でいたいと願うのは……目の前のルリアージェのためだ。

 自覚がないながら、ルリアージェは甘える対象と甘やかす対象を求めている。どちらも得たい無意識の願いを、叶えたいと思った。親に育てられた経験がなく、家族との記憶もないルリアージェの小さな願いだからこそ受け止めたい。元から、大地の精霊王は受け身の存在なのだ。

「いつか成長するから平気、気にしないで」

 ルリアージェが甘やかす少女を必要としなくなるまで、この姿でいると告げた言葉の裏に気づいた魔性達は、ライラの決断を歓迎した。きっとこの場で気づいていないのは、愛情を向けられるルリアージェ本人だけだ。

「そうか。身体に戻ったら抱きしめていいか?」

「もちろんよ。だって、お母様でしょう?」

 サークレラのマスカウェイル公爵家の役割を口にして、ライラはするりと氷の表面に滑り込んだ。パウリーネが氷を溶かし、あっという間に少女の身体が床の上に現れる。溶けた氷は水になり、輝きながら消えていった。

 身を起こしたライラが「冷たいわ」と愚痴をこぼすが、すぐに温かい腕に抱き締められる。触れた肌に伝わる温もりが、冷えた身に痛いほど沁みた。

「リア……」

「氷で冷えているな」

 くすくす笑うルリアージェの胸に寄り掛かったライラの耳に、ぼそっとジルの本音が届いた。

「羨ましい」

「なんだ、ジルも一緒に……いや、やめよう」

「え?! なんで!!」

 楽しい気分のまま「一緒に抱き着けばいい」と言いかけて、振り返った先が想い人の顔だったので、ルリアージェは照れ隠しのように言葉を撤回した。騒ぐジルを宥めるリシュアの声に、揶揄うリオネルが重ねる。呆れ顔で仲裁に入ったパウリーネが、最後に声を荒らげるまで。

 黒い城はいつになく穏やかな雰囲気で、つかの間の休息を楽しむように時間はゆったり流れた。
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