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第四章 王宮炎上

第15話 命の対価(2)

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 長い黒髪が風に揺らぎ、まるで水中にいるみたいな動きで浮き上がった。焦げた毛先に気付いて鼻に皺を寄せたジルは不快さを示すと、威嚇するように黒翼を見せつけた。烏に似た青みを帯びた艶を纏う翼は横に大きく広がり、不吉な影を作り出す。

「ヴィレイシェ様の仇っ!」

「お前が死ねば……」

「…あのお方を返せ」

 口々に叫ぶ彼らの手の剣や短剣に、魔法による炎や風を纏わせていた。

 ジルの口角が持ち上がり、機嫌の悪さを如実に示す。尖った牙を見せ付ける笑みで、ただ吐き捨てた。

「無能をオレの所為にしてんじゃねえよ」

 唯一と定めた主を殺された己のミス、危険を承知で諌め切れなかった主への後悔、助けられない力不足……様々な感情を込めた叫びに、痛烈な一言だった。

 復讐を言い訳に自分達を正当化する連中に、ジルが容赦してやる理由などない。そもそも女王ヴィレイシェを殺したのは、あの女がオレに手を出したからだ。

 封印から解放された『大災厄』であるオレは、ルリアージェの隣にいられるだけで良かった。彼女がオレの存在を否定せず、受け入れる現状が嬉しく、同時に満足していたのだ。

 寝た子を起こしたのは女王の不手際だった。ケンカを売られなければ、買う必要はなかったのだから。



≪焼き尽くせ≫

 明確な命令に、火の精霊が彼らを包み込む。武器に添わせた炎は吸収され、青白く魔性たちに襲い掛かる。触れる前から溶けるほど高温の白炎が魔力を燃やしながら揺れた。

 火の精霊を助けるように風が吹き、湿気が消える。水と風の援護を受け、火は『翼ある主』に応えられる己を誇るように、美しい白炎を高々と見せ付けた。

「……これで『対価』は払った」

 指先から燃やされる魔性の不吉な言葉に、ジルが首を傾げた。まるで己の命を対価として、何か契約を結んだような言い方だった。それが条件で、何かが発動する……。

 嫌な予感に、周囲を窺う。魔力の流れ、霊力の渦、精霊達は何も動こうとしない。だが直感めいた不吉さがジルの肌を粟立たせた。

≪我が身を守れ……≫

 精霊が風の壁を作り出す。その内側を霊力で満たした。

 魔力による攻撃ならば霊力で防げる。霊力を操る神族が滅びた今、精霊を従える『翼ある主』はジルだけだった。

 それ故の油断、それ故に生まれた隙……。
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