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第十六章 トルカーネの役割
第57話 最大にして唯一の弱点(2)
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危険を感じられるような状況にルリアージェが置かれたら、彼女は他の魔性を守るために命を捨てかねない。それが自分より強い存在のためであっても、一番弱いのが自分だと自覚していても……彼女の決意は揺るがないだろう。
人質にされたらジル達も手が出せなくなる。最強の魔族殺し『死神』とその眷属、大地の魔女にとって――最大にして唯一の弱点がルリアージェなのだ。
「人族の動きは監視だけしておけ。裏で魔性が動けばわかるように」
「はい、かしこまりました」
リシュアが微笑んで了承を伝える。長く国王をしてきただけあり、彼は人族の損得や感情の機微に聡い。逆に影を使ったリオネルの情報収集は有能で、魔性がらみはリオネルの独壇場だった。
「着替え終わったわ」
男性陣が相談している事実を知るライラが、わざわざ声をかけてから戻った。パウリーネは淡い緑のワンピース、ライラは白に近い水色だった。
最後に入ってきたルリアージェが一番華やかだ。クリーム色に真っ赤な大きな花柄のマキシワンピースである。足元まで裾が届き、肩には透けるボレロを羽織っていた。長袖のボレロに袖は通していない。すとんとしたデザインの服は胸のコンプレックスも覆い隠していた。
「綺麗だ、リア」
「皆さま、よくお似合いです」
「品のいい装いですね」
口々に褒める男性達に、機嫌をよくしたライラがくるりと回ってみせる。
「そうでしょう?」
「おまえは褒めてないぞ」
ジルがライラに止めを差し、そこで子供の言い争いのような口喧嘩が始まった。この2人の精神年齢や性格は似ているのかもしれない。溜め息をついた側近達の考えを知らず、ルリアージェが間に入って止めるまで彼と彼女は騒いでいた。
街中はにぎわっていた。海辺のリゾート地として治安優先で整備された街は、多くの貴族や富裕層が集まる。そのため高価な品を扱う店から、庶民的な店まで、様々なランクの店が入り混じって栄えていた。
「すごい活気だ」
「リア、あの果物は美味しいから買って帰りましょう」
「こっちは?」
「オレはこっちのがお勧め」
それぞれに買い物を始める。多少の地域差はあっても海辺は暖かく果物が多い。豊富な種類を眺めながら、気になったものを次々と購入した。抱えきれない量をすべてリオネルが収納していく。人前で行うと目立つのだが、リオネルはまったく気にしなかった。
「目立ってないか?」
「リアは美人なのに目立つ自覚がないのね」
呆れたとライラが指摘すると、ジルが肩を竦めて追従する。
「そうなんだ。だから旅の最初の頃は大変だったぜ。変な領主が惚れて追いかけてきたり、どっかの貴族が囲おうと手を回して国境封鎖しただろ。記憶喪失になった時は王族の側室にされかかってたぞ」
「……苦労したのね」
人質にされたらジル達も手が出せなくなる。最強の魔族殺し『死神』とその眷属、大地の魔女にとって――最大にして唯一の弱点がルリアージェなのだ。
「人族の動きは監視だけしておけ。裏で魔性が動けばわかるように」
「はい、かしこまりました」
リシュアが微笑んで了承を伝える。長く国王をしてきただけあり、彼は人族の損得や感情の機微に聡い。逆に影を使ったリオネルの情報収集は有能で、魔性がらみはリオネルの独壇場だった。
「着替え終わったわ」
男性陣が相談している事実を知るライラが、わざわざ声をかけてから戻った。パウリーネは淡い緑のワンピース、ライラは白に近い水色だった。
最後に入ってきたルリアージェが一番華やかだ。クリーム色に真っ赤な大きな花柄のマキシワンピースである。足元まで裾が届き、肩には透けるボレロを羽織っていた。長袖のボレロに袖は通していない。すとんとしたデザインの服は胸のコンプレックスも覆い隠していた。
「綺麗だ、リア」
「皆さま、よくお似合いです」
「品のいい装いですね」
口々に褒める男性達に、機嫌をよくしたライラがくるりと回ってみせる。
「そうでしょう?」
「おまえは褒めてないぞ」
ジルがライラに止めを差し、そこで子供の言い争いのような口喧嘩が始まった。この2人の精神年齢や性格は似ているのかもしれない。溜め息をついた側近達の考えを知らず、ルリアージェが間に入って止めるまで彼と彼女は騒いでいた。
街中はにぎわっていた。海辺のリゾート地として治安優先で整備された街は、多くの貴族や富裕層が集まる。そのため高価な品を扱う店から、庶民的な店まで、様々なランクの店が入り混じって栄えていた。
「すごい活気だ」
「リア、あの果物は美味しいから買って帰りましょう」
「こっちは?」
「オレはこっちのがお勧め」
それぞれに買い物を始める。多少の地域差はあっても海辺は暖かく果物が多い。豊富な種類を眺めながら、気になったものを次々と購入した。抱えきれない量をすべてリオネルが収納していく。人前で行うと目立つのだが、リオネルはまったく気にしなかった。
「目立ってないか?」
「リアは美人なのに目立つ自覚がないのね」
呆れたとライラが指摘すると、ジルが肩を竦めて追従する。
「そうなんだ。だから旅の最初の頃は大変だったぜ。変な領主が惚れて追いかけてきたり、どっかの貴族が囲おうと手を回して国境封鎖しただろ。記憶喪失になった時は王族の側室にされかかってたぞ」
「……苦労したのね」
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