327 / 386
第二十章 愛し愛される資格
第88話 愚か者は裏切り躍る(2)
しおりを挟む
にっこり笑った女性は裾の長いロングドレスを捌いて、奪い取った球体を抱きしめる。両手から放たれる癒しの緑が絡みつき、蔦は球体を覆いつくした。ぴしっと乾いた音が響いたあと、球体は割れて砕ける。
破片を浴びないよう自らに『白天の盾』を施したルリアージェが、蒼い瞳を輝かせてライラに抱き着いた。少女の姿と違い、抱き合うと視線が近い。本体である子供の身体を脱ぎ捨てたライラは、精霊としてこの場にいた。
どんな場所でも入り込める精霊の特性を利用し、ルリアージェの居場所を探しあてたのだ。本体は氷の棺に納められ、滅多なものの侵入を許さない死神の黒城に保管された。これ以上安全な場所はなかなかない。そのため本体を傷つけられる心配なしに、ライラは動き回っていた。
「よくわかったわね、リア」
「間違うはずがない」
言い切ったルリアージェを引き寄せたライラの周りに、緑色の蔦が結界を作り出す。触れる敵を排除し、魔力尽きるまで侵入を防ぐ鉄壁の守りだった。魔性殺しのアズライルの刃であっても苦戦するほど、堅固な守りの中で、ライラはマリニスへ微笑んだ。
「死神の眷属ではなくて、リアの眷属よ。失礼な火の魔王さん」
ライラが言い終わった瞬間、リオネルが白炎でマリニスを覆い隠した。火の魔王マリニスに扱えない最上級の白炎が退路を断つ。手札を奪われ囚われたマリニスに、容赦なくパウリーネの氷球が襲い掛かる。咄嗟に結界で防ぐが、こらえきれずに膝をつく。
火の魔王マリニスの欠点は、冷気だ。通常の冷気ではなく、氷静のパウリーネが操る最上級魔術である『凍獄』がマリニスを覆った。炎のような魔力が萎んでいく。身動きできなくて、息苦しさにマリニスの顔が歪んだ。真っ赤な髪が顔を覆う。
「…ジフィー、ルっ……、取引、を……ないか?」
「うん? 何を」
圧倒的に有利な立場のジルに対し、どんな取引を持ち掛けるのか。ラーゼンの声に首をかしげて続きを待った。
「……あの、女の命、と……っきか、え」
「何か仕掛けたか?! ライラ!!」
ルリアージェの命と引き換えと聞いた時点で、ライラの名を呼ぶ。反応したライラの手を、ルリアージェが振り払った。本人の意思でないのは、彼女の表情でわかる。身体が操られる不気味な感覚に、美女は叫んだ。
「私に近づくな。何をするか、わからない!」
「リアを放り出せるはずないでしょ!」
たとえ長い己の生命に終止符を打つことになっても、魔力や霊力が吹き荒れる外へ放り出すなんて出来ない。この結界は敵を排除するまで解かないと強く願いながら、ライラは蔦に命じた。この命が尽きても、魔力が残る限り結界を解かぬように……と。
破片を浴びないよう自らに『白天の盾』を施したルリアージェが、蒼い瞳を輝かせてライラに抱き着いた。少女の姿と違い、抱き合うと視線が近い。本体である子供の身体を脱ぎ捨てたライラは、精霊としてこの場にいた。
どんな場所でも入り込める精霊の特性を利用し、ルリアージェの居場所を探しあてたのだ。本体は氷の棺に納められ、滅多なものの侵入を許さない死神の黒城に保管された。これ以上安全な場所はなかなかない。そのため本体を傷つけられる心配なしに、ライラは動き回っていた。
「よくわかったわね、リア」
「間違うはずがない」
言い切ったルリアージェを引き寄せたライラの周りに、緑色の蔦が結界を作り出す。触れる敵を排除し、魔力尽きるまで侵入を防ぐ鉄壁の守りだった。魔性殺しのアズライルの刃であっても苦戦するほど、堅固な守りの中で、ライラはマリニスへ微笑んだ。
「死神の眷属ではなくて、リアの眷属よ。失礼な火の魔王さん」
ライラが言い終わった瞬間、リオネルが白炎でマリニスを覆い隠した。火の魔王マリニスに扱えない最上級の白炎が退路を断つ。手札を奪われ囚われたマリニスに、容赦なくパウリーネの氷球が襲い掛かる。咄嗟に結界で防ぐが、こらえきれずに膝をつく。
火の魔王マリニスの欠点は、冷気だ。通常の冷気ではなく、氷静のパウリーネが操る最上級魔術である『凍獄』がマリニスを覆った。炎のような魔力が萎んでいく。身動きできなくて、息苦しさにマリニスの顔が歪んだ。真っ赤な髪が顔を覆う。
「…ジフィー、ルっ……、取引、を……ないか?」
「うん? 何を」
圧倒的に有利な立場のジルに対し、どんな取引を持ち掛けるのか。ラーゼンの声に首をかしげて続きを待った。
「……あの、女の命、と……っきか、え」
「何か仕掛けたか?! ライラ!!」
ルリアージェの命と引き換えと聞いた時点で、ライラの名を呼ぶ。反応したライラの手を、ルリアージェが振り払った。本人の意思でないのは、彼女の表情でわかる。身体が操られる不気味な感覚に、美女は叫んだ。
「私に近づくな。何をするか、わからない!」
「リアを放り出せるはずないでしょ!」
たとえ長い己の生命に終止符を打つことになっても、魔力や霊力が吹き荒れる外へ放り出すなんて出来ない。この結界は敵を排除するまで解かないと強く願いながら、ライラは蔦に命じた。この命が尽きても、魔力が残る限り結界を解かぬように……と。
0
お気に入りに追加
279
あなたにおすすめの小説
スキルが芽生えたので復讐したいと思います~スライムにされてしまいました。意外と快適です~
北きつね
ファンタジー
世界各国に突如現れた”魔物”。
魔物を倒すことで、”スキル”が得られる。
スキルを得たものは、アニメーションの産物だった、魔法を使うことができる。
高校に通う普通の学生だった者が、魔物を見つけ、スキルを得る為に、魔物を狩ることを決意する。
得たスキルを使って、自分をこんな目に合わせた者への復讐を誓う。
高校生だった者は、スキルの深淵を覗き見ることになる。芽生えたスキルは、強力な武器となる。
注)作者が楽しむ為に書いています。
復讐物です。いじめや過激な表現が含まれます。恋愛要素は皆無です。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。
誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
追放された最弱ハンター、最強を目指して本気出す〜実は【伝説の魔獣王】と魔法で【融合】してるので無双はじめたら、元仲間が落ちぶれていきました〜
里海慧
ファンタジー
「カイト、お前さぁ、もういらないわ」
魔力がほぼない最低ランクの最弱ハンターと罵られ、パーティーから追放されてしまったカイト。
実は、唯一使えた魔法で伝説の魔獣王リュカオンと融合していた。カイトの実力はSSSランクだったが、魔獣王と融合してると言っても信じてもらえなくて、サポートに徹していたのだ。
追放の際のあまりにもひどい仕打ちに吹っ切れたカイトは、これからは誰にも何も奪われないように、最強のハンターになると決意する。
魔獣を討伐しまくり、様々な人たちから認められていくカイト。
途中で追放されたり、裏切られたり、そんな同じ境遇の者が仲間になって、ハンターライフをより満喫していた。
一方、カイトを追放したミリオンたちは、Sランクパーティーの座からあっという間に転げ落ちていき、最後には盛大に自滅してゆくのだった。
※ヒロインの登場は遅めです。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる