【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
47 / 386
第四章 王宮炎上

第15話 命の対価(4)

しおりを挟む
「死神を狩れ」

「殺せ!」

 彼らの憎しみが向かう地上の一点で、ジルは口の端に残る赤い血をそのままに笑みを作った。左腕の中に抱いた愛しい女を守るように、彼女を引き寄せる。

 頭上から降り注いだ魔力による攻撃を、同じ魔力によって相殺していく。炎の刃を水の盾で防ぎ、氷の矢を炎で溶かす。繰り返される魔力による攻防は、消耗戦だった。

「……うるさい連中だ」

 苛立ちのままに魔力を揮う。ジルが本来もつ魔力をすべて使えたなら、上級魔性10人程度は一瞬で片付けただろう。かつて魔王3人を相手取って戦ったこともあった。

 封印が不完全に解けたため、今のジルが使えるのは全盛期の1割ほど。庇うルリアージェの存在がなければ、もっと簡単に相手をした。彼女に傷を負わせないよう動かず防戦一方だから、この状況なのだ。

 決定的な切り札がない戦いは膠着こうちゃく状態に陥る。降り注ぐ魔法に、王宮は半分以上崩れた瓦礫と化していた。さらに飛び火した魔法により、首都ジリアンも新たな炎に包まれる。

 ジルが懸念していたのは頭上の魔性達ではない。『代償』と引き換えにを彼らに与えた存在の介入だった。魔王達が封じられて身動きできず、女王が消された今――それほどの実力者がいただろうか。

 封じられた1000年の間に現れたとしたら……。

「面倒くさい」

 ぼやいたジルが美女から一瞬目を離した。己の腕の中ならば安全だと高を括ったのだろう。新たな敵の可能性が、ジルを焦らせた。

 右手を掲げて攻撃の魔法陣を宙に描く。

 青白い光を帯びた魔法陣は、光る文字が次々広がっていく。誰かの手で描かれたように複雑な文様と文字が並ぶ魔法陣は外へ広がり続け、破壊された噴水を覆うほどの巨大な円を作り上げた。

 防御のための魔法陣ではない。彼らの魔法を防ぐなら、魔法で用が足りた。ジルからの反撃を悟った連中が慌てて攻撃の密度を高める。爆発的な炎と風が押し寄せた。

 魔法陣の文字の隙間を縫って、炎が吹き付ける。風の刃がジルの右手を傷つけた。魔法陣構築にほぼすべての魔力を注ぎ込むジルの頬に一筋の傷が走る。赤い血が滴った先を何気なく目で追ったジルは、息を呑んだ。

 あってはならない。
 誰も彼女を傷つけてはならない。
 
 ルリアージェの腕に走る赤い線は、じわじわと太さを増しながら赤い涙を零した。伝う血の色に、ジルの声が震える。

「リ……ア?」



 次の瞬間――

 魔力が爆発した。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。

なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。 王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

処理中です...