216 / 386
第十五章 茶番劇は得意ですか
第49話 狙われた美女は滅亡の響き(1)
しおりを挟む
パウリーネが張った結界に触れぬ位置に展開した魔法陣は、触れた侵入者を転送する。転送先は暴れても簡単に修理が可能な場所――ジルの城だった。
艶のある黒い床の上に放り出された男は、焦って見回す。リュジアン国王ルーカスの命令は、宿で眠る女2人のうちどちらかを犯すこと。抱く必要はなく、多少傷ものにしても構わないと言われた。それどころか気に入った方をくれてやると匂わされ、一も二もなく頷く。
伯爵家の次男として生まれた男の外見は、人族としてみれば整っている。サークレラ国のマスカウェイル公爵家が挨拶に訪れた広間で、ルリアージェに一目惚れした。今まで数々の未亡人や貴族令嬢と浮名を流してきたが、初めて自分から欲しいと思った女性だ。
国王命令で手にいれることが許されるなら、話に乗らない手はない。ましてや陛下の命令書があれば、宿の警備は簡単に通過できた。部屋の位置を確認して忍び寄った先で、天蓋の薄絹に守られた美女が眠っている。銀髪の公爵夫人は背を向けており、彼にとって好都合だった。
しかし薄絹に触れた途端、見知らぬ広間に移動している。魔術師ではない男は状況が理解できなかった。
黒い床の上に3人の男が立つ。全員が見覚えのある、タイプの違う美貌の持ち主だった。マスカウェイル公爵、公爵の弟、そして執事らしい褐色の肌の青年。
「いかがしますか?」
「手出しは無用だ。コイツはバラバラにして城に送り返す」
リオネルの問いかけに、ジルは冷たく言い放った。すると庇うようにリシュアが口を挟む。
「バラバラにして城門に飾るのも捨てがたいですが、傀儡として利用してもよいのではありませんか? 引き裂いてしまえば、主犯の国王に手が届かなくなります」
トカゲの尻尾きりではもったいない。もっと暴れるチャンスが待っていると唆すリシュアは、国王時代の感情が読めない笑みで結論を主に委ねる。
「リシュア、お前がそう言うなら主犯を引きずり出す作戦はあるんだろうな」
確証がなければ、この場で八つ裂きにする。冷静に呟くジルへ、一礼して膝をついたリシュアが裾に接吻けた。
「我が命と忠誠に誓って。必ずやルーカスを御前に」
「ならば任せる。好きにしろ」
他国の国王を呼び捨てにしたリシュアに、男は驚いていた。本人の前でなくとも、王族を呼び捨てにする人間はまずいない。目の前にいる3人が人外だと知らない男に向き直ったリシュアが、それはそれは黒い笑顔を作った。
「まず傀儡の作成からですね」
怯えて後ずさろうとした男の顎をつかみ、自分と無理やりに目を合わせる。左右で濃淡が違う緑の瞳が瞬きを止めた。じっと見つめる男の両腕がだらんと垂れる。ぼんやりした彼の表情を確認し、リシュアは男を掴んでいた手を離した。
艶のある黒い床の上に放り出された男は、焦って見回す。リュジアン国王ルーカスの命令は、宿で眠る女2人のうちどちらかを犯すこと。抱く必要はなく、多少傷ものにしても構わないと言われた。それどころか気に入った方をくれてやると匂わされ、一も二もなく頷く。
伯爵家の次男として生まれた男の外見は、人族としてみれば整っている。サークレラ国のマスカウェイル公爵家が挨拶に訪れた広間で、ルリアージェに一目惚れした。今まで数々の未亡人や貴族令嬢と浮名を流してきたが、初めて自分から欲しいと思った女性だ。
国王命令で手にいれることが許されるなら、話に乗らない手はない。ましてや陛下の命令書があれば、宿の警備は簡単に通過できた。部屋の位置を確認して忍び寄った先で、天蓋の薄絹に守られた美女が眠っている。銀髪の公爵夫人は背を向けており、彼にとって好都合だった。
しかし薄絹に触れた途端、見知らぬ広間に移動している。魔術師ではない男は状況が理解できなかった。
黒い床の上に3人の男が立つ。全員が見覚えのある、タイプの違う美貌の持ち主だった。マスカウェイル公爵、公爵の弟、そして執事らしい褐色の肌の青年。
「いかがしますか?」
「手出しは無用だ。コイツはバラバラにして城に送り返す」
リオネルの問いかけに、ジルは冷たく言い放った。すると庇うようにリシュアが口を挟む。
「バラバラにして城門に飾るのも捨てがたいですが、傀儡として利用してもよいのではありませんか? 引き裂いてしまえば、主犯の国王に手が届かなくなります」
トカゲの尻尾きりではもったいない。もっと暴れるチャンスが待っていると唆すリシュアは、国王時代の感情が読めない笑みで結論を主に委ねる。
「リシュア、お前がそう言うなら主犯を引きずり出す作戦はあるんだろうな」
確証がなければ、この場で八つ裂きにする。冷静に呟くジルへ、一礼して膝をついたリシュアが裾に接吻けた。
「我が命と忠誠に誓って。必ずやルーカスを御前に」
「ならば任せる。好きにしろ」
他国の国王を呼び捨てにしたリシュアに、男は驚いていた。本人の前でなくとも、王族を呼び捨てにする人間はまずいない。目の前にいる3人が人外だと知らない男に向き直ったリシュアが、それはそれは黒い笑顔を作った。
「まず傀儡の作成からですね」
怯えて後ずさろうとした男の顎をつかみ、自分と無理やりに目を合わせる。左右で濃淡が違う緑の瞳が瞬きを止めた。じっと見つめる男の両腕がだらんと垂れる。ぼんやりした彼の表情を確認し、リシュアは男を掴んでいた手を離した。
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる