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第十五章 茶番劇は得意ですか

第48話 夜這い未遂(2)

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 一方、女性達は風呂上りのお茶を楽しむ。飲み終えると、湯冷めする前にとベッドに飛び込んだ。

「パウリーネ達はどうやってジルと知り合ったんだ?」

 好奇心が旺盛な主の問いかけに、パウリーネは笑いながら肩に毛皮の毛布をかける。湯冷めさせてしまったら、きっとジルに怒られるだろう。大人しく毛布に包まれたルリアージェの隣に、ちゃっかりライラも潜り込む。

 ルリアージェとライラがしっかり温もりを確保したのを確認し、パウリーネは部屋の明かりを暗くした。辞退したのに同じ寝台で寝ようと食い下がるルリアージェに根負けしたパウリーネは、青銀の髪を束ねてからライラを中央に挟む形で寝転がる。

「そうですね……私がジル様と出会ったとき、すでにリオネルは付き従っていました。ですので彼の話はリオネルに聞いてくださいね」

 前置きしてからパウリーネが昔話を始めた。

 パウリーネが氷静の二つ名を持つ前、水の魔王トルカーネの側近である友人と一緒に行動していた。トルカーネの魔力に心地よさは覚えるが、主君として頭を垂れる気はなく、パウリーネは中途半端な立ち位置だった。それを快く思わない勢力との小競り合いも、パウリーネにとっては暇つぶしだ。

 長い寿命が約束された上級魔性にとって、一番の敵は退屈なのだ。魔力が尽きて身体が死ぬ前に、心を殺してしまう魔性も少なくない。退屈を嫌うパウリーネにとって、強者との戦いは心躍るイベントだった。

 神族と魔族の間に禁忌の子供が生まれた。その子供は上級魔性としても規格外の魔力を保有している。噂を聞いて興味を惹かれ、どの程度の実力か確かめてやろうと考えた。単純に戦ってみたかったのだ。

「今思えば無謀ですけれど」

 くすくす笑ったパウリーネが、天蓋の薄絹に触れる。さらさらした手触りに目を細めた。

「結果は?」
 
 わくわくしながら続きを促すルリアージェに対し、パウリーネは不思議な感覚に笑みを浮かべる。最初はジルが契約した主だから従う、程度の感覚しかなかった。彼女はあまり我が侭をいう性質ではないし、主従の真似事をしても大した期間ではない。ジルの機嫌を損ねないように相手をしようと思った。

 だが今はまったく違う。ルリアージェと直接主従の契約を交わしてもいいと考えるほど、気に入っていた。以前は見下していた人族を、ここまで受け入れる自分の変化に驚きもある。

「端的に言えば、戦いを挑んで負けましたの」

 それも言い訳のしようがないほど、徹底的に負かされた。目の前に突然転移してきたパウリーネへ「死にたくなければ下がれ」と告げたジルは、幼い外見に似合わぬ笑みを浮かべる。格下へ向ける穏やかな笑みで諭す子供に、苛立って氷をつきたてた。

 氷が触れる直前に砕ける。背後で膝をついて待つリオネルの魔力かと思ったが、魔力ではない。その頃のパウリーネは霊力の存在を知らなかった。得たいの知れない力を揮う子供は美しい顔に、ひどく残忍な笑みを浮かべて手を差し伸べる。
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