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第十三章 龍炎と氷雷の舞

第37話 最後の眷属(2)

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 足元に魔法陣が描かれる。縁から溢れるように水が舞い上がり、ジルを囲んだ。透き通った水が天井付近まで覆い尽くす柱の中央で、左手のピアスを凍らせる。

≪我は望む、残る眷族の解放を…水と氷を従えたる者よ、戻れ≫

 シャラン……氷が砕ける音と同時に、広間に現れた水の柱は急速に小さくなった。水が凝って人型になったように錯覚する。膝をついた女性が、頭を垂れていた。

「我が君、お久しぶりにございます」

「待たせたな、パウリーネ」

 悪かったと滲ませて告げるジルの黒衣の裾へ、青銀の髪をもつ女魔性は恭しく接吻ける。

「改めて、我が君に忠誠をお誓い申し上げます」

 彼女が身を起こした直後、ライラは数歩後ろへ飛んだ。今までライラがいた場所に、氷の矢が2本突き刺さる。余裕の表情でかわした少女は肩を竦めて三つ編みの先をくるりと指先で回した。

「なぜ、この魔女がっ!」

「落ち着け、パウリーネ。今は敵じゃない」

 ルリアージェに近づいた状態で攻撃されることを懸念しているのか、ライラはその場から動かない。逆にルリアージェが歩み寄って、ライラに目線を合わせてしゃがみこんだ。

「ケガはないか?」

「平気よ。攻撃されると予想してたもの」

 大地は水に対して強い。そのため1000年前の戦いで、パウリーネの相手をしたのはライラだった。彼女が戻れば、当然攻撃されると思っていた。かなり感情的な女性なのだ。

 理知的で穏やかなリシュア、攻撃的だが従順なリオネル、彼女はどちらとも違うタイプだった。

「ですが! あなた様と敵対した……」

「だから落ち着け。今から説明する」

 手を引っ張って椅子に強引に座らせたジルが、大きな溜め息を吐く。その様子に、パウリーネは申し訳なさそうに項垂れた。主に迷惑をかけたと反省しているらしい。

「リア、ライラからすこし離れて」

 万が一を考えて頼むと、ルリアージェは躊躇いなく首を横に振った。

「いやだ」

「ならいい。守るから」

 結界を三重に張ったジルが苦笑いする。自分から距離を置こうとするライラの横をすり抜け、ルリアージェの手を取るとソファに座らせた。隣に座ったジルの柔らかな表情に、パウリーネが絶句する。

「何を騒いで……ああ、解放されたのですね。パウリーネ」

 ジルに関する騒動に気付いたのか、リオネルが突然広間に現れた。黒い床にうまれた闇から現れたリオネルは魔法陣を経由しない。転移に関する能力を生まれ持ったため、魔力や魔法陣を使わずに転移を行えるのだ。

 全身を現すとジルに一礼し、自分と対を成す眷属に目を向けた。まさに炎と氷のようだ。外見も内面も対照的だった。
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