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第四章 王宮炎上

第15話 命の対価(7)

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 指摘された青年はきょとんと目を見開き、「あちゃー、バレたか」と短い赤毛をぐしゃぐしゃかき回す。悪戯がバレた子供みたいな、憎めない雰囲気を纏っていた。

「……ったく。『傍観者』だか知らないが、を傷つけた代償は払わせる」

 右手を振って、手の中に現れた柄を握る。剣の柄は黒く、紫の芯を抱いた半透明の美しい両刃が光を弾いた。見惚れる美しさは、どこか禍々しい印象をもたらす。

「主か。おまえからそんな単語を聞くなんて、長生きはしてみるもんだ」

 くすくす笑って、両手を挙げて降参と示す。薄氷色の淡い瞳が細められ、猫のような瞳孔が細くなる。顔立ちは平凡だが、人懐こい印象を与えた。どこにでもいそうな、普通の人間に見える。

 空間を裂いて現れ、魔性を『代償』を盾にけしかける奴が普通の人間のわけはなく、魔性でも神族の生き残りでもない――世界に弾かれた存在だった。

 ジルを襲った二度目の魔性たちは、おそらくヴィレイシェの信者だろう。彼らに近づき、ジルに一矢酬いる方法を囁いた。女王の後を追う彼らにとって、ジルの大切な主につけた小さな傷は大きな勲章なのだ。

 死神として魔性を狩るジルを傷つける代償として、彼らの命は散ったのだから。

「覚悟は出来たか?」

「え? マジで攻撃するのか? 無駄なのに」

 驚いた途端に広がる瞳孔が少し色を濃くした。本心から驚いたのだろう、顔より目の方が顕著に感情を表す。

 ぽつりと雨粒が落ちた。大量の魔力が放出された地表付近は高温になっており、発生した上昇気流が雨雲を呼んだのだろう。ぽつぽつ落ちる雨は、すぐに音を立てて夕立の降りになった。

 燃え続ける街や王宮の残骸を冷やしながら、けぶるように強い雨が地を叩き、血を洗い流す。強い雨は恵みとなって大地を癒した。

「傍観者は死なない、だっけ? 試してみる価値はあるぞ、レン」

 にやりと笑ったジルの黒髪が雨に濡れて肌に張り付く。

 存外、主であるルリアージェを傷つけられたことに腹が立っていた。守りきれない弱さと油断した甘さ、すべてが棘となって己を責め立てる。

「正確にはんだけど……痛いから遠慮する」

 雨を防ぎながら首を横に振ったレンが、左側の空間を切る。半身を滑り込ませた彼の右腕を肘の上で切り落とした。踏み込んで揮った剣だが、それより上は届かない。

 落ちた腕を残し、切れた空間が閉じた。
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