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第十六章 トルカーネの役割
第55話 嵐の前の静けさ(2)
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「ジル様、料理なら私が」
リオネルの申し出をひらりと手を振って躱す。
「いや、オレが作る。それよりハーブをライラに調達してもらえ。リストはこれだ」
大地の魔女ならば一瞬で揃えられるリストを渡し、隣でそわそわしているリシュアにも用を言いつける。
「おまえは魚の調達。必要なのはこれだ」
魚の名を次々と羅列する。量と種類が多いのは、ほとんどを今後の保管用とするためだ。復唱して確認したリシュアが慌てて姿を消した。海沿いであってもテラレスやシグラでなくては入手できない種類があったのだ。急がなくては夕食に間に合わなくなる。
手を出したがる側近を追い払ったジルは、再び鼻歌を歌いながら仕込みを始めた。
「リア様、日に焼けてしまいますわ。あとで背中が痛くなりますわよ」
薄着で海辺に立つルリアージェを心配して、パウリーネが薄い水の膜を作り出す。女性ならではの気遣いだろう。白い肌のルリアージェの背中や首筋がすこし赤くなっていた。
「いやだわ、手遅れにならないうちに冷やしましょう。失礼しますわね、リア様」
ひんやりと冷たい手が、赤くなったルリアージェの肌に当てられた。熱を奪う手の感触にほっと息が漏れる。心地よさは触れていない肌全体に広がっていく。
「水魔法は火と同じで温度を操れますから、こうして利用できますの」
水に関する魔法では、魔王トルカーネに次ぐ実力者パウリーネの言葉に、「なるほど。助かる」とルリアージェが笑顔で答えた。
薄い水の膜を肌に沿わせるイメージだ。外に張った結界状の膜で日差しを半減させるため、これ以上日焼けで肌をいためる心配はなかった。
「今日は久しぶりにジルの料理だな」
楽しみにしているルリアージェの発言に、くすくす笑うパウリーネが隣に並んで椅子を差し出す。籐で編まれた長椅子に並んで腰掛けると、銀の髪をかき上げたルリアージェは海へ目をやった。
「ジル様が料理をなさるとは知りませんでしたわ」
「テラレスから逃げている間、ほとんど料理はあいつの役目だったが」
以前は作らなかったのか。知らなかった一面に素直に驚く。手際よく料理をしていたから、てっきり経験があるのだと思っていた。
リオネルの申し出をひらりと手を振って躱す。
「いや、オレが作る。それよりハーブをライラに調達してもらえ。リストはこれだ」
大地の魔女ならば一瞬で揃えられるリストを渡し、隣でそわそわしているリシュアにも用を言いつける。
「おまえは魚の調達。必要なのはこれだ」
魚の名を次々と羅列する。量と種類が多いのは、ほとんどを今後の保管用とするためだ。復唱して確認したリシュアが慌てて姿を消した。海沿いであってもテラレスやシグラでなくては入手できない種類があったのだ。急がなくては夕食に間に合わなくなる。
手を出したがる側近を追い払ったジルは、再び鼻歌を歌いながら仕込みを始めた。
「リア様、日に焼けてしまいますわ。あとで背中が痛くなりますわよ」
薄着で海辺に立つルリアージェを心配して、パウリーネが薄い水の膜を作り出す。女性ならではの気遣いだろう。白い肌のルリアージェの背中や首筋がすこし赤くなっていた。
「いやだわ、手遅れにならないうちに冷やしましょう。失礼しますわね、リア様」
ひんやりと冷たい手が、赤くなったルリアージェの肌に当てられた。熱を奪う手の感触にほっと息が漏れる。心地よさは触れていない肌全体に広がっていく。
「水魔法は火と同じで温度を操れますから、こうして利用できますの」
水に関する魔法では、魔王トルカーネに次ぐ実力者パウリーネの言葉に、「なるほど。助かる」とルリアージェが笑顔で答えた。
薄い水の膜を肌に沿わせるイメージだ。外に張った結界状の膜で日差しを半減させるため、これ以上日焼けで肌をいためる心配はなかった。
「今日は久しぶりにジルの料理だな」
楽しみにしているルリアージェの発言に、くすくす笑うパウリーネが隣に並んで椅子を差し出す。籐で編まれた長椅子に並んで腰掛けると、銀の髪をかき上げたルリアージェは海へ目をやった。
「ジル様が料理をなさるとは知りませんでしたわ」
「テラレスから逃げている間、ほとんど料理はあいつの役目だったが」
以前は作らなかったのか。知らなかった一面に素直に驚く。手際よく料理をしていたから、てっきり経験があるのだと思っていた。
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