【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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第十五章 茶番劇は得意ですか

第49話 狙われた美女は滅亡の響き(1)

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 パウリーネが張った結界に触れぬ位置に展開した魔法陣は、触れた侵入者を転送する。転送先は暴れても簡単に修理が可能な場所――ジルの城だった。

 艶のある黒い床の上に放り出された男は、焦って見回す。リュジアン国王ルーカスの命令は、宿で眠る女2人のうちどちらかを犯すこと。抱く必要はなく、多少傷ものにしても構わないと言われた。それどころか気に入った方をくれてやると匂わされ、一も二もなく頷く。

 伯爵家の次男として生まれた男の外見は、人族としてみれば整っている。サークレラ国のマスカウェイル公爵家が挨拶に訪れた広間で、ルリアージェに一目惚れした。今まで数々の未亡人や貴族令嬢と浮名を流してきたが、初めて自分から欲しいと思った女性だ。

 国王命令で手にいれることが許されるなら、話に乗らない手はない。ましてや陛下の命令書があれば、宿の警備は簡単に通過できた。部屋の位置を確認して忍び寄った先で、天蓋の薄絹に守られた美女が眠っている。銀髪の公爵夫人は背を向けており、彼にとって好都合だった。

 しかし薄絹に触れた途端、見知らぬ広間に移動している。魔術師ではない男は状況が理解できなかった。

 黒い床の上に3人の男が立つ。全員が見覚えのある、タイプの違う美貌の持ち主だった。マスカウェイル公爵、公爵の弟、そして執事らしい褐色の肌の青年。

「いかがしますか?」

「手出しは無用だ。コイツはバラバラにして城に送り返す」

 リオネルの問いかけに、ジルは冷たく言い放った。すると庇うようにリシュアが口を挟む。

「バラバラにして城門に飾るのも捨てがたいですが、傀儡くぐつとして利用してもよいのではありませんか? 引き裂いてしまえば、主犯の国王に手が届かなくなります」

 トカゲの尻尾きりではもったいない。もっと暴れるチャンスが待っているとそそのかすリシュアは、国王時代の感情が読めない笑みで結論を主に委ねる。

「リシュア、お前がそう言うなら主犯を引きずり出す作戦はあるんだろうな」

 確証がなければ、この場で八つ裂きにする。冷静に呟くジルへ、一礼して膝をついたリシュアが裾に接吻けた。

「我が命と忠誠に誓って。必ずやルーカスを御前に」

「ならば任せる。好きにしろ」

 他国の国王を呼び捨てにしたリシュアに、男は驚いていた。本人の前でなくとも、王族を呼び捨てにする人間はまずいない。目の前にいる3人が人外だと知らない男に向き直ったリシュアが、それはそれは黒い笑顔を作った。

「まず傀儡の作成からですね」

 怯えて後ずさろうとした男の顎をつかみ、自分と無理やりに目を合わせる。左右で濃淡が違う緑の瞳が瞬きを止めた。じっと見つめる男の両腕がだらんと垂れる。ぼんやりした彼の表情を確認し、リシュアは男を掴んでいた手を離した。
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