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第八章 捏造された歴史
第22話 知らずに増える配下たち(6)
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「魔王様のため、多少の犠牲はしかたあるまい。そこの男を……」
「あたくしを、リアを、多少ですって?!」
橙髪の魔性の声を、ライラの叫びが遮った。幼い少女姿のライラに視線を向け、そこで初めて『大地の申し子であり魔女』だと気付いたらしい。何かいい訳じみた言葉を口にしようとしたが、ライラの攻撃の方が早かった。
すばやく左手に魔法陣を重ねて右手を乗せる。右手には別の魔法陣が乗せられていた。両方が重なったとたん、魔法陣は溶け合ってひとつになる。作りかけの魔法陣を補強したライラが頭の上に魔法陣をかざした。両手で魔法陣を支える形で魔力を注ぐ。
≪妾の手は空を掴む、我は怒りを降らせる者なり≫
聞いたことのない言語が紡がれ、ジルは足元の魔法陣を爪先でつつく。一瞬で文様が描き直された。新たな魔法陣を描いたのではなく、何か機能を足したらしい。反射的に足元の魔法陣に集中したルリアージェの耳を、ジルの白い手がそっと押さえた。
ドン!!
派手な音で雷が落ちる。黒い床にヒビが入って足元の魔法陣の縁で止まった。音を防ぐ魔法陣を追加したが、それでも人の身であるルリアージェを気遣ったジルが苦笑いして手を離す。
雷は魔性を貫くが、その際に残っていた天井を粉々に吹き飛ばしていた。粉々に割れたガラスは色鮮やかな塵となって宙に舞う。どうやら相当細かく砕いてしまったようだ。
「ライラ、もう少し威力を抑えろ」
「だから、あたくしはジルの配下じゃないって言ったでしょ!!」
まだ怒りが収まらないらしい、ライラはヒステリックに叫んで両手の魔法陣を消す。怒りに焼かれた空気を使って雷を起こしたのは、彼女が精霊王の子供であり、魔性より精霊寄りの力を受け継いだ所為だろう。
「ライラは凄いな」
雷は魔法や魔術で呼び出せるが、ここまで大規模だと自然災害に近い。魔力や精霊を使役できるライラにとって、得意技だった。
「あら、そう?」
得意そうに笑う少女は、茶色い三つ編みの穂先を指先でくるくる回しながら頬を赤らめる。ルリアージェの忌憚ない褒め言葉に照れたらしい。外見相応の可愛らしい仕草だが、実年齢を知るリオネル達はそっと目を逸らした。
「何よ……」
「いえ、何でもありません」
リオネルがにこやかに追求をかわす。くすくす笑い続けるレンが壊れた天井の欠片を拾い上げた。美しい黒く艶のある床もガラスが散らばる、無残な状況だ。
「とりあえず直しておくか」
アスターレンの首都を直した際は、背から羽根を抜いて詠唱を行った。しかしこの城はジルの一部であり、またジルの力を高める媒体でもある。複雑な詠唱も魔法陣も不要だった。
≪戻れ、あるべき姿に≫
左手を無造作に振るう。空中に刻まれた魔法陣に指先が触れると魔力を流した。それだけで欠けて砕けたガラスも、ヒビ割れた床も修復される。もともと壊れても戻せるように、元の姿を魔法陣に刻んであった。それに魔力を流すだけで、城は在りし日の姿を取り戻す。
「これでよし」
「便利ね」
「最初が肝心なんだよ」
レンの指先が魔法陣を弾く。いくつも重なる魔法陣はレース編みの模様に似た繊細さと美しさで、目を楽しませた。普段は織り込まれて見えない魔法陣が、飾りのように広間を埋め尽くす。
「綺麗だな」
「喜んでいただけて何よりだ」
ルリアージェの感嘆の響きに、ジルは額に接吻けながら小声で囁いた。
「あたくしを、リアを、多少ですって?!」
橙髪の魔性の声を、ライラの叫びが遮った。幼い少女姿のライラに視線を向け、そこで初めて『大地の申し子であり魔女』だと気付いたらしい。何かいい訳じみた言葉を口にしようとしたが、ライラの攻撃の方が早かった。
すばやく左手に魔法陣を重ねて右手を乗せる。右手には別の魔法陣が乗せられていた。両方が重なったとたん、魔法陣は溶け合ってひとつになる。作りかけの魔法陣を補強したライラが頭の上に魔法陣をかざした。両手で魔法陣を支える形で魔力を注ぐ。
≪妾の手は空を掴む、我は怒りを降らせる者なり≫
聞いたことのない言語が紡がれ、ジルは足元の魔法陣を爪先でつつく。一瞬で文様が描き直された。新たな魔法陣を描いたのではなく、何か機能を足したらしい。反射的に足元の魔法陣に集中したルリアージェの耳を、ジルの白い手がそっと押さえた。
ドン!!
派手な音で雷が落ちる。黒い床にヒビが入って足元の魔法陣の縁で止まった。音を防ぐ魔法陣を追加したが、それでも人の身であるルリアージェを気遣ったジルが苦笑いして手を離す。
雷は魔性を貫くが、その際に残っていた天井を粉々に吹き飛ばしていた。粉々に割れたガラスは色鮮やかな塵となって宙に舞う。どうやら相当細かく砕いてしまったようだ。
「ライラ、もう少し威力を抑えろ」
「だから、あたくしはジルの配下じゃないって言ったでしょ!!」
まだ怒りが収まらないらしい、ライラはヒステリックに叫んで両手の魔法陣を消す。怒りに焼かれた空気を使って雷を起こしたのは、彼女が精霊王の子供であり、魔性より精霊寄りの力を受け継いだ所為だろう。
「ライラは凄いな」
雷は魔法や魔術で呼び出せるが、ここまで大規模だと自然災害に近い。魔力や精霊を使役できるライラにとって、得意技だった。
「あら、そう?」
得意そうに笑う少女は、茶色い三つ編みの穂先を指先でくるくる回しながら頬を赤らめる。ルリアージェの忌憚ない褒め言葉に照れたらしい。外見相応の可愛らしい仕草だが、実年齢を知るリオネル達はそっと目を逸らした。
「何よ……」
「いえ、何でもありません」
リオネルがにこやかに追求をかわす。くすくす笑い続けるレンが壊れた天井の欠片を拾い上げた。美しい黒く艶のある床もガラスが散らばる、無残な状況だ。
「とりあえず直しておくか」
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「これでよし」
「便利ね」
「最初が肝心なんだよ」
レンの指先が魔法陣を弾く。いくつも重なる魔法陣はレース編みの模様に似た繊細さと美しさで、目を楽しませた。普段は織り込まれて見えない魔法陣が、飾りのように広間を埋め尽くす。
「綺麗だな」
「喜んでいただけて何よりだ」
ルリアージェの感嘆の響きに、ジルは額に接吻けながら小声で囁いた。
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