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第十九章 滅びゆく風の音
第79話 ひとつの国の行く末(1)
しおりを挟む 轟音とともに一夜にして消えた王城の前は、大騒ぎだった。地割れは城下町にも及び、あちこちで災害への嘆きが聞こえる。その街から転移して消えた魔性達は、ジルの居城で顔を突き合わせていた。
「ラーゼンの関与はどこまでだ?」
「現在調べておりますが、痕跡を消されていますね」
出遅れたと顔をしかめるリオネルの報告に、ジルが舌打ちする。すぐ隣の部屋に寝かせたルリアージェの様子を見に、今はライラが詰めていた。交代でルリアージェの部屋に赴く彼らは、報復方法を検討し始める。
「まず、ラーゼンの狙いを探らねばなりません」
「万が一にもルリアージェ様を害する気があれば……」
言葉を途切れさせたリシュアの顔に、残忍な本性が滲む。千年ほど大人しくしていたが、本人の根本的な本質は変わらない。どこまでいっても、死神の眷属である上級魔性だった。
「ツガシエはどうしましょうか」
パウリーネの声に、リシュアが思案する。サークレラ国に吸収させるのは簡単だが、ここ数年で急激に大きくなりすぎた。内部の統制が整う前に、新たな領地を得ても争いの火種になる。しかし王族や執政機関が崩壊した国は、隣国である旧リュジアンを通して騒動を持ち込むだろう。
このまま執政機関なしで放置すれば、難民が大量に発生して周囲の国々の財政を圧迫する。さらに盗賊や強盗が多発して治安も悪化するはずだ。
ルリアージェが気に入っていた家具職人も巻き込まれれば、次の世代が育たぬまま技術が廃れる可能性もあった。どこまでも自分勝手に考える魔性にとって、主人であるルリアージェの気を引く技術や存在は保護対象にあたる。
有り体に言えば、あの時点での最善策はツガシエを存続させることだった。王族がいれば責任を取らせればいいし、宰相などの重要ポストにつく貴族が生き残れば国は持ちこたえる。その状態で損害賠償を求める方法が、人族の力関係を保つ上で有効だった。
「吸収しても放置しても、害にしかなりません」
溜め息を吐いたリシュアの結論に、パウリーネが「そうかもしれないわね」と同意した。直情的な行動をとる彼女だとて、数千年を生きた魔性である。人族の国を操って遊んだこともあれば、感情のままに滅ぼしたこともあった。
「ならば、国ごと飲み込んでしまえば?」
戻ってきたライラは、大地の魔女らしい発想で首をかしげた。どこから聞いていたのか、茶色の三つ編みの穂先をくるりと指先で回す。
「ラーゼンの関与はどこまでだ?」
「現在調べておりますが、痕跡を消されていますね」
出遅れたと顔をしかめるリオネルの報告に、ジルが舌打ちする。すぐ隣の部屋に寝かせたルリアージェの様子を見に、今はライラが詰めていた。交代でルリアージェの部屋に赴く彼らは、報復方法を検討し始める。
「まず、ラーゼンの狙いを探らねばなりません」
「万が一にもルリアージェ様を害する気があれば……」
言葉を途切れさせたリシュアの顔に、残忍な本性が滲む。千年ほど大人しくしていたが、本人の根本的な本質は変わらない。どこまでいっても、死神の眷属である上級魔性だった。
「ツガシエはどうしましょうか」
パウリーネの声に、リシュアが思案する。サークレラ国に吸収させるのは簡単だが、ここ数年で急激に大きくなりすぎた。内部の統制が整う前に、新たな領地を得ても争いの火種になる。しかし王族や執政機関が崩壊した国は、隣国である旧リュジアンを通して騒動を持ち込むだろう。
このまま執政機関なしで放置すれば、難民が大量に発生して周囲の国々の財政を圧迫する。さらに盗賊や強盗が多発して治安も悪化するはずだ。
ルリアージェが気に入っていた家具職人も巻き込まれれば、次の世代が育たぬまま技術が廃れる可能性もあった。どこまでも自分勝手に考える魔性にとって、主人であるルリアージェの気を引く技術や存在は保護対象にあたる。
有り体に言えば、あの時点での最善策はツガシエを存続させることだった。王族がいれば責任を取らせればいいし、宰相などの重要ポストにつく貴族が生き残れば国は持ちこたえる。その状態で損害賠償を求める方法が、人族の力関係を保つ上で有効だった。
「吸収しても放置しても、害にしかなりません」
溜め息を吐いたリシュアの結論に、パウリーネが「そうかもしれないわね」と同意した。直情的な行動をとる彼女だとて、数千年を生きた魔性である。人族の国を操って遊んだこともあれば、感情のままに滅ぼしたこともあった。
「ならば、国ごと飲み込んでしまえば?」
戻ってきたライラは、大地の魔女らしい発想で首をかしげた。どこから聞いていたのか、茶色の三つ編みの穂先をくるりと指先で回す。
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