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第六章 幻妖の森
第18話 幻妖の森の迷子たち(3)
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「キレイだな」
「あの花は食べられる」
「……え?」
食べられる色に思えなかった。ほぼ黒に近く、ビロードに似た厚みのある花びらは毒々しい。よく見れば、斑模様に紫と紺が混じっているようだ。
「あれが……か」
「そう、意外だろ? たぶん捕食されないように擬態してる。煮ると甘くて、柑橘系の果実に近い香りがするぞ」
ルリアージェが思い浮かべたのは、柑橘類のジャムだった。だが黒色の花から、爽やかな柑橘の味が想像できない。最終的に脳裏に浮かんだ物体は、黒いタールのような液体だった。
「食べたいなら作ってやろうか?」
簡単そうに言うが、植物の周囲はうねうね動く蔦や触手みたいな植物が蠢いていた。あれらを避けて取りに行くのも大変なら、採取時に木に襲われない保障もなかった。帰りに後ろから締め付けられたら最悪だ。
そもそも想像通りの黒いタール状の何かが出来上がるなら、危険を冒す必要があるだろうか。
無言で首を横に振るルリアージェに対し、ジルはけろりとした様子で「そう? 美味しいけどね」と妙にずれた発言をしている。人とは明らかに感覚が違う。
「ところで……なぜここに来たんだ?」
「だから、迷子」
最初の疑問に立ち戻ったルリアージェの銀髪を指で弄りながら、ジルは苦笑いする。花で話を逸らしていたのだと気付いても、容赦してやる理由にならなかった。
「迷子? 転移先の状況は分かっていた筈だ」
「うーん、転移の座標計算は合ってるんだけど……何ていうのかな。1000年の間に森が移動してた」
意外な告白に、ルリアージェは言葉を失った。
「オレが知ってるこの場所は、湖のほとりだったんだよね」
妙に人間くさい仕草で小鼻をかいている姿は、アティン帝国に続いてアスターレンを滅ぼしかけた『大災厄』というより、ちょっとドジだが顔のいいお兄さんだった。もちろん、中身がそんな可愛い表現が似合う存在でないとしても。
「つまり……」
言葉を選んで現状を認めようとしないジルに、ルリアージェは最後の答えを求める。その後ろをレインボーの茂みが走り、茂みを追いかける真っ赤な蔦が伸び、さらに触手か大きなミミズのような枝が纏めて茂みを捕まえていた。ある意味カオスな状況が繰り広げられる空間で、ルリアージェは最終通告を待つ。
「うん、オレの知る座標は一切当てにならない」
「あの花は食べられる」
「……え?」
食べられる色に思えなかった。ほぼ黒に近く、ビロードに似た厚みのある花びらは毒々しい。よく見れば、斑模様に紫と紺が混じっているようだ。
「あれが……か」
「そう、意外だろ? たぶん捕食されないように擬態してる。煮ると甘くて、柑橘系の果実に近い香りがするぞ」
ルリアージェが思い浮かべたのは、柑橘類のジャムだった。だが黒色の花から、爽やかな柑橘の味が想像できない。最終的に脳裏に浮かんだ物体は、黒いタールのような液体だった。
「食べたいなら作ってやろうか?」
簡単そうに言うが、植物の周囲はうねうね動く蔦や触手みたいな植物が蠢いていた。あれらを避けて取りに行くのも大変なら、採取時に木に襲われない保障もなかった。帰りに後ろから締め付けられたら最悪だ。
そもそも想像通りの黒いタール状の何かが出来上がるなら、危険を冒す必要があるだろうか。
無言で首を横に振るルリアージェに対し、ジルはけろりとした様子で「そう? 美味しいけどね」と妙にずれた発言をしている。人とは明らかに感覚が違う。
「ところで……なぜここに来たんだ?」
「だから、迷子」
最初の疑問に立ち戻ったルリアージェの銀髪を指で弄りながら、ジルは苦笑いする。花で話を逸らしていたのだと気付いても、容赦してやる理由にならなかった。
「迷子? 転移先の状況は分かっていた筈だ」
「うーん、転移の座標計算は合ってるんだけど……何ていうのかな。1000年の間に森が移動してた」
意外な告白に、ルリアージェは言葉を失った。
「オレが知ってるこの場所は、湖のほとりだったんだよね」
妙に人間くさい仕草で小鼻をかいている姿は、アティン帝国に続いてアスターレンを滅ぼしかけた『大災厄』というより、ちょっとドジだが顔のいいお兄さんだった。もちろん、中身がそんな可愛い表現が似合う存在でないとしても。
「つまり……」
言葉を選んで現状を認めようとしないジルに、ルリアージェは最後の答えを求める。その後ろをレインボーの茂みが走り、茂みを追いかける真っ赤な蔦が伸び、さらに触手か大きなミミズのような枝が纏めて茂みを捕まえていた。ある意味カオスな状況が繰り広げられる空間で、ルリアージェは最終通告を待つ。
「うん、オレの知る座標は一切当てにならない」
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