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第十七章 迷宮という封印

第68話 水の魔王の意地(1)

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「八つ当たりなんて、醜くてよ。ティル、奴を捕らえなさい」

 パウリーネが水虎を呼び出す。名前はティルに決まったらしい。今まで2匹だったが、統合したのか一回り大きな1匹が結界内を走った。ジルの結界を通り抜けて水中で飛びつき、アーロンの腕を噛んで引き千切ろうと頭を振る。

「パウリーネ、あの虎の名前はティルに決めたのか?」

「ええ。リア様の炎龍がジェンなら、似たような響きにしようと思いまして」

 にこにこ応じるパウリーネだが、その間も水虎ティルは魔性に噛み付いたままだ。抵抗しようとティルを押し戻そうとしても、元が水なので通り抜けてしまう。しかし水の牙はしっかり腕に食い込んでいた。卑怯なくらいの強さを誇る眷獣を従え、パウリーネは嫣然と笑う。

 役者が違う。まさに格の違いを見せ付けるように、死神と眷属達は飛び込んだ獲物を囲んだ。海底の水圧から自らを守る結界すら必要としない魔性達は、結界の内側へアーロンを引き入れる。

 同時にルリアージェの周りに複数の結界が張られた。心配性のジルの結界の表面に沿わせる形で、リオネルの炎、リシュアの風、パウリーネの水が層を成す。海底に直接接する地面は、大地の魔女による守りが魔法陣の形で展開していた。

 身体に添わせた結界にルリアージェは素直に「凄い技術だ」と感心しながら、魔性達の戦いを見上げる。

 人族の魔術師であった今の彼女にとって、魔性同士の争いは日常茶飯事になっていた。本来は一生に一度遭遇するかどうかの珍しい事例が、これだけ目の前で繰り返されれば「ああまたか」程度の感想しか抱かなくなるものだ。これだけ狙われるジルの立場に、複雑な思いがあったとしても。

「腕を離しておやり、ジル様をお待たせてしまうわ」

 他者の見せ場を奪ってしまうとパウリーネが呟くと、ティルは噛んでいた腕を千切って飲み込んだ。以前は透明だったが、今は曇りガラスのように半透明の姿だ。お陰で虎特有の縞模様もよく見える。

 体内に取り込んだ腕を凍らせて砕き、含まれた魔力をティルが吸収した。食事と同じ原理だ。他者から切り離した魔力を同化させて、自らの魔力を増強する魔性や魔物の技だった。

 パウリーネの薄い胸元に頭を擦り付けて甘えるティルを撫でていると、ルリアージェが近づく。

「触れても平気か?」

「ええ、問題ありませんわ」

「ティル、触るぞ」

 しっかり声をかけてから、ルリアージェは視線を合わせるように屈んで手を伸ばした。触れると水の冷たさが伝わる。しかし通り抜けることはなかった。
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