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第十六章 トルカーネの役割
第59話 与えられた役割(2)
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「覗き趣味のお前がいるのに、どうしてオレが動く必要がある? 手は足りてるぞ」
少年にしか見えないトルカーネは、眉をひそめてぼやく。応じるジルは肩を竦めて、眷属へ目をくれた。頼りになる配下が全員揃っているのに、オレが自ら動く必要はない。そう告げたジルを、3人が誇らしげに見つめた。
トルカーネが仕掛けたなら、高みの見物と洒落込んでいるはずだ。彼の気配を知るジルが見落とすわけもなく、かなり前に気付いていた。だからこそ動かなかったのだ。
ジルが力を振るえば、四大精霊が従う。しかし同時にルリアージェから意識をそらすことになる。そしてその部分を指摘してきたならば、目を離した隙にルリアージェに何か仕掛けるつもりだったのだ。
トルカーネのやり口はいつもそうだった。人の大切なモノを奪ったり、殺して晒したり、粉々に砕いたりする。お決まりの手口を知るジルが従う理由はなかった。
「お決まりの手管に嵌ってやるほど、暇じゃない」
馬鹿にしたジルの指摘に、トルカーネは僅かに顔をゆがめた。整った顔に苦々しい感情が浮かんですぐに消える。トルカーネの背後に控えるスピネーとレイシアが睨みつけた。
「だいたいオレの名前を間違えるなんて、ぼけてるんじゃないか?」
喉をくつくつ震わせて笑うジルが、トルカーネを煽る。褐色の肌がさっと赤くなった。
子供の外見を纏う魔性には特徴がある。性格が大人にならないのだ。それはジルやパウリーネも似た部分はあるが、もっと子供だ。それこそ人族の年齢に喩えるなら10歳前後の精神年齢しかない。魔術や知識は蓄えても、それらを扱う感情が我が侭な子供のままだった。
精神的に幼い魔性の中でも、外見を子供にする魔性は特にそれらが顕著な傾向にあった。もちろん、ライラもトルカーネもこれに該当する。だからこそ、子供だと馬鹿にされると怒るのだ。
感情が幼すぎて操られやすい。知識や経験で補って取り繕おうが、最終的に決断を下す感情が幼児では結果が見えていた。
「この僕にそんな口を利くなんてっ!」
「しょうがないだろ。最年長でボケてるんだったら、教えてやるのが親切ってもんだ。そこに並ぶお人形さんじゃ、指摘してくれないだろうしな」
トルカーネの配下は数万単位だ。それは上級から下位、魔物に分類される者まで含まれていた。手当たり次第誰でも入れてしまう。そのため、側近まで上り詰めた魔性ほど守りに入るのだ。主の機嫌を損ねたら、すぐに代わりが待ちかねているのだから。
トルカーネの機嫌を損ねるような助言や指摘は一切しなかった。ご機嫌取りのイエスマン、お人形しか揃えていないと言い切られ、水の魔王の感情は沸騰寸前だ。
少年にしか見えないトルカーネは、眉をひそめてぼやく。応じるジルは肩を竦めて、眷属へ目をくれた。頼りになる配下が全員揃っているのに、オレが自ら動く必要はない。そう告げたジルを、3人が誇らしげに見つめた。
トルカーネが仕掛けたなら、高みの見物と洒落込んでいるはずだ。彼の気配を知るジルが見落とすわけもなく、かなり前に気付いていた。だからこそ動かなかったのだ。
ジルが力を振るえば、四大精霊が従う。しかし同時にルリアージェから意識をそらすことになる。そしてその部分を指摘してきたならば、目を離した隙にルリアージェに何か仕掛けるつもりだったのだ。
トルカーネのやり口はいつもそうだった。人の大切なモノを奪ったり、殺して晒したり、粉々に砕いたりする。お決まりの手口を知るジルが従う理由はなかった。
「お決まりの手管に嵌ってやるほど、暇じゃない」
馬鹿にしたジルの指摘に、トルカーネは僅かに顔をゆがめた。整った顔に苦々しい感情が浮かんですぐに消える。トルカーネの背後に控えるスピネーとレイシアが睨みつけた。
「だいたいオレの名前を間違えるなんて、ぼけてるんじゃないか?」
喉をくつくつ震わせて笑うジルが、トルカーネを煽る。褐色の肌がさっと赤くなった。
子供の外見を纏う魔性には特徴がある。性格が大人にならないのだ。それはジルやパウリーネも似た部分はあるが、もっと子供だ。それこそ人族の年齢に喩えるなら10歳前後の精神年齢しかない。魔術や知識は蓄えても、それらを扱う感情が我が侭な子供のままだった。
精神的に幼い魔性の中でも、外見を子供にする魔性は特にそれらが顕著な傾向にあった。もちろん、ライラもトルカーネもこれに該当する。だからこそ、子供だと馬鹿にされると怒るのだ。
感情が幼すぎて操られやすい。知識や経験で補って取り繕おうが、最終的に決断を下す感情が幼児では結果が見えていた。
「この僕にそんな口を利くなんてっ!」
「しょうがないだろ。最年長でボケてるんだったら、教えてやるのが親切ってもんだ。そこに並ぶお人形さんじゃ、指摘してくれないだろうしな」
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トルカーネの機嫌を損ねるような助言や指摘は一切しなかった。ご機嫌取りのイエスマン、お人形しか揃えていないと言い切られ、水の魔王の感情は沸騰寸前だ。
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