【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
294 / 386
第十九章 滅びゆく風の音

第77話 晩餐という名の謀(2)

しおりを挟む
 着替え用魔法陣の発動条件を確認して、そっと上に乗る。ライラが魔力を込めると、一瞬で着替えが終わった。昨夜着飾った時の姿そのままに、髪が結い上げられてかんざしに留められ、濃赤系の民族衣装が身体にフィットしている。

「不思議だ」

「形状記憶タイプなのよ。問題点があるとしたら、着替え用の服やアクセサリーを一時的に魔法陣に封じる必要があるところかしら」

 魔法陣の中に宝石類や着物を登録してしまうため、簪だけつけたまま出かけるなどの融通は利かない。すべてがワンセットにされてしまうのだ。指輪だけずっとつけて置きたい場合は、指輪を抜いて魔法陣に登録する必要があった。

「一長一短か」

 便利だが、着替えた姿を最初に登録する必要があるのも、面倒な点かも知れない。ルリアージェが改善点を考えていると、パウリーネが新たな指摘をした。

「あと登録時と大きく外見が変わったり、別の人が乗っても、発動しませんわね」

 つまり昔登録した魔法陣を、数年後に利用しようとしてもダメな可能性がある。長い髪をショートにすれば、髪を結って登録した魔法陣が条件を満たさないと判断するのだろう。納得しながら、ルリアージェが顔を上げた。

「何回も使えるのか?」

 同じ魔法陣を複数回使いまわせるのか。魔術の基本として、魔法陣を使う理由が『同じ魔力量で同じ作用を生み出すため』である。限られた魔力を効率的に、確実に魔術へ変換する術式なのだ。当然の疑問に、ライラが答えた。

「そうね。基本的には可能だわ。たとえば今の着替え終えた状態で、魔法陣を再作成すれば明日も使えるでしょう? 使い捨てに近いけれど、着替え後の姿を登録するだけなら、毎回登録し直せば永遠に使いまわせる理屈なの」

「なるほど」

 熱心な魔法陣研究が一段落したタイミングで、ジルがドアをノックする。

「着替え終わったなら、そろそろ行こうか。迎えの馬車が来たぞ」

 その言葉に、慌ててライラとパウリーネも魔法陣を発動させる。彼女らも昨夜のうちに、着替え用魔法陣を作成した。本来は魔法陣がなくとも可能な着替えだが、繰り返し確認したがるルリアージェのために2人分の魔法陣も用意したのだ。

「何度見ても精度の高い再現魔術だ」

 魔法陣の細かさや文字の複雑さに感心するルリアージェと手を繋ぎ、ライラがドアへ向かう。開いた先に、すでに正装済みの3人が待っていた。

「美人なリアは何を着ても似合う。その着物なら、もう1本簪を増やしても良さそうだ」

 袖の中から取り出した珊瑚の簪を、ルリアージェの銀髪に差し込んだ。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

処理中です...