208 / 386
第十四章 リュジアン
第46話 自由に観光がしたかったので(2)
しおりを挟む
「部屋を用意させよう、ゆるりと楽しまれるがよい」
一礼した彼らが退出しようとするのを、慌てて呼び止める。
「待たれよ」
首をかしげて立ち止まるジルへ、リュジアン国王ルーカスが己の息子達を手招いた。慌てて歩み寄る息子達を紹介する。
「第一王子アードルフ、第二王子オリヴェルだ。どちらかを貴殿らの案内役につけようと思う」
「……殿下方を、ですか」
考えるように区切った言葉、眇められた紫水晶の瞳が冷たい印象を与える。隣の妻に何か耳打ちをするが、彼女はゆるりと首を横に振った。瞳と同じ色の宝石がしゃらんと音を立てる。
「お申し出は有り難く、されど我らは王族ではありませぬ。恐れ多く、ご辞退させていただきたいと……」
リシュアがジルの前に進み出て断りを口にする。
言い切らずに委ねる形をとっているが、明確な拒絶だった。自国の貴族達が驚きに目を瞠っている。それもそうだろう。北の国はどちらも大国だが、王の権力が絶対視されてきた。他国の王族であろうと、ここまではっきり断られることはない。
絶対王政の北の国々で、他国の一貴族がリュジアン国王の申し出を跳ね除けるなど……。
「失礼いたします」
この場で決定権をもつのは、どうやら公爵夫人らしい。彼女が礼をとって踵を返すと、公爵がその細い腰に手を回した。ロイヤルブルーのドレス姿が美しい美女は、白い手を娘に差し出す。当然のように手を握った娘を連れて、彼女は歩き出した。
一礼して弟夫妻、執事も広間をでていく。呆然と見送ったリュジアン国王と貴族は顔を見合わせた。宰相がぼそりと呟く。
「なんと……自由な」
その一言にすべての感想が込められていた。王族への謁見にかしこまりすぎることなく、平然と最低限の礼を尽くして去っていく。身分に必要な保護は受けるが、それ以上の思惑は遠慮なく切り捨てる。これを王族ではなく、一貴族が行ったのだ。
さすがは外交で名を成せるサークレラ国王の相談役よ、と誰もが感心した。
「びっくりしたわ。王子をつけるなんて言うんですもの」
邪魔なだけじゃない。そんなライラの呟きに、リシュアがくすくす笑う。リュジアン国王ルーカスの思惑はわかりやすかった。外交を得意とするリシュアでなくても気付く。
「あたくしは人族と結婚する気はなくてよ」
ライラのつんとした物言いに、ルリアージェが頬を緩めて茶色の髪を撫でた。尻尾と耳を隠して人の姿を装った彼女は、ただの人族の少女だ。上位魔性を相手取る精霊王の娘には見えない。
一礼した彼らが退出しようとするのを、慌てて呼び止める。
「待たれよ」
首をかしげて立ち止まるジルへ、リュジアン国王ルーカスが己の息子達を手招いた。慌てて歩み寄る息子達を紹介する。
「第一王子アードルフ、第二王子オリヴェルだ。どちらかを貴殿らの案内役につけようと思う」
「……殿下方を、ですか」
考えるように区切った言葉、眇められた紫水晶の瞳が冷たい印象を与える。隣の妻に何か耳打ちをするが、彼女はゆるりと首を横に振った。瞳と同じ色の宝石がしゃらんと音を立てる。
「お申し出は有り難く、されど我らは王族ではありませぬ。恐れ多く、ご辞退させていただきたいと……」
リシュアがジルの前に進み出て断りを口にする。
言い切らずに委ねる形をとっているが、明確な拒絶だった。自国の貴族達が驚きに目を瞠っている。それもそうだろう。北の国はどちらも大国だが、王の権力が絶対視されてきた。他国の王族であろうと、ここまではっきり断られることはない。
絶対王政の北の国々で、他国の一貴族がリュジアン国王の申し出を跳ね除けるなど……。
「失礼いたします」
この場で決定権をもつのは、どうやら公爵夫人らしい。彼女が礼をとって踵を返すと、公爵がその細い腰に手を回した。ロイヤルブルーのドレス姿が美しい美女は、白い手を娘に差し出す。当然のように手を握った娘を連れて、彼女は歩き出した。
一礼して弟夫妻、執事も広間をでていく。呆然と見送ったリュジアン国王と貴族は顔を見合わせた。宰相がぼそりと呟く。
「なんと……自由な」
その一言にすべての感想が込められていた。王族への謁見にかしこまりすぎることなく、平然と最低限の礼を尽くして去っていく。身分に必要な保護は受けるが、それ以上の思惑は遠慮なく切り捨てる。これを王族ではなく、一貴族が行ったのだ。
さすがは外交で名を成せるサークレラ国王の相談役よ、と誰もが感心した。
「びっくりしたわ。王子をつけるなんて言うんですもの」
邪魔なだけじゃない。そんなライラの呟きに、リシュアがくすくす笑う。リュジアン国王ルーカスの思惑はわかりやすかった。外交を得意とするリシュアでなくても気付く。
「あたくしは人族と結婚する気はなくてよ」
ライラのつんとした物言いに、ルリアージェが頬を緩めて茶色の髪を撫でた。尻尾と耳を隠して人の姿を装った彼女は、ただの人族の少女だ。上位魔性を相手取る精霊王の娘には見えない。
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?


オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる