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第十三章 龍炎と氷雷の舞

第36話 龍炎が舞う戦場(2)

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 猫舌であるルリアージェへの注意を忘れない。ジルは隣の椅子に腰掛けると、幸せそうに食事の世話を焼き始めた。彼女が顔を上げるとパンを手元の皿にとりわけ、何かを探す素振りでドレッシングを用意する。ひな鳥の面倒を見る親鳥のようだ。

「ジルは本当にリアが好きなのね」

 好きという単語で表現しきれないほどの重い愛情を示すジルだが、ルリアージェがその重さに気付いていないのが幸いだ。天然すぎる彼女でなければ、おそらく逃げ出していただろう。

 ルリアージェが望めば世界すら滅ぼしかねない重さなのだが……。

「皆はもう食べたのか?」

 半分ほど食べたところで気付いて小首をかしげる仕草に、ジルはくすくす笑い出す。ライラも肩を竦めて椅子に腰掛けた。離れていたリシュアもジルの隣に座る。

 全員座ったところで、改めて食卓を囲んだ。

「ところで、リオネルは?」

 果汁を入れた水を飲みながら尋ねるジルへ、リシュアが穏やかな声で答えた。

「何やら調査があると出かけました。数日中に戻るでしょう」

「そっか」

 いつものことなのか、気にせずジルはパンに手を伸ばす。追加された食事に、ライラはスコーンなどの焼き菓子と木の実を並べた。真っ白な木の実を齧る姿は狐の尻尾や耳のせいで、小動物のようだ。

「ねえ、誰か来たわよ?」

 ぴくっと動いた耳のあと、ライラは天気の話をするように切り出した。とうに気付いているジルは溜め息を吐いて、ルリアージェの口についたケチャップを拭き取る。

「外の様子みてくるから、食べ終えてもこの部屋にいてね。用があったら呼べばいいから」

 幼子に言い聞かせるように話すと、ジルの足元に魔法陣が浮かぶ。一瞬で姿を消した青年の後を追って、一礼したリシュアが続いた。

「今度は誰だ?」

 デザート用の果物を口に運びながら、無邪気に尋ねるルリアージェはすっかり魔族がらみの騒動に慣れていた。怖がって悲鳴をあげればいいとは思わないが、さすがに慣れすぎでしょうとライラは苦笑いを浮かべる。

「そうね、予想だけど……魔王に傾倒していない魔性かしら」

 心当たりがあるのは、3人ほどだ。まずは龍炎のラヴィア、次に氷雷レイリ、変わり者の天声アデーレと続くが、可能性が一番高いのは戦闘狂で有名なラヴィアだろう。

「誰が来ても、ジル達に勝てないと思うけれど」

 手馴れた様子で果物の皮を剥くライラが、ルリアージェの皿に切り分けた果物を並べていく。ジルが誘わないのだから、戦う人手は足りると考えてよかった。最後に紅茶を用意して差し出せば、銀髪の美女は柑橘系の果物を沈めて香りを楽しむ。

 優雅な時間が流れる城の外では、戦いが始まろうとしていた。



「待ちかねたぞ、ジフィール」
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