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第十章 サークレラ
第26話 祭りの後の大捕り物(2)
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言われた通り、ドレスであればあり得ない色の組み合わせも多数見受けられる。違和感なく美しさを保っているバランスは見事だった。
「確かに不思議な色合わせだ」
「サークレラの初代王妃の好みが反映されてるの。独特な感性で、あたくしは彼女にもらったスカーフをまだ持っているのよ」
ライラがひらひらと取り出して見せたスカーフは、確かに珍しい色合いだった。全体に緑の淡い色がぼかしながら広がるが、中央に紫の花が描かれている。茎は赤、葉の色は青で縁に金があしらわれている。絶妙なバランスで、配色されたスカーフをライラは首にくるりと飾った。
「特別なときだけ着けるの。古すぎて痛んでしまうから」
どうやらリシュア国王の愛した初代王妃と仲が良かったらしい。大切にされたスカーフは、色褪せることなく美しさを保っている。
すこし強い風が吹いた。白い花がひらひらと花びらを落とす様が、まるで雪のようだ。鮮やかな民族衣装と振り続ける花びらが、幻想的な景色を生み出した。
「この国は戦がなかったから、国民も穏やかなのだな」
他国との戦を外交で回避してきた国王のおかげで、戦火に焼かれることがなかった。ここ数百年で、一度も他国の侵略を受けていない国はサークレラのみ。
実力行使で戦を仕掛けることも可能なリシュアが、人の世のルールに従い上手に舵取りをした結果だった。常に中立を守るこの国は、しかし攻め込む他国に対して容赦をしない。攻め込まれなければ手を出さないが、一度でも攻撃の拳を振り上げれば強烈な反撃で叩きのめしてきた。
魔性らしからぬ手法は、この国を確かに守ってきたのだ。
「この竹の器は捨てるのかしら?」
きょろきょろと周囲を見回すライラへ、地元のおじさんが声をかける。しゃがみこんで目線を合わせる仕草は、子供の相手に慣れているようだった。
「お嬢ちゃん、器は店に返すといい。僅かだがお金が返るぞ」
「本当? 素敵な方法だわ。ありがとう」
素直に子供のフリをして応じるライラが手を振り、おじさんを見送った。他国民に優しいのは、サークレラの政情が安定している証拠だ。
「では返しに行くか」
「リア、手を繋いで」
子供の外見で手を伸ばされると、1500年も生きた『大地の魔女』と呼ばれる魔性だと知っていても、ルリアージェは甘くなってしまう。手を繋げば、反対の手から器を奪われた。2人分の器を持ったジルが、当然のように手を繋ぐ。
3人で並んで歩くことになり、祭りの喧騒の中では少し邪魔だろう。だが祭りで逸れないよう手を繋ぐ親子も少なくないため、微笑ましげに見送る人がほとんどだった。なんだか擽ったい気分になる。
「おじさん、この器はここへ返せばいいの?」
「こっちだ。ありがとうよ、お嬢ちゃん。3つか?」
「確かに不思議な色合わせだ」
「サークレラの初代王妃の好みが反映されてるの。独特な感性で、あたくしは彼女にもらったスカーフをまだ持っているのよ」
ライラがひらひらと取り出して見せたスカーフは、確かに珍しい色合いだった。全体に緑の淡い色がぼかしながら広がるが、中央に紫の花が描かれている。茎は赤、葉の色は青で縁に金があしらわれている。絶妙なバランスで、配色されたスカーフをライラは首にくるりと飾った。
「特別なときだけ着けるの。古すぎて痛んでしまうから」
どうやらリシュア国王の愛した初代王妃と仲が良かったらしい。大切にされたスカーフは、色褪せることなく美しさを保っている。
すこし強い風が吹いた。白い花がひらひらと花びらを落とす様が、まるで雪のようだ。鮮やかな民族衣装と振り続ける花びらが、幻想的な景色を生み出した。
「この国は戦がなかったから、国民も穏やかなのだな」
他国との戦を外交で回避してきた国王のおかげで、戦火に焼かれることがなかった。ここ数百年で、一度も他国の侵略を受けていない国はサークレラのみ。
実力行使で戦を仕掛けることも可能なリシュアが、人の世のルールに従い上手に舵取りをした結果だった。常に中立を守るこの国は、しかし攻め込む他国に対して容赦をしない。攻め込まれなければ手を出さないが、一度でも攻撃の拳を振り上げれば強烈な反撃で叩きのめしてきた。
魔性らしからぬ手法は、この国を確かに守ってきたのだ。
「この竹の器は捨てるのかしら?」
きょろきょろと周囲を見回すライラへ、地元のおじさんが声をかける。しゃがみこんで目線を合わせる仕草は、子供の相手に慣れているようだった。
「お嬢ちゃん、器は店に返すといい。僅かだがお金が返るぞ」
「本当? 素敵な方法だわ。ありがとう」
素直に子供のフリをして応じるライラが手を振り、おじさんを見送った。他国民に優しいのは、サークレラの政情が安定している証拠だ。
「では返しに行くか」
「リア、手を繋いで」
子供の外見で手を伸ばされると、1500年も生きた『大地の魔女』と呼ばれる魔性だと知っていても、ルリアージェは甘くなってしまう。手を繋げば、反対の手から器を奪われた。2人分の器を持ったジルが、当然のように手を繋ぐ。
3人で並んで歩くことになり、祭りの喧騒の中では少し邪魔だろう。だが祭りで逸れないよう手を繋ぐ親子も少なくないため、微笑ましげに見送る人がほとんどだった。なんだか擽ったい気分になる。
「おじさん、この器はここへ返せばいいの?」
「こっちだ。ありがとうよ、お嬢ちゃん。3つか?」
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