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第十一章 迷惑な客
第28話 迷惑すぎる来客(1)
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「お嬢さんたち、昼間もいただろう。着替えてきたのか?」
スリを逃がした飲み物屋台のおじさんだった。花火に合わせて移動するのが屋台の便利さだと笑って告げる彼は、毎年同じように夜は公園へ移動しているのだろう。
「よくわかったわね」
ライラが首を振ると、しゃらんしゃらんと金属の簪が涼やかな音を立てる。
「これだけの美男美女が自国の衣装に着替えたってのに、気付かないほど耄碌しちゃいないぜ。うまい麦酒があるが、飲んでいくか?」
昼間にジルが渡された透明な酒ではなく、薄茶色をした酒を勧められた。小さな泡がびっしりと瓶の中に張り付いている。細長い瓶に入れられた紅茶色の酒に興味を示すルリアージェに笑い、ジルが2本頼んだ。
「まいどあり」
受け取った瓶は冷たい。ひんやりした瓶に驚くルリアージェは、屋台の大きな甕を覗き込んだ。素焼きの甕は半分ほど水が張られており、瓶は水に触れないようぶら下げてある。
「気化熱か」
蒸発を促す魔法陣が描かれた甕の内側は、ひんやりしている。蒸発時に奪われる熱の恩恵で、瓶の酒が冷える仕組みだった。魔法陣を真剣に眺めるルリアージェが眉を顰める。
「ジル、この魔法陣……おかしい」
言われて後ろから肩を抱いて覗き込んだジルが、小首をかしげた。確かに多少効率が悪そうだが、機能しないほどの問題点は見受けられない。ルリアージェが何を「おかしい」と判断したかわからず、彼女が身を起こすのを待った。
覗きこんでいた甕から離れたルリアージェが座り込み、拾った枝の先で地面に魔法陣を書き写す。すべてを書き終わると、中央より1列外側の線を指し示した。
「ここだ」
ルリアージェが問題視したのは、冷やすための蒸発を促すエネルギーである魔力の供給源だった。通常は魔術師が描いた魔法陣に魔力を流すのは、人間だ。この場で言うなら、甕を冷やす魔力は屋台のおじさんが供給する形になる。しかし、この魔法陣に供給者の記述はなかった。
指定されない魔力をどこから供給しているのか。
「リアが何を疑問に思ってるのか、わかった」
「そうね、人族にはわかりにくいかもしれないわ」
上級魔性達は顔を見合わせると、ルリアージェに説明を始めた。
「この魔法陣の中央付近にある小さな記号が、魔力の供給源を示してる。この記号から読み解けるのは、周囲の人間から溢れる僅かな浮遊魔力を集めている術式だ」
スリを逃がした飲み物屋台のおじさんだった。花火に合わせて移動するのが屋台の便利さだと笑って告げる彼は、毎年同じように夜は公園へ移動しているのだろう。
「よくわかったわね」
ライラが首を振ると、しゃらんしゃらんと金属の簪が涼やかな音を立てる。
「これだけの美男美女が自国の衣装に着替えたってのに、気付かないほど耄碌しちゃいないぜ。うまい麦酒があるが、飲んでいくか?」
昼間にジルが渡された透明な酒ではなく、薄茶色をした酒を勧められた。小さな泡がびっしりと瓶の中に張り付いている。細長い瓶に入れられた紅茶色の酒に興味を示すルリアージェに笑い、ジルが2本頼んだ。
「まいどあり」
受け取った瓶は冷たい。ひんやりした瓶に驚くルリアージェは、屋台の大きな甕を覗き込んだ。素焼きの甕は半分ほど水が張られており、瓶は水に触れないようぶら下げてある。
「気化熱か」
蒸発を促す魔法陣が描かれた甕の内側は、ひんやりしている。蒸発時に奪われる熱の恩恵で、瓶の酒が冷える仕組みだった。魔法陣を真剣に眺めるルリアージェが眉を顰める。
「ジル、この魔法陣……おかしい」
言われて後ろから肩を抱いて覗き込んだジルが、小首をかしげた。確かに多少効率が悪そうだが、機能しないほどの問題点は見受けられない。ルリアージェが何を「おかしい」と判断したかわからず、彼女が身を起こすのを待った。
覗きこんでいた甕から離れたルリアージェが座り込み、拾った枝の先で地面に魔法陣を書き写す。すべてを書き終わると、中央より1列外側の線を指し示した。
「ここだ」
ルリアージェが問題視したのは、冷やすための蒸発を促すエネルギーである魔力の供給源だった。通常は魔術師が描いた魔法陣に魔力を流すのは、人間だ。この場で言うなら、甕を冷やす魔力は屋台のおじさんが供給する形になる。しかし、この魔法陣に供給者の記述はなかった。
指定されない魔力をどこから供給しているのか。
「リアが何を疑問に思ってるのか、わかった」
「そうね、人族にはわかりにくいかもしれないわ」
上級魔性達は顔を見合わせると、ルリアージェに説明を始めた。
「この魔法陣の中央付近にある小さな記号が、魔力の供給源を示してる。この記号から読み解けるのは、周囲の人間から溢れる僅かな浮遊魔力を集めている術式だ」
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