99 / 386
第八章 捏造された歴史
第22話 知らずに増える配下たち(2)
しおりを挟む
「器用だな」
感心したジルの声色に、騙された悔しさはない。本気で戦った場面で使われたら顔を顰めただろうが、逃げるトカゲが尻尾を切り落とした程度の感覚だった。また生えてきたのであっても、他人の手を人身御供に差し出したのであっても、大差なかった。
笑い話で済ませる彼らは、まさに人外の集まりだ。ライラが持ち込んだタルトを食べていたルリアージェは、手についた粉を払ってから紅茶を飲み干す。
「ルリアージェはマイペースだな」
苦笑いしたジルが手を伸ばすより早く、リオネルがポットから紅茶を注ぐ。新しいタルトを選んだルリアージェが、小首をかしげた。
「お前と付き合えば、嫌でもマイペースになる。合わせていたら身が保たない」
当然のように言われた内容に、人外たちは顔を見合わせた。
「え、ルリアージェ。それは酷い」
ショックを受けるジルをよそに、他の面々は納得して頷く。
「まあ、懸命な判断だな」
「レンさんの言う通りですね。確かにジル様に合わせるのは大変ですから」
「リアが正しいわね。あたくしも精霊に近いからジルは好きだけれど、やっぱり大変だもの」
口々に大変だと繰り返され、ジルが頭を抱える。爆弾発言の主は落ち込むジルの黒髪を弄りながら、無邪気に言葉を重ねた。
「大変だが、嫌いになれないのは不思議だ」
「ルリアージェ」
感動しているジルへ、空になった紅茶のカップを差し出す。もしかして、便利だから嫌いになれないとか? 無言でカップを受け取って紅茶を注ぐジルの心の中は、複雑な感情に埋め尽くされていた。
「リア」
愛称で呼ぶ少女を振り返る。耳が水晶柱になった少女は、人とも魔性とも違う姿と力を持っていた。魔王に匹敵する実力者でありながら、見た目は幼い子供に過ぎない。茶色の長い三つ編みを指先でくるりと回し、緑の瞳を細めて笑う。
「あたくし、あなたと主従の契約をしたいわ」
「ダメ」
なぜかジルが当然のように断る。大人気ないジルを無視して、ライラはふわりと椅子から下りた。広間の黒い床は音もなく彼女を受け止める。冷たくて固そうな床は大理石に似た輝きを放っていた。その床に膝をついて、ルリアージェの裾を持ち上げる。
「大地の精霊王の娘、大地の申し子にして大地の魔女である者――我ライラは、ルリアージェ様に仕えることを誓う」
言霊が世界に刻まれる。誓約となって響いた声に、ルリアージェは驚いて目を瞠った。魔力も魔法陣もないのに、言葉は嘘偽りのない真実として届く。
人族が行う魔族との契約は、従属契約だった。人間がレベルの低い魔物を使役するための契約は、上下がはっきりしている。飼い主とペットのように、超えることの出来ない壁が存在した。しかしライラの契約にそういった制約を感じない。
「……人間だぞ?」
感心したジルの声色に、騙された悔しさはない。本気で戦った場面で使われたら顔を顰めただろうが、逃げるトカゲが尻尾を切り落とした程度の感覚だった。また生えてきたのであっても、他人の手を人身御供に差し出したのであっても、大差なかった。
笑い話で済ませる彼らは、まさに人外の集まりだ。ライラが持ち込んだタルトを食べていたルリアージェは、手についた粉を払ってから紅茶を飲み干す。
「ルリアージェはマイペースだな」
苦笑いしたジルが手を伸ばすより早く、リオネルがポットから紅茶を注ぐ。新しいタルトを選んだルリアージェが、小首をかしげた。
「お前と付き合えば、嫌でもマイペースになる。合わせていたら身が保たない」
当然のように言われた内容に、人外たちは顔を見合わせた。
「え、ルリアージェ。それは酷い」
ショックを受けるジルをよそに、他の面々は納得して頷く。
「まあ、懸命な判断だな」
「レンさんの言う通りですね。確かにジル様に合わせるのは大変ですから」
「リアが正しいわね。あたくしも精霊に近いからジルは好きだけれど、やっぱり大変だもの」
口々に大変だと繰り返され、ジルが頭を抱える。爆弾発言の主は落ち込むジルの黒髪を弄りながら、無邪気に言葉を重ねた。
「大変だが、嫌いになれないのは不思議だ」
「ルリアージェ」
感動しているジルへ、空になった紅茶のカップを差し出す。もしかして、便利だから嫌いになれないとか? 無言でカップを受け取って紅茶を注ぐジルの心の中は、複雑な感情に埋め尽くされていた。
「リア」
愛称で呼ぶ少女を振り返る。耳が水晶柱になった少女は、人とも魔性とも違う姿と力を持っていた。魔王に匹敵する実力者でありながら、見た目は幼い子供に過ぎない。茶色の長い三つ編みを指先でくるりと回し、緑の瞳を細めて笑う。
「あたくし、あなたと主従の契約をしたいわ」
「ダメ」
なぜかジルが当然のように断る。大人気ないジルを無視して、ライラはふわりと椅子から下りた。広間の黒い床は音もなく彼女を受け止める。冷たくて固そうな床は大理石に似た輝きを放っていた。その床に膝をついて、ルリアージェの裾を持ち上げる。
「大地の精霊王の娘、大地の申し子にして大地の魔女である者――我ライラは、ルリアージェ様に仕えることを誓う」
言霊が世界に刻まれる。誓約となって響いた声に、ルリアージェは驚いて目を瞠った。魔力も魔法陣もないのに、言葉は嘘偽りのない真実として届く。
人族が行う魔族との契約は、従属契約だった。人間がレベルの低い魔物を使役するための契約は、上下がはっきりしている。飼い主とペットのように、超えることの出来ない壁が存在した。しかしライラの契約にそういった制約を感じない。
「……人間だぞ?」
0
お気に入りに追加
280
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~
夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。
「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。
だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。
時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。
そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。
全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。
*小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる