167 / 386
第十二章 死神の城
第32話 呼ばなくても現れる客(3)
しおりを挟む
トルカーネにとって配下と呼ぶレベルに到達していない。擁護するフリをしてばっさり切り捨てたライラは、挑発するように周囲に複数の魔法陣を描いた。理解して解除する能力がない魔物にとって、魔法陣は恐怖の対象でしかない。
格の違いを見せ付ける少女は、目の前に現れた魔法陣に眉を顰めた。鮮やかな赤を纏った魔法陣は転移用だが、ジルの城がある空間に直接転移してくる強者に嫌な予感がする。
「いやだ、マリニスじゃない」
真っ赤な髪と瞳の青年に舌打ちする。転移魔法陣から姿を現した少年は、きっちりと髪を後ろでひとつに括っていた。切れ目がちのキツい印象の瞳がライラに向くと、驚いたように少し見開かれた。
「大地の魔女ライラか」
なぜここにと問う必要はない。彼らにとって味方も敵も同じようなものだ。共同戦線を張ったとしても、気分次第でどちらにも転ぶのが魔性の性格だった。
「ジフィールに挨拶に寄ったのだが、奴はどこだ?」
「城の中で美女と一緒よ。今は来ないわ」
間違っていないが、随分荒っぽい説明だった。ライラの言葉が終わった直後、マリニスは長袍の袖から刀を引き抜く。実際に袖の中に隠されていたのではなく、ジルの亜空間に似た空間から引き出したのだろう。三日月のような形に反った刀の先は大きく二つに割れていた。
かつてジルと戦った際も、マリニスはこの龍刀と呼ぶ武器を愛用した。良く見れば、名の通り龍と呼ばれる架空の生物が刀身に彫刻されている。
「ならば、呼び出すまで」
「させるわけないでしょう!」
マリニスが振るった龍刀から炎が城を切りつけ、間に飛び出したリシュアが水の盾で防いだ。一瞬で水の盾が沸騰し、水蒸気爆発を起こす。爆音と衝撃に巻き込まれた魔物が吹き飛んだ。
「…リシュア、もう少し考えなさいよ。風で防げばよかったのに」
高温の蒸気が立ち込める中、ライラは文句を言いながら長い髪を引き寄せた。蒸気のせいで髪が丸まって巻き毛のようになっている。唇を尖らせて抗議する少女の隣で、リシュアは申し訳なさそうに眉尻をさげた。
「すみません、次は氷にしますね」
「なぁんだ。まだ遊んでるのか? 煩すぎだ」
空中に現れた魔法陣からジルが現れる。高温の蒸気に舌打ちして、翼を広げた。途端に涼しい風が生まれて蒸気を押し流す。空間に満たした霊力が翼もつ者の願いに反応した形だった。願うだけでいい。魔力も魔法陣も必要なかった。
「さてと……マリ……なんだっけ? まあいいや、呼ばれてないのに顔出しやがって…迷惑だ」
「貴様、俺を愚弄するか!」
「やだ、ジルったらお茶目さんね」
笑い出したライラと怒るマリニス、リシュアは考えの読めない仮面のような笑みを貼り付けている。どちらにも味方しないあたり、賢い処世術かもしれない。
城を維持するために作り出した空間を見回し、魔物だらけの状況に溜め息を吐いた。何もない空中に浮かんだ城の下は、奈落のようで先が見えない。すでに落ちた魔物を数えるように目をこらしたジルが舌打ちした。
「せっかく整えたお気に入りの場所だぞ。ゴミを捨てるな」
敗れて落ちた魔物から立ち上る魔力を風で巻き上げて、右手で器用に操る。左手に浮かべた魔法陣へと吸い込ませて、魔力の竜巻を消した。
「これでよし」
簡単そうに行われた”片付け”の非常識さに、マリニスは目を瞠り、ライラとリシュアは顔を見合わせた。
格の違いを見せ付ける少女は、目の前に現れた魔法陣に眉を顰めた。鮮やかな赤を纏った魔法陣は転移用だが、ジルの城がある空間に直接転移してくる強者に嫌な予感がする。
「いやだ、マリニスじゃない」
真っ赤な髪と瞳の青年に舌打ちする。転移魔法陣から姿を現した少年は、きっちりと髪を後ろでひとつに括っていた。切れ目がちのキツい印象の瞳がライラに向くと、驚いたように少し見開かれた。
「大地の魔女ライラか」
なぜここにと問う必要はない。彼らにとって味方も敵も同じようなものだ。共同戦線を張ったとしても、気分次第でどちらにも転ぶのが魔性の性格だった。
「ジフィールに挨拶に寄ったのだが、奴はどこだ?」
「城の中で美女と一緒よ。今は来ないわ」
間違っていないが、随分荒っぽい説明だった。ライラの言葉が終わった直後、マリニスは長袍の袖から刀を引き抜く。実際に袖の中に隠されていたのではなく、ジルの亜空間に似た空間から引き出したのだろう。三日月のような形に反った刀の先は大きく二つに割れていた。
かつてジルと戦った際も、マリニスはこの龍刀と呼ぶ武器を愛用した。良く見れば、名の通り龍と呼ばれる架空の生物が刀身に彫刻されている。
「ならば、呼び出すまで」
「させるわけないでしょう!」
マリニスが振るった龍刀から炎が城を切りつけ、間に飛び出したリシュアが水の盾で防いだ。一瞬で水の盾が沸騰し、水蒸気爆発を起こす。爆音と衝撃に巻き込まれた魔物が吹き飛んだ。
「…リシュア、もう少し考えなさいよ。風で防げばよかったのに」
高温の蒸気が立ち込める中、ライラは文句を言いながら長い髪を引き寄せた。蒸気のせいで髪が丸まって巻き毛のようになっている。唇を尖らせて抗議する少女の隣で、リシュアは申し訳なさそうに眉尻をさげた。
「すみません、次は氷にしますね」
「なぁんだ。まだ遊んでるのか? 煩すぎだ」
空中に現れた魔法陣からジルが現れる。高温の蒸気に舌打ちして、翼を広げた。途端に涼しい風が生まれて蒸気を押し流す。空間に満たした霊力が翼もつ者の願いに反応した形だった。願うだけでいい。魔力も魔法陣も必要なかった。
「さてと……マリ……なんだっけ? まあいいや、呼ばれてないのに顔出しやがって…迷惑だ」
「貴様、俺を愚弄するか!」
「やだ、ジルったらお茶目さんね」
笑い出したライラと怒るマリニス、リシュアは考えの読めない仮面のような笑みを貼り付けている。どちらにも味方しないあたり、賢い処世術かもしれない。
城を維持するために作り出した空間を見回し、魔物だらけの状況に溜め息を吐いた。何もない空中に浮かんだ城の下は、奈落のようで先が見えない。すでに落ちた魔物を数えるように目をこらしたジルが舌打ちした。
「せっかく整えたお気に入りの場所だぞ。ゴミを捨てるな」
敗れて落ちた魔物から立ち上る魔力を風で巻き上げて、右手で器用に操る。左手に浮かべた魔法陣へと吸い込ませて、魔力の竜巻を消した。
「これでよし」
簡単そうに行われた”片付け”の非常識さに、マリニスは目を瞠り、ライラとリシュアは顔を見合わせた。
0
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる